JAの活動:JA 人と事業2014
【JA 人と事業2014】森田 忠代表理事組合長・JA南彩(埼玉県) 大消費地近接の条件生かす2015年3月25日
多品目の作物を地元市場に
JA南彩は東京都に隣接し、大消費地の東京にもっとも近い農業地帯といっても過言ではない。JAはこの条件を生かし、多品目の野菜を中心とした産地の維持・発展に努めている。特に直営の農産物直売所、それに農協食堂は多様な形態の生産者にとって共通の出荷先であり、地元農作物のPRとともに、消費者との交流の場でもあるという多様な役割を果たしている。森田忠組合長に聞いた。
◆小松菜生産日本で一番
――地域の農業は、どのような特徴がありますか。
森田 東京の都心から30?50km圏内という首都圏への交通条件に恵まれ、都市化が進んでいるものの、青果物の生産量は、県内の他の地域に比べても多い方だと思います。梨とイチゴは県内でもトップクラスにあり、さいたま市岩槻区を中心とする小松菜の生産は県内一です。埼玉県は全国一なので、市町村単位では全国トップクラスの小松菜産地だと自負しています。
農産物の生産額は、米35%、野菜40%と大半を占めています。次いで果実14%などとなっています。地域の特産としては小松菜、梨、イチゴのほか、ブドウ、トマト、キュウリ、クワイ、ホウレンソウなどがあり、消費者のニーズに対応して多品目の作物を作っています。
消費市場に近いということは、消費者の声が直に伝わるという強みがあります。これを生かしたのが直売所や観光農業などの取り組みです。農産物直売所は、JA直営が5か所あり、合わせて約13億円の売り上げがあります。インショップにも力を入れています。
(写真)
森田忠・JA南彩代表理事組合長
◆担い手は所得確保で
――農外の就業機会が多いなかで、農業の担い手は確保できていますか。
森田 全国的にも、ひとつのJAとしては栽培品目が多い方だと思います。農業の担い手は高齢化していますが、若い後継者も生まれています。それは、やはり小松菜やイチゴなど、農業収入の多い作目のあるところです。
特に小松菜の生産は若い人が多く、農協でも期待しています。首都圏で小松菜といえば、東京の江戸川区が知られていますが、これを個人出荷の生産者などが見て、埼玉県でもできるのではないかと考えて導入したのが始まりです。
いまでは、岩槻区を中心に栽培面積が増え、多くのパートタイマーを使って周年出荷する農家も出てきました。農協も販売面で全面的に支援しています。将来とも継続させるために、農協ではいま、平成29年に操業をスタートさせる計画で、集出荷場の建設に取り掛かっています。
農協の出荷量が増え、価格面でロットのメリットを出せるようになり、個人出荷から共販に切り換える農家も増えてきました。集出荷施設は真空予冷の設備を持ち、一層有利な販売ができるようになると期待しています。
◆地元の要望生産に反映
――大都市近郊で、どのような将来の農業ビジョンを描いていますか。
森田 埼玉で最も東に位置し、東京に近いところにあります。この立地を生かし、他の産地にない青果物で勝負したいと思っています。管内には約59万人の人口があり、大きな消費地です。従って、地元の需要も大きく、スーパーなどは地元の農作物を求めています。こうしたニーズに応え、地元で求められるものを生産するための産地づくりが重要だと思っています。
◆5直売所と農協食堂で
――都市化が進み、さまざまな面で地域住民との付き合いが重要になっていると思いますが、そのような対応をしていますか。
森田 都市化という意味では、農協の青壮年部が東京のど真ん中にあるJA東京中央と交流しています。双方で行き来しながら、こちらの農業をみてもらったり、都市農業を視察したりしています。交流を通じて、双方の農業に大きな違いがあることを実感しましたが、都市近郊の農業者という立場は同じだと感じるところが多くありました。相続税を始めとする税金問題など、都市農業の悩みも共通します。農業を維持する上で、周辺の住民への気遣いなどもそうです。
地域の住民と共生するには農業や農協について理解してもらわなければなりません。そのひとつとして農産物の直売は重要な役割をはたしています。25年に農協の事業利用に応じてポイントを付与するJA南彩ポイントカードを導入しました。これによって直売所を中心に農協を利用する人が増え、生産者と消費者が結びつく手立てになっています。
また直売所が開催する定期的なイベントは、生産者と消費者の「ふれあいの場」として、地域の拠点になっています。
もうひとつ、地元で長年親しまれている農協食堂があります。きっかけは、農作物を出荷するために集まった生産者のなかにうどん打ちの上手な人がいて始めたものです。昭和48年のことです。石臼挽きにこだわったそば、県産小麦「あやひかり」を使ったうどんのおいしさが口コミで広がり、県道沿いということもあってドライバーなど、県外のリピーターも多く、いまでは1日平均600人、年間で20万人が利用するほどの人気店になっています。
農協ではオリジナル商品の開発を進めていますが、このそばをつかった乾めんの「南彩そば」も販売しています。
ふるさとの「味」と「心」を売る店と位置付け「また来たい店」づくりへ、一層充実させていくつもりです。メニューはうどん、そばだけではなく、ボリュームがあって安い、地元産の食材を使った農協定食、やはり地元の梨を使った「梨カレー」も評判です。利用者アンケートなどを行い、新メニューの開発に取り組み、さらにお客さんに満足していただける店舗づくりに努めるつもりです。
◆知識と技術一層磨こう
――これからJAの職員にどのようなことを望みますか。
森田 組合員から信頼される知識と技術を持った職員になることを望んでいます。そのためには、現場に近いところで仕事をするよう心掛けていただきたい。特にこれから他の業態との競争が激しくなると予想され、営農・経済事業だけでなく、信用・共済事業も同じです。
支店でいうと、窓口業務だけで満足するのでなく、一歩踏み込んで、新しいことを提案できる知識を身に付け、技術を向上させて欲しいと思います。そしてコンプライアンス(法令遵守)を徹底していただきたい。
これからの産地づくりには優秀なプランナーの確保が欠かせません。技術面では数年前から、県の技術者のOBを技術参与として採用し、「梨の栽培塾」を開いています。希望者が多く、特に最近目立つのは、女性の塾生が増えていることです。これから女性向けの技術指導も必要だと考えています。
――地域活動では、支店の機能も大事です。支店統廃合はどのように取り組んでいますか。
森田 当初の35支店を22支店にする計画で、現在26支店まで減らしました。ただ支店は地域の組合員の拠りどころです。コンプライアンス上の問題もあり、ある程度の規模が必要です。だが廃止する場合、組合員の利便性をが悪くならないよう、十分話し合って組合員や地域の人の同意を得るための努力を惜しんではならない思っています。
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