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シリーズ:農協改革元年

2015.04.10 
人づくり、准組合員活用を 農協は日本農業の屋台骨一覧へ

インタビュー 村田 興文 シンジェンタジャパン会長
・重い「改革」
・輸出も重要な柱
・青臭くても原点に

 政府は農業協同組合法の改正案を4月3日に閣議決定し国会に上程した。地域農協の自由度を高め農業所得の増大をはかることが改革の目的だが、各地域でJAがどう組合員の負託に応える新たな事業を作り出し発展させていくか、これから具体策を提示し実践していくことが最も求められる。今回はアグリビジネスの立場から、シンジェンタジャパンの村田興文会長に農協改革への期待と注文を聞いた。

 ――アグリビジネスの立場から、改めて「農業協同組合」とはどういう組織だとお考えですか。

村田 興文 シンジェンタジャパン会長  日本と日本人の食を支え続けてきた、また、支え続けていく組織、というのが私にとっての農業協同組合です。
 ただ、歴史的に経済合理性の観点から合併を余儀なくされた弊害というものは出てきていると思っています。規模が小さいもともとの単協の時代は、地域に根ざした農協、地元の組合員のための農協というイメージがすごく強かったと思います。
 30数年前現場を回っていた頃、農協の窓口の職員が農家の経営・家族構成等を分かっているなと感じられる場面に何度も遭遇しました。商品を配送するにしても予約時には倉庫のどこに、当用期には圃場のどこに届ければいいのかまでの情報を職員は当然の事のように分かっていました。
 ところが、十年以上経って再び訪問したときには合併でその単協は支所になっていて営農指導部門もなくなり、職員が「組合員があまり立ち寄らなくなった」と寂しげにお話をされていました。時代とともに変わらざるを得ないとは思いますが、合併により規模が大きくなっていく過程で、農協の運営基盤が経済部門からその軸足を金融・共済にシフトしていき、さらにビジネスを維持するために営農指導や農産物の販売戦略構築に十分なリソースを割けなくなってしまったとの悩みもよくお聞きします。
 組合員のための協同組合という価値観が、組織維持強化優先に変わるという負の面が表に現れてきたのだと思います。経済合理性の波が私企業から公共・公的機関さらには農業協同組合まで押し寄せ、その流れに皆が翻弄されている現実を感じます。


◆重い「改革」

 ――今回の農協改革についてJAグループは「農業所得の増大と地域振興に全力をあげる」を掲げています。そのための改革はどうあるべきでしょうか。

 改革という言葉がごく当たり前のように使われていますが、改革とはとてつもなく重い言葉だと思います。
 私は今回の「改革」を「戦略転換」と言葉を置き換えて考えてみました。そこでの懸念は、失礼な言い方ですが戦略転換に必要な人材が育っているかという点です。戦略転換には明確なビジョンが必要です。「将来のあるべき・ありたい姿」の達成に向けて、誰がいつまでに何を、という組織内検討を現実にリードできる人材はどの組織でも不足しています。
 私は今まで30年以上にわたり企業の組織構築に取り組んできました。その経験から申し上げますと、リーダーは戦略転換を実践するための人材育成を最優先とし、必要とあれば時において外部から知識と経験をもつ人材を招聘することも視野に考えることが肝要です。
 改革の目的を農業所得の増大とするなら、それは主業・専業農家の所得増大を意味していると思います。彼らへの重点志向を明確にすることを避けて通るべきではないと考えます。また同時に兼業農家の農業への魅力度回復も重要です。原点回帰は農協自身の挑戦です。
 地域振興という点では行政との共同体制を築くことが重要だと思います。これまでも地産地消を合言葉に学校給食や地元の商工業者にも働きかけておられます。加えて准組合員の組合への貢献の再検討が必要だと思います。準組合員の制限などとネガティブな方法ではなく、より積極的な取り組みが求められます。準組合員は地域住民なのですから。


◆輸出も重要な柱

 所得の増大は日本の人口総消費カロリーが減る以上、国内需要による貢献は考えにくいでしょう。国内農業生産を増大し、農業者そして農協の経済事業の強化にもっていこうとすれば、国内需要依存は農業者・農協同士のパイをめぐる戦いに終始するだけです。何時も申し上げておりますように、視点を成長し続ける海外市場、すなわち輸出に向けることにより所得増大という言葉が現実味をもってきます。それには国内農地の最大活用、農地面積の増大が前提です。
 ここで再認識いただきたい事があります。政府は1兆円の農林水産物輸出というゴールを設定しました。中身は農業分野では主として茶・米それも加工品である日本酒を含めたものです。しかし総輸出金額はそれでも世界の農産物輸出市場の1%にも及ばないという点です。
 生鮮農産物では鮮度保持が限定要因になりますが、過当競争状態の台湾・香港市場から他国市場での展開や、加工食品それも日本食のみではなく新たな相手国向けフードの開発等々を視野に入れればビジネス機会は十分にあります。もっとも中国との国交が正常化し、米の燻蒸や野菜・果実のインポートトレランス整備、世界標準であるグローバルG.A.Pの認証、そして商流と物流整備ができればあっという間に米と生鮮農産物だけで数千億円規模の輸出が可能になるでしょう。これは決して夢ではありません。


◆青臭くても原点に

 ――とくにアグリビジネス界から望まれる農協改革についてはどうお考えですか。

 すでに素晴らしい成果を上げ、組合員から高い信頼を得ているJAと、組合員との距離が広がってしまったJAとの差があるのは事実だと思います。
 もう一度原点に返って農業と農家のための農協であるということを考えていただきたいと思います。金融や共済を無視するわけではありません。ただ農協は農業のため、正組合員のための組織であるという軸をはずさないでいただきたいということです。
 原点に返るというのは青臭いかもしれませんが、そこできちんとした議論ができれば、明確なビジョンとゴールそしてそれを達成させる戦略もできあがっていくと思います。耳触りの良い「地域に貢献する、地域を担う、環境を育む」といったものはビジョンではなく単なるプロパガンダにしか聞こえません。

 ――地域の農協を支える中央・全国機関に対する評価と期待をお聞かせください。

 JAとは組合員がつくった地域から始まる全国組織であって逆ピラミッド構造だ、という言い方をされますが、結果をみれば、大きなピラミッド構造を維持するためJAグループのシステムは出来ていると思います。
 今重要なことは、地域JAが活性化していく戦略や方向性を考える時のノウハウ、ビジネスモデルのあり方なりをシェアし、具体的にビジネスモデルとして支援することが全国組織が担うべき責務だと思います。
 改革は戦略転換と申し上げてきました。ただし考えなければならないのは、その目的は農業者を幸福にする事であるという点です。改革には痛みを伴うと人は言います。おそらく既得権益を失う分野は痛みと評されるでしょう。ただ本当に日本の農業を考える今、農協をそして中央の組織をリードする方々には、戦略転換により組合員、特に主業・専業農家が幸福になり、兼業農家の皆様がより農業主体の農業者になることに魅力を感じるような改革を成し遂げられることを期待いたします。
私どもも日本農業の価値最大化にともに貢献したいと考えています。

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