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シリーズ:緊急寄稿-平成の農協合併を考える

【田代洋一横浜国大・大妻女子大名誉教授】

2018.07.26 
10年後 販売300億目標 JAいわて花巻(1)一覧へ

 JAいわて花巻については、本紙や農協研究会等でたびたび取り上げられてきたが、今回は、東日本における「平成の農協合併」の観点からとりあげる。

◆10年おきに三度の合併

tashiroyoichi.jpg 岩手県の現在のJA数は7つ。東日本では唯一の一桁台だ。1961年に農協合併助成法が制定された当時は236組合だった。助成法下でまず行政単位への合併が目標とされ、現JAいわて花巻管内では1988年に石鳥谷町内4農協が合併、次いで89(平成元)年に花巻市内7農協が合併した。当時は県内63農協で、ほぼ行政単位合併を実現した。
 第二段階として、89~90年に県中央会理事会等で12農協への「自主合併」構想が決議され、92年までにとりあえず50農協程度がめざされた。それを受けて1998年に花巻市農協が石鳥谷町、大迫町、岩手東和町農協と合併し、「JAいわて花巻」が誕生した。はじめての行政を越えた合併経験だった。この時の合併は、財務調整をし対等合併とした。 第三段階として、金融危機・JAバンク化・「農協改革の断行」の下で、2006年にJA岩手グループ組織整備審議会が「JAの経営基盤強化方策」で09年までに6JA体制の実現を打ち出し、県大会は「課題を先送りしない抜本的な解決を図ること」を決議した。その「課題」とは不良債権や不稼働資産の「抜本的処理」だった。
 県下一斉に不良債権等の徹底洗い出しが行われた結果、その処理は県域のみでは不可能なことが判明し、全国支援(資本注入と資金贈与)を仰ぐことになった。県の要処理額のうち半分は県信連が賄い、半分は全国支援を仰ぐことになり、資本注入23.3億円、資金贈与115.2億円になった。その条件として合併の完遂が付された。
 県中から、岩手中部地区ではJAいわて花巻、きたかみ、西和賀、とおのの4JA合併が提起され、組合長協議となった。JAとおのは、赤字解消の見通しが、地価の下落で土地の担保価値が落ちてたたず、JA西和賀も中山間で経営条件が厳しく、いち早く花巻との合併に賛成した。JAきたかみは、工業団地をかかえて若い層も多く、JAいわて花巻のライバル的な存在だったが、赤字に陥っていた。 合併契約書は「JAの将来を展望した結果、信用・共済事業で総体の運営を維持し、組合員と直接かかわる営農・生活指導及び利用事業を支えてきた構図が崩れ、JA改革を断行しなければ健全な経営の持続が困難」と述べている。しかし合併には反対の声も強かった。それに対してJAいわて花巻の藤原徹組合長が各農協を熱心に説いて回った。 地域トップのJAの組織代表が合併を説いたことが合併成就の鍵だった。こうして2008年5月、4市2町にまたがり、太平洋から奥羽山脈までを横串する組合員4.3万人(正組2.5万人)の新JAいわて花巻が誕生した。
 なお、県内6JA構想は、JA岩手ふるさととJ江刺市の合併が不調に終わり、現在は7JAとなっている。

 

◆合併に伴う諸措置

 合併はJAいわて花巻による吸収合併のかたちをとった。本店はJAいわて花巻の本店、支店は29(旧旧農協本店)。総代は1000人、女性10%以上を目標。理事は34名、監事11名。賦課金は正組合員1戸当たり2000円、10a当たり300円、家畜割り100~250円。出資金処理は、JAきたかみとJA西和賀については合併前と同額、JAとおのについては4割に減額。職員は全員引き継ぎ、勤続年数を通算する(『合併契約書』による)。
 園芸手数料は花巻2.5%、その他3.0%だったが、3.0%に合わせた。米の手数料は3.5%で県内では高い方である。農薬は花巻10.5%だったが12.5%へ、前述の賦課金はJA間の中間をとったとしている。
 合併時には出資配当できる状況ではなかった。合併3年後に、出資配当は禁じられていたが、回転出資金として配当をした。現在は出資配当1%を行っており、総額で1億円である(剰余金の14.4%)。

 

◆理事会と地区統括部

 合併時に行政から経営管理委員会制度の導入を強く勧められた。各地の実例を視察するなど真剣に検討したが、結論的には「時期尚早」と見送った。役員の多くは農協職員兼業農家であり、農協のことも農業のことも分かる。そこで敢えて経営担当(学経理事)と経営監視(組織代表としての経営管理委員会)を組織的に分けなくてもいいのではないかというのが理由の一つだった。
 残る最大の論点は、旧JAの位置付け、新JAの統治機構をどうするかだった。合併契約書では「迅速な意思決定のもとに、着実な事業執行をとり進めるために、本店に『事業統括常務理事』、3統括支店(北上・西和賀・遠野)に地域を統括する『組織・事業担当常務理事』を置くとした。旧JAいわて花巻エリアは本店直轄、他の旧3JAごとに常務理事が置かれたわけである。
 その統括支店の一つで合併直後に共済事業をめぐる不祥事が発生したが、本店への連絡が10日ほど遅れた。地区常務理事が事実上の組合長化していて、情報がそこでストップしてしまったのである。その点が県監査でも改善点として強く指摘され、JAとしては地区担当の常務理事制の廃止を速断し、代わりに3つの地区統括部を設け、部長には職員を充てることとした。不祥事のなかでのこの英断もJAいわて花巻の特徴である。
 統括部には管理課と地域営農センターが置かれ、管理課で農家組合、地域行事、青年部、女性部等の組合員組織のとりまとめに当たり、また行政対応の窓口になる。
 事業は<本店―支店>の直結で行う。支店は1000万円以下の貸付権限をもつ。営農センターは組織図的には各統括部の下に置かれているが、実質的には本店営農部に直結する。
 統括部については廃止の意見もあるが、組合員としては「地域の拠りどころ」が必要だということで、当面続けることとしている。ただし統括部長には他地区出身者が就くなどして「地域エゴ」は払しょくされた。
 女性支店長が、花巻地区では11支店のうち6店、北上地区では8支店のうち2店、西和賀地区2支店、遠野6支店ではゼロ、合計で5割を占める。それは偶然だとしているが女性が活躍するJAでもある。総代会資料には次年度の「支店行動計画」が載せられる。

 

◆営農指導体制

 JAいわて花巻の2017年度の販売額は234億円、第三次営農振興計画(2016~18年度)では、10年後に販売額300億円をめざす。販売額の構成は米穀54%、畜産32%、園芸14%で、組合員アンケートで「最も販売額の多い作物が米」という農家が8割を占めている。
 営農指導員は126名(プラス生活指導員8名)で、本店営農部(花巻地区も兼ねる)と3つの地域営農センターに所属し、そこで作目別に分かれる。
担い手支援アドバイザー(TAC)として2011年より農協OBなど20名弱を嘱託雇用し、地区ごとに広域配置し、集落営農ビジョンに位置づけられた愛農土塾(集落型経営体研究会)のメンバー150名や認定農業者等の2100戸を月1~2回訪問している。また重点作物ごとに担い手農家に「農の匠」を委嘱し(2017年度29名)、一体となって指導している。 分荷権は園芸・畜産については、合併前からの市場とのつながりがあるため、地区営農センターの園芸販売課(園芸センター)、畜産販売課がもつ。花卉は本店に集約している。米は9割が系統出荷なので全農県本部になる。商系と対抗するため、3年契約での米の買取販売5000tを、集荷コストが少ない15ha以上の農業者を対象に、2018年度から開始した。JAいわて花巻の米は全農県本部の集荷の35%を担っている。「系統に丸投げ」とも言われるが、JAとしては「県産米を丸抱えする」意気込みである。
 作目部会組織も4つの旧農協(営農センター)ごとに組織され、新農協レベルにはその協議会がある。
 園芸果樹作についてはアスパラ、ピーマン、キュウリ、ネギ、賢治リンゴ等を中心に1億円販売園芸団地の形成をめざし、園芸1000万円販売組織の増加と各組織販売額のランクアップに取り組んでいる。
 直売所は「母ちゃんハウスだぁすこ」をはじめ4店展開し、2016年度の事業実績は9.2億円、来客数49万人、出荷会員は330名(花巻)で、ピークの2014年の370名から高齢化で減少している。産直部会は北上354名、遠野(沿岸産直部会105名)にもある。
 農協改革で資材価格の引下げが言われているが、価格織り込みとしてではなく、眼に見える形で期中還元を行うべきとして、大口購入に対して農薬3~7%、肥料2~5%、CE利用量の割引など5億円ほど行っている。

 

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