JAの活動:挑戦! JAの水田農業戦略
実需者・消費者に「選ばれる産地」めざす JAいしのまき2019年3月20日
JAグループは「農業者の所得増大」、「農業生産の拡大」を目標とした自己改革に取り組んでいるが、30年産からの米政策の見直しにともなう水田農業では31年産の主食用米の作付動向が昨年と同じなかで政府備蓄米をはじめ飼料用米や加工用米などを政策支援も活用しながら水田をフル活用し、所得を確保することが求められている。宮城県のJAいしのまきでは実需者との結び付きを強めるなかで、生産者からの買取販売の実施や、政府備蓄米、輸出米など地域全体の生産力を維持する水田活用米穀の生産も積極的に進めている。同JAは「良質の米を安定的に大量に確保するのが産地の基本。実需者・消費者から選ばれる産地をめざす」と強調する。
備蓄米など水田活用米穀推進
精米の輸出で海外に発信も

(写真)輸出の拠点、中央CE「こめ太郎」
◆米による転作重視
JAいしのまき(正組合員数9861人、准組合員数7730人、平成30年3月末)の管内水田面積は1万1800haほど。ほとんどが汎用化水田として整備され、米・麦・大豆の2年3作体系をつくってきた。麦は800ha、大豆は2100haほどを作付けしている。
JAが主導して、法人なども巻き込み地域単位で面的利用を進め、主食用以外の作物の生産を推進してきた。毎年9月には翌年の作付け見通しをとりまとめ、11月に示される国の基本指針などをふまえて生産計画を調整する。
ただ、管内には海抜ゼロメートルの水田もあり、麦、大豆の生産に不向きなことから、JAでは政策支援を活用して、非主食用米(水田活用米穀)の生産に力を入れてきた。この計画は東日本大震災被害で中断するが、水田が復興した平成24年からは再開している。同年には政府備蓄米100ha、加工用米98ha、飼料用米30ha、WCS72haなどを作付けした。
同JAの酒井秀悦常務理事は「主食用米は生産目標数量を守って生産し、麦・大豆に加えて、政府備蓄米、加工用米など水田をフル活用できる作物で全体として所得を確保できる体系をつくろうと取り組みを進めてきた」と話す。
30年産からの生産数量目標の配分廃止にともなう対応も、県農業再生協議会が示す生産量の「目安」を守って主食用米を生産することを基本方針にしている。
31年産についても同様の方針で主食用の生産目安は7500haを遵守し、そのうえで麦類800ha、大豆2050haと、政府備蓄米300ha、加工用米210ha、輸出用米38haなど約800haに水田活用米穀を作付けする予定となっている。
JAでは平成31年度から3か年の中期経営計画を策定しているが、そのなかで米による転作、すなわち水田活用米穀の作付け面積をさらに増やし2年後には1100haとする目標を掲げている。
(写真)酒井秀悦常務
◆生産資材の統一
同JAでは実需者などから評価を得て、需要に応じた米生産を持続させるため、10年以上前から管内全域で水稲生産基準を決めるなど、生産対策に力を入れてきた。
具体的には使用する生産資材を限定した「S(=セーフティ)基準米」と「環境保全米」の2つの栽培形態を基本にしている。
S基準米はJA独自の慣行栽培基準として使用できる農薬成分回数を17とした。環境保全米はさらにそれを減らし8成分以下とした。現在、S基準米が7割、環境保全米が3割の比率になっているという。このほか低コスト栽培を追求する直播栽培は別に基準を設定している。
また、生育調査ほ場を47か所設置して稲の生育期間中は10日に1回、生産者に向けて稲作情報を発行し、生育状況に応じた肥培管理を促す。食味も重視し出荷者全員の食味分析を実施し、分析結果を生産者にフィードバックして、翌年の米づくりに向けた「処方箋」とする。CEやRCには色彩選別機を備え、出荷・販売する米の整粒歩合を高めるなど、「ほ場での米づくりの段階から最後の調製まで、品質を上げる努力をしている」と酒井常務は話す。
(写真)荷受けの様子
◆買取販売も実施
販売面では主要取引先との結びつき強化に力を入れる。とくに実需者との事前契約(複数年・播種前・収穫前契約)を全農と連携して拡大することに努め、現在では集荷量の7割で事前契約を実現している。
これに加え生産者の所得増大に向けて、30年産から買取販売も始めた。JAは主力品種のひとつ「ひとめぼれ」について生産者に対して、従来の委託販売か、買取販売かを選択できることを説明して周知した。買取販売も出荷契約金(仮渡金)を支払うが、その後の精算は1回で追加精算はしないことを説明した。
メリットはJAが一定の価格で確実に買い取ってくれ、また、JAにとっては、結びつきが強く「いしのまき米」を求める卸、実需者との契約を優先的に実行することができる。ただし、生産者には収量が思うように上がらなかった場合も想定し、JAとの出荷契約では一定量は委託販売とすることも推奨した。こうした集荷、契約手法によって産地全体として卸、実需者との事前契約を確実に実行できるよう工夫している。
30年産では大規模農家を中心に推進し2万8000俵の買取りを実現。また、健康志向米として取り組みを始めた「金のいぶき」と多収穫米(「まなむすめ」、「つきあかり」)なども買取販売を実施し全体で3万7000俵の実績を上げた。JAとのつながりが少なかった大規模生産者などからは、この買取販売の取り組みは「経営を支える」と評価されたといい、31年産米からはさらに拡大をめざす。
(写真)5kg精米を真空パックで輸出
◆精米で輸出を拡大
(写真)JAいしのまきGAP研究会の研修会
同JAは前述したように米の需要の変化をふまえて政府備蓄米と輸出用米の拡大に力を入れてきた。とくに輸出用米については国内需要が減っていくなかで、外に向かって販路を開拓することで、将来とも国内外に米を安定的に供給していく産地づくりをめざす取り組みだ。輸出事業は「ひとめぼれ」をkg精米でシンガポールを中心に販売、29年産で6.3haを作付け、34tを輸出した。30年産では26.1ha、142tの実績を上げた。
30年産からは同年に6つ目のCEとして完成した中央CE「こめ太郎」が集荷から乾燥調製、精米袋詰めまでの販売拠点として稼働した。今年2月からはシアトル(米国)でも試験販売を開始、「世界に向けいしのまき米を発信する重要拠点施設」(松川孝行代表理事組合長)と位置づける。
精米で輸出するためJAいしのまきGAP研究会を立ち上げ、法人も含めて生産者11軒が参加し、研修を受けて昨年10月にASIA―GAPとJGAPの同時認証を団体認証で取得した。合わせてCEもGAP認証を取得している。CEでは精米された米を真空パック包装し金属探知機で異物混入などをチェックして輸出している。
31年産米では輸出用米は38.1haの作付けを予定。2年後には50haまで拡大させる予定だ。
輸出用米の生産には法人など大規模生産者が中心になって取り組んでいる。東日本大震災後、担い手への農地集積が急速に進んでいる。そうした担い手による輸出向け「ひとめぼれ」栽培は、大型肥料・農薬の使用などによる低コスト栽培の取り組みモデルでもある。
JAとして生産力を維持していく営農指導は一層重要になっているとしており、「良質の米を安定的に供給することが産地の大前提」を追求していく。
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