JAの活動:プレミアムトーク・人生一路
"強い農協"仲間と共に 元JA熊本経済連会長・上村幸男氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年6月19日
農協青年部、そして農協・県経済連のトップとして、リーダーシップを発揮した上村幸男氏(80)。激動の時代の中で若い頃から見聞を広げ、農業教育の大切さを訴え、熊本を畜産、青果の一大ブランドに育てた。仲間と歩んできた軌跡を振り返る。聞き手は文芸アナリストの大金義昭氏。
葉タバコの仮り植え(20代後半、中央)
■欧州視察研修も!
青年農業者は海外を見るべきだと考え、誘い合って自費で出かけました。帰国後、県中央会にお願いし、将来を担う若い農業者と若い職員とが一緒になって海外研修を行う制度をつくってもらいました。菊池郡市8農協からは若手や中堅の職員が参加しました。彼らが89年の農協合併後の大きな力になりました。
■合併1年後にはJA菊池の非常勤理事に!
地区から候補を出す話し合いが、「年功序列だ」とかなんだかんだ紛糾したので、私は「そんな時代じゃない! 菊地地域の南の端は捨てられる!」と言って手を挙げたら、一番厳しかった先輩から「お前ならいい!」と言われ、ビックリ。候補になっても通るまいと思っていたら迎えが来た。選考会場に着くと「全会一致で上村!」と言われたが、実際には揉めたそうです(笑)。先輩の皆さんはすごいと感動しました。
農協の職場では、県農協教育センター所長を務められた川崎盤通さんを招いて、組合員・役職員の研修に本腰を入れました。「職員は資格を取ろう!」と言ったら、当時の人事係長から「あんたは取らんですか?」と言われて発奮し、産業能率大学の通信教育で「革新管理上級職」という難しい資格に挑み、1年間で取得しました。毎朝4時起きの勉強でしたから、大変でした!(笑)
■インターナショナル・ビジター・プログラムでは、1カ月間の米国単独研修に招かれた。
学者や政治家、官僚などが対象のようでしたが、「現場からも誰か!」という話になったようです。ワシントンで官僚と話をし、試験場や大学、農協などを回り、通商代表部に行ったら「日本の農協は世界一すばらしいが、国際的な問題を分析・把握し、マネジメントする人間がいないんじゃないか!」と言われた。ショックでした。
■理事3期目で常務になり、農協の「支所統廃合」に取り組みます!
合併して10年ほど、経営が大変でした。「支所統廃合」は1度否決され、当時の組合長から相談があり、「自分たちで計画を立てたら不公平だと言われるので、第三者に計画をつくってもらってはどうか」と提案し、学者や県の農政部長、全中などにお願いして事業と組織改革の素案を作成し、「理事会で決めたことは実践する!」と決議しました。
統廃合される支所の組合員が、むしろ旗を掲げて組合長室に座り込む出来事もありました。しかし、激しい競争時代に強い農協でなければ農業は守れないと理解していただきました。
SS(サービス・ステーション)を統合し、畑の真ん中に新しいSSをつくる時は、管内を巡回して半年間準備しました。オープン3日間は、朝から晩まで給油の行列。売り上げは県内新記録で、職員はみんなワンワン泣いて肩をたたき合って喜び、私ももらい泣きをしました。当時は副組合長でしたが、「職員が涙して喜びと感動で事業を創る」。これこそが「組織・事業改革」だなと改めて実感しました。まさに職員の自信と成長の証しです!(笑)。後年、集まって飲むと「当時はのさん(大変)だったが今は良い思い出!」とよく言われます。「農産物市場」の時もそうでした!
■00年、副組合長の時に立ち上げた「きくちのまんま農産物市場」のことですね!
この時も、女性部の皆さんや生活指導員たちがワンワン泣いて!(笑)
■いきさつは?
「きくちのまんま」ブランド戦略の一環として、「農産物市場」の命名は公募で決めました。「まんま」は"ご飯、お母さん、正直"という意味合いを込めています。決めたはいいが、ロットを集めて市場出荷する生産部会はなかなか乗り気でない! 販売戦略を考えていたイチゴ部会が一番に乗ってくれて、ブランド化に着手!
愛知県ひまわり農協などの直売所を視察し、女性の力を痛感したことで、それまでの農協の逆バージョンを行くことにしました。生産部会は男性、直売所は女性。生産部会の手数料は1%で農協の責任、直売所は手数料15%で自己責任。部会は"協同"。「きくちのまんま農産物市場」は"競争"で、「市場」には、切磋琢磨(せっさたくま)するという意味合いも込めています。
出荷代金は女性の口座に振り込むので、農協観光で海外旅行に行くと、多くは出荷者の女性たちです。事業を伸ばし、剰余金を積み上げて職員の給与も引き上げていきました。
■05年に組合長になり「広域耕畜連携」(循環型農業)を手掛け、定着させます。
牛・豚のふんを廃棄するとコストになりますが、金に変えれば経営が良くなる。イ草やミカンの地帯に堆肥を運んで売り歩きました。農水省にも予算をつけてもらいました。飼料用米で牛を育てる試みは、後に「えこめ牛」になりました。
欧州は主食の麦を餌にも使い、それにより麦が守られている。米も、主食用だけでなく餌にも使わないと守れません!
■組合長1期の後、JA熊本経済連会長に就任し、販売力強化に注力する。
経済連では「県統一ブランド」づくりに取り組みました。東京や大阪の青果物市場では価格の変動が大きく、特に豊作になると価格が低迷してしまう。「県統一ブランド」で経済連が中心となって計画的に出荷ができて価格が安定し、農家所得が上がる!
■挑む力はどこから?
青壮年部時代からの仲間に支えられてきました。熊本県には農業を愛する仲間がたくさんいました。私が農協組合長になった時も、県内の組合長の8割は知り合いでした。
■畑作で培われた発想に加え、若い頃から海外で見聞を広め、マーケティングやブランディングを先駆的に展開してきた!
「念ずれば通ず」です! 着手したほとんどの事業は成果を出すことが出来ました。"草の根"や"あぜ道"の声を大切にしてきたこと、青壮年部の活動で出会った仲間の力のおかげです。現在は、食べると長生きできると言い伝えのあるエゴマの栽培に仲間と共に取り組み、消費者の皆さんに最後の仕事として「食と命」を届けています!(笑)
【略歴】
うえむら・ゆきお 昭和19(1944)年9月生まれ。菊池郡菊陽町出身、県立菊池経営伝習農場卒業。平成8(96)年JA菊池代表理事常務、平成11(99)年同代表理事副組合長を経て平成17(2005)年代表理事組合長、JA熊本経済連理事、熊本県農業信用基金協会会長理事、平成20(08)年JA菊池会長理事、JA熊本経済連代表理事会長などを歴任。
【余談閑話】
火の国・熊本の畑作経営や若い頃からの海外研修で培われたマーケティングやブランディングの才が、いぶし銀の輝きを帯びて迫って来た。
"あぜ道"の声に耳を傾け、「農産物販売には『物語』が必要だ!」と説くストーリー・ブランディングを切り開いてきた上村さんの確信に揺るぎがない。
「流した汗は裏切らない」と、自らの常識や「人・組織・地域づくり」に挑み続けてきた「人生一路」からは、孔子の「義を見てせざるは勇なきなり」という言葉が浮上してきた。自分を勘定に入れず、「己を修めて、以て敬す」を座右の銘にする上村さんの物語には、限られた紙幅がいかにも惜しい気がした。(大金)
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