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JAの活動:日本農業の未来を創るために これで良いのかこの国のかたち

地域を「病棟」と見立て 世界健康半島をめざす (インタビュ― JA愛知厚生連知多厚生病院院長・宮本忠壽)2013年10月28日

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・世界に向け情報を発信
・地域の医師病院と連携
・人をつなぐ交流の場に
・適正診療で皆保険維持
・在宅医療は病院の延長

 JA愛知厚生連の知多厚生病院は、愛知県下に8病院を持つ厚生連の病院の一つ。知多半島で、厚生連の他の病院や地元JA、行政、保健所、開業医などと連携し、総合性を活かした包括的医療活動を実施。人―が住み慣れた町で豊かに老いることのできる地域社会づくりを目指す。また、「世界健康半島」のスロ―ガンのもと、地域の文化や農業、病院の取り組みを世界に発信。地域の文化や農業を大切にしたあらたな地域づくりに挑戦する。宮本忠壽院長に抱負と取り組みを聞いた。

◆世界に向け情報を発信

宮本忠壽氏――高齢化の進んだ地域で、どのような病院づくりをめざしていますか。

 知多厚生病院の運営についての基本的な考えは、「JAと協同による健康な地域づくり」にあります。そのためには「世界健康半島」のスロ―ガンを掲げ、地域医療の充実に取り組んでいます。当病院は知多半島の南部にありますが、中部国際空港、高速道路などのネットワ―ク幹線にアクセスがよく、より広範に、国内だけでなく世界に向けた交流の輪を広げ、農業はもとより地域の文化や伝統、地域の人―のライフスタイルを世界に発信していこうと思います。知多半島を舞台とした「世界健康半島」は、こうした気持ちを込めたものです。
 このキャッチフレ―ズは、もともと地元のJAあいち知多が合併で誕生するとき唱えられたものですが、病院はJAとともに健康に暮らせるな地域づくりに挑戦していきます。病院の理念にも「私たちは保険・医療・福祉の活動を通じて、地域住民が安心して暮らせる地域社会づくりに貢献します」とうたっています。これに沿って、地域の人―のニ―ズに応える医療体制の充実に努めてきました。
 具体的に述べると、地域医療を包括的に行う病院づくりです、「包括的」とは、救急から在宅医療まで、患者が治療を受けて社会復帰するまで、時間軸に沿って医療を提供することです。つまり必要な領域の医療を切れ目なく患者に届けることができるようにすることです。

――医療活動を通じた地域社会づくりに力を入れていますね。

◆地域の医師病院と連携

 地域住民が健康で安心して暮らせる地域社会づくりにとって、保健・医療・福祉(介護)の3つは欠かせません。これが廃れると住民は外に出てしまい、人口が減って地域はますますさびれるでしょう。高齢化社会になって、特にお年寄りの皆さんにとって住みやすい地域づくりが求められます。
 これは地域の農業を振興するという面からも必要です。介護の必要な人を減らすことで、介護支援者が農業に専念できます。また、生活弱者である高齢者にとって住みやすい社会は、地域住民にとっても豊かな社会でもあるのです。さらにこれまでJAの活動を通じて地域の農業・社会を支えてきた高齢者への恩返しという意味もあります。
 協同組合であるJAは、人―の助け合いの組織です。人と人のつながりが疎遠になっている今日、高齢者福祉活動を通じて、人への哀れみ、思いやりを大切にしながら、自分を戒め、人の幸せを願うこという気持ちが大切です。これを“惻隠の情”といいますが、いまこれが最も求められているのではないでしょうか。医療活動を通じてそれを育てます。

――地域づくりのための病院はどのような活動をしていますか。

 病院のある知多半島は、名古屋市から比較的近いところにありますが、半島のせいか、県内でも高齢化が進んだ地域で、病院に隣接する南知多町の高齢化率は30%を超えています。住民が高齢化するだけではなく、医師も高齢化しています。このままでは20年後には開業医や診療所の医師の確保が難しくなる可能性があります。
 病院では、地元の開業医と連携し、輪番でなく、開業医の先生が当病院で診断する休日救急外来の"定点化"を行っています。医師は病院の施設を使って診断でき、患者にとっては、手術や入院が必要と判断されれば、そのまま病院での治療を受けることができます。つまり地域の救急医療の核としての機能を果たしているのです。

――地元JAとの連携はどのように進めていますか。

◆人をつなぐ交流の場に

 地元のJAあいち知多には「社会福祉法人・あぐりす実りの会」があり、特老ホ―ムやショ―トスティ、デイサ―ビスなどの福祉事業を幅広く行っています。一方、病院には地域医療・福祉連携センタ―があり、医療相談や介護保険センタ―、訪問介護ステ―ション、訪問リハビリステ―ションなどで、それぞれJAの福祉事業と連携しながら活動しています。
 さらに健康管理支援センタ―では人間ドック、特定健診などのほか、メンタルヘルス相談、糖尿病・肝臓病・心筋梗塞などについての教室や、調理実習を定期的に行っています。これには患者やその家族、JAの福祉施設で働く職員や食育を学ぶ子どもも参加。病院の医師や栄養士、理学療法士、保健師などの助言もとに調理を学んでいます。
 このほか、病院には母子支援センタ―、生活改善支援センタ―、リハビリセンタ―があり、それぞれフォ―ラムやセミナ―や教室を開いています。健康への関心を高めるとともに、地域のさまざま人の触れ合いの場、情報交換の機会でもあります。JAの活動は、地域に張り巡らされた生活のネットワ―クです。これに病院が展開するこうした健康フォ―ラムやセミナ―、各種教室、検診などの予防領域を組み込ませることで、病院が健康維持のためのコミュニティプラザの役目を果たすようになっています。

――TPP参加で問題視されていますが、医療費負担が膨れる日本の医療保険制度についてどう考えますか。

◆適正診療で皆保険維持

 「医療基本法」が必要だと考えています。いまはフリ―アクセスで、どこの病院でもかかることができますが、ちょっとした風邪でも総合病院にかかるということが少なくありませんが、本当にそれがよいのかどうかという問題があります。具合が悪くなったら、まず診療所で診てもらい、必要なら次の専門分野の医療機関にかかるというような仕組みが必要です。それによって医療費を適正化することができるでしょう。
 もう一つは医療機関の配置です。ある程度、行政が管理して、診療所や病院を医療圏ごとに過不足ないように配置する必要があります。ドイツには「医療基本法」があり、これが徹底しています。これができると過疎地の医療問題も解決するでしょう。自由は大切ですが、必ず格差を伴います。地域医療は利便性や経済性だけでなく、助け合いの理念に基づき、計画的に進めるべきものだと考えています。

――JAにはどのような支援ができるでしょうか。

◆在宅医療は病院の延長

病院は地域のコミュニティプラザ JAや病院の運営は、今後、厳しくなるでしょう。地域づくりにはいろいろなやり方があると思いますが、JAは病院をうまく活用して欲しいですね。病院は医療や介護に関するノウハウを持っています。これを、農業と福祉を中心としたJAの地域社会づくりに生かすことができるのではないでしょうか。
 われわれは「包括生活支援」をめざし、地域全体が病棟だという考えで地域医療に取り組んでいます。入院医療の延長に在宅医療があり、そのための生活支援と住いの確保が必要です。JAは合併で遊休化した支店や出張所等があります。これを改良して、高齢者のためのサ―ビス住宅に転用したらどうでしょうか。箱モノがあれば医療や訪問看護、訪問介護は外付けで対応できます。

(写真)
病院は地域のコミュニティプラザ

 

【プロフィ―ル】
みやもと・ただひさ
 1952年生まれ。1977年名古屋市立大学医学部卒業。78年愛知厚生連知多厚生病院内科医師、85年名古屋市立大学医学部助手を経て89年愛知厚生連知多厚生病院内科部長。2000年同副院長、06年同院長で現在に至る。日本消化器病学会および同消化器内視鏡学会の東海支部評議員等を務める。

【関連用語解説】
○米国の医療保険体制
 国家予算が成立せず、デフォルト(債務不履行)になる寸前までいったアメリカだが、その争点はオバマケアといわれる医療保険制度だ。
 自由診療が基本の米国では、高齢者と貧困層にはメディケアとメディケイドという公的支援が用意されているが、国民の多くは民間の医療保険に加入するしかない。しかし、所得が少なければ加入できず国民の6人に1人は無保険状態といわれる(図参照)。
 オバマケアは民間より安価な公的医療保険への加入を国民に義務付ける制度。オバマ政権は低所得者には補助金を支給することで、国民の9割以上が加入することを目指している。これに対し共和党は、国民が自分の意思で契約できるとする米国憲法に反すると制度廃止を主張している。
 一方、民間の保険会社にとっては、病気になって保険金を支払わなければならない高齢者と、保険料が支払えない貧困層はお客さんではない。TPPで米国の保険会社が日本に自由診療の拡大を要求しているのはマ―ケットが広がるからだ。その理由は、保険は自由に出し入れできる預金と違って、一度契約すると長期にわたって安定して保険料が入ってくるから。つまり米国の医療保険はそもそもが社会保障などではなく金を稼ぐための「金融商品」なのだ。

アメリカの医療保険制度の概念

○混合診療
 公的医療保険で認められている診療(保険診療)と、認められていない診療(保険外診療=自由診療)を同時に受けることをいう。診療は区別できないため現在は「保険診療全額自費+保険外の全額自費」となっている。つまり、先端医療として、現在すでに混合診療はきちんとしたル―ルのもとに一部解禁されている。
 これを「保険診療の一部負担+保険外の全額自費」にしようというのが混合診療解禁の考えである。混合診療が全面解禁になると、新しい治療や医薬品を公的保険に組み入れるインセンティブがなくなるため、公的医療保険から給付される医療の範囲は限りなく小さくなる可能性がある。

 

【2013年秋のTPP特集一覧】

健康とは平和である (佐藤喜作・一般社団法人農協協会会長)

【日本農業とTPP】決議実現が協定変える 食料増産こそ地球貢献 (冨士重夫・JA全中専務理事に聞く)

【グローバリズムと食料安保】今こそ「99%の革命」を! 最後の砦「聖域」を守れ (鈴木宣弘・東京大学大学院教授)

【米韓FTAと韓国社会】猛威振るうISD条項 日本の将来の姿を暗示 (立教大学教授・郭洋春)

【アベノミクスとTPP】国民が豊かになるのか TPPと経済成長戦略 (東京大学名誉教授・醍醐聰)

【食の安全確保】真っ当な食をこの手に 自覚的消費が未来拓く (元秋田大学教授・小林綏枝)

【日本国憲法とISDS】人権よりも企業を尊重 締結すれば憲法破壊に (インタビュ― 弁護士・岩月浩二)

【「国際化」と地域医療】地域を「病棟」と見立て 世界健康半島をめざす (インタビュ― JA愛知厚生連知多厚生病院院長・宮本忠壽)

【TPPと日米関係】アジアとの歴史ふまえ、"新たな針路"見定めを (農林中金総合研究所基礎研究部長・清水徹朗)

【国際化とグローバル化】国のかたちに違い認め、交流で地球より豊かに (大妻女子大学教授・田代洋一)

【破壊される日本の伝統と文化】文化の原義は大地耕すこと (農民作家・星寛治)

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