JAの活動:JA全農の若い力
【JA全農の若い力】ET研究所(3) 塚原隼人さん 体外受精卵技術創造へ2021年12月10日
JA全農ET研究所(北海道上士幌町)は早くからET(Embryo Transfer:受精卵移植)に取り組み、わが国の畜産生産基盤を支えている。新しい技術も積極的に研究している。今回は3人の若い力を訪ねた。
塚原隼人さん
実用化へチャンレジ
塚原隼人さんは2020年の入会。牛の体外受精卵の研究をしている。
現在、ET研究所が行っている受精卵製造は、供卵牛に過剰排卵処置をし、人工授精することで雌牛の子宮内で複数の受精卵を作るという体内受精により行われている。
これを体外受精で受精卵を生産して実用化できないかが研究テーマだ。
体外受精のための卵子を採取する方法は二つある。一つはと畜場から卵巣の提供を受ける方法。もう1つは生きている雌牛の卵巣から吸引器で卵子を取り出す方法(OPU)である。
いずれも取り出した卵子を適切な温度や二酸化炭素濃度を保つインキュベーターのなかで培養する。その後、精子を入れて受精卵を作成する。
この体外受精卵を大量に得ることができれば、広く畜産の現場で活用できることになる。ただ、課題は「凍結に対して弱いこと」だという。凍結卵では受胎率が下がってしまうという問題をどうクリアするかが目下の研究テーマだ。
課題を解決する方法は二つ。凍結させるまでに、受精卵自体を凍結に対して強くすること。もう一つは受精卵にダメージを与えない凍結液を研究することである。
培養液に課題
塚原さんは内外の研究論文等から課題を精査している。そのひとつが受精卵自体を強くするには中性脂肪のコントロールが鍵を握りそうだということだ。中性脂肪が多い体外受精卵は黒ずんで見えるから分かりやすい指標ともいえる。
卵子をインキュベーターで培養し、受精卵にした後も7日間培養を続ける必要があるが、その間の環境を子宮内と100%同じに再現はできない。そこで培地をどうするかが課題となるが、「血清」を入れるか入れないかが1つのポイントだという。
血清にはさまざまな成長因子が入っているから受精卵にとっては必要な因子ももちろんあると考えられる。しかし、中性脂肪を作る脂肪酸も多いことが分かっており、塚原さんは血清を添加しないほうが、受精卵に含まれる中性脂肪を抑えることができるという点を重視して研究を進めている。
もう一方の凍結液に関する研究では、凍結させるために必要な物質が、融解させる際には毒性を持つなどの研究もあり、こうした論文を検証して有効な凍結液を研究していくという。
受精卵自体を凍結に強くする研究と、どのような成分の凍結液が必要か、「両輪で研究していかなければならない」と話す。
現段階では体外受精卵の作成と、問題となっている中性脂肪を減らす課題も解決しつつあるという。また、それを凍結・融解した受精卵の評価も行っている。細胞内のミトコンドリアのエネルギー産生を調べて、融解した体外受精卵がどの程度元気があり、それが受胎率の向上につながるかどうかを検証している。
畜産業を支える
塚原さんによるとOPUによる体外受精卵の作成は世界的にも増えており「危機感を持って研究にあたりたい」と気を引き締める。
「ゴールはあくまで受胎率の向上。農家の利益はもちろん畜産業の未来につながる研究をしていきたい」
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