JAの活動:JA全農の若い力
【JA全農の若い力】ET研究所(1) 越智葵さん 「繁殖義塾」で精鋭指導2021年12月10日
JA全農ET研究所(北海道上士幌町)は早くからET(Embryo Transfer:受精卵移植)に取り組み、わが国の畜産生産基盤を支えている。新しい技術も積極的に研究している。今回は3人の若い力を訪ねた。
越智葵さん
受胎率向上に努力
ET技術とは、優良血統の雌牛に過剰排卵処置をし、優良な雄牛の凍結精液を人工授精(AI)することで雌牛の子宮内で複数の受精卵をつくり、その雌牛から採卵して他の雌牛に移植する技術である。
全農が力を入れているのはシンクロETである。これは受精卵の採卵日と同日中に他の牛に移植するET技術だ。
2018年に入会した越智葵さんは獣医となった後、農業共済の家畜診療所で3年勤務し、ET研究所へ。1年目は人工授精や受精卵移植の技術を研修し、現在はシンクロETを実施するチームに所属している。
シンクロETを実施するには、まず酪農家など畜産農家で受精卵移植を行う予定の牛にホルモン処置をして発情同期化を行う。その後の発情の確認は農家が行うが、移植前日に越智さんらチームが農場を訪ね、直腸検査で黄体がしっかりと形成されているかを確認する。さらに超音波エコーで大きさなどを確認する。
シンクロETは、採卵した受精卵を凍結してから移植すると受胎率が落ちてしまうため、採卵と移植のタイミングを発情同期化によって同じ日に合わせることで受胎率を上げ、生産者の所得向上につなげようという取り組みである。
確実に受胎率を上げるために越智さんたちチームは発情同期化のためにホルモン処置をする段階から、牛がこの処置を受けるのに適切な健康状態かどうかを見る。牛の立ち案配や、直腸検査で卵巣の状態を確認するほか、生乳の成分などからも健康状態を推測する。
農家が希望する牛でも、この段階で受胎が期待できないと判断すれば、費用が無駄にならないよう処置を見送るよう農家にアドバイスする。最初の段階から対象を慎重に選抜することを心がけているという。
そのうえで、移植前日に黄体がしっかり形成されているかの確認は、当然、受胎率を上げるための重要なチェックポイントとなる。
さらに移植当日の採卵も重要な作業だ。自分で採卵して顕微鏡で検卵して問題がないことを確認してから、移植する農場へ出向く。このように農場での発情同期化処理から黄体検査のチェック、また新鮮卵の検卵など一連の取り組みをチームが行うのが他にはない全農の新ETシステムの特徴である。ETは酪農家のホルスタインを借り腹として和子牛の増産も図るため、酪農家の所得向上にもなる事業だ。それが和牛の輸出拡大にもつながるといえる。
技術者育成にも力入れ
ET研究所は、蓄積した技術を若い研修生に伝え、ETのプロを養成する「繁殖義塾」という専門コースも設けている。越智さんは研修生の指導も行っている。選畜のポイントや直腸検査、妊娠鑑定の手技など指導している。
「研修生が技術を身につけていく過程が目に見えて、大変やりがいを感じています。一人前になってET技術が各地で広く活用されるようになれば」と話す。
一方、現場での課題は受胎率の改善だ。採卵日に新鮮卵を移植するという他にはない技術を実施しているが、それでもさらに受胎率の向上を図ることが求められている。
そのためには農家に飼養管理の改善策をどう提案できるかだという。農業共済で臨床獣医師としての経験もあることから、飼料も含めてどういう飼養が求められているかなど農家に提案できるようになりたいという。
「生産者のためになる現場をめざしていきたい」
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