JAの活動:沖縄復帰50年~JAおきなわが目指すもの~
【特集:沖縄本土復帰50年】離島を守るサトウキビの原点は 「農協をつくって暮らしを良くする」 伊江島2022年5月25日
沖縄県の離島は、サトウキビ栽培をはじめとする農業が島の基幹産業である。離島に人々が住み続けることはこの国の国境を守ることにもつながる。サトウキビは国境も守ることになる。今回は伊江島を訪ね、農を核にした村づくりの歴史と人々の思いを聞いた。
伊江島
今も基地 農地を制約
県北部の本部港からフェリーで30分の伊江島は、東西8km、南北3.5km、面積は23km²で、東部に突き出るように聳える島のシンボル、標高172mの城(ぐすく)山を除けば平坦な土地が広がる。
島の中央には米軍伊江島補助飛行場があり13名が駐在している。北西部には土日以外は立ち入り禁止のフェンスで囲まれた区域があり、オスプレイの飛行訓練やパラシュート降下訓練などが行われている。今も島の面積の35%を米軍に提供している。
1945(昭和20)年3月下旬からの米軍の沖縄攻撃は4月1日に読谷村への上陸で激戦となっていくが、16日には伊江島にも上陸した。その理由は当時、東洋一と言われた飛行場があったから。「鉄の暴風」によって軍民合わせて3800人、島の住民の半数近くが亡くなった(伊江村や沖縄県平和記念資料館の展示資料などから)。
島には砲弾で破壊された建物が今も残る(公益質屋跡)。その前に立つと連日伝えられるウクライナの荒廃と重なる。
捕虜となった2100人の村民は渡嘉敷村、座間味村に強制移送され、戻ってきたのは戦後2年経った昭和22年だったという。誰もいない島の農地を米軍は占有し、50年前の本土復帰前には66%を米軍が使っていた。それが復帰を機に35%まで減った。だが、復帰からこの50年間はほとんど変わらなかったということなる。現在の耕地面積は1080haだ。
島袋秀幸村長(5月22日に急逝)
「基地負担を強いられ、制約された土地のなか、農業を中心とした村づくりをめざしてきました」と島袋秀幸村長は語る。
◇ ◇
戦後もソテツ地獄 「雨が命です」
だが、その歩みは容易なものではなかった。それはなぜ飛行場が島に建設されたかという理由とも関係する。島は平坦で土壌はサンゴ石灰岩土壌。そこから道路建設などに使う「コーラルリーフロック」が取れる。それを材料に飛行場を建設した。軍隊に召集されていない男たちが沖縄中から集められたという。
米軍が最初に上陸した読谷村も同じような土壌、そこに建設された飛行場を占拠するためだった。
しかし、この土壌は有機物には富まず、畑地としては栄養分に乏しい地質だ。保水力がないため、干ばつにも弱い。
JAおきなわ元経営管理委員会会長の謝花美義さんは「過酷な農業を強いられました」と振り返る。沖縄では干ばつで食料が育たずソテツを食べたという話を聞くが、戦後にソテツ地獄を味わったのは伊江村だけだという。島には川はない。「雨が命です」。
いかにため池をつくるかが歴代村長の仕事で現在、島内に19のため池がある。
◇ ◇
謝花美義さん
謝花さんが伊江村農協に入組したのは1964(昭和39)年、20歳のときだった。農林高校を卒業後、上京したが家庭の事情で島に戻った。それを知った当時の伊江村農協の與儀實弘組合長が謝花さんを農協に呼び出した。與儀組合長は戦死した父親と同じ大正8年生まれ。「君のおじいさんも農業をがんばっておられた、明日から出勤して僕と一緒に農協で働け、と。それからずっと農協です」 與儀組合長の思いは「農協を立ち上げることによって島の農民の暮らしを良くする」。1957(昭和32)年から1983(昭和58)年まで26年間、組合長を務め、その間、沖縄県中央会会長も務めた。農協に入った謝花さんは精糖工場に配属され、その後長くサトウキビに関わることになる。
サトウキビと有畜農業も
伊江島のサトウキビ畑
15tの黒糖工場から出発し、サトウキビの生産拡大に合わせて工場の規模を拡大、1963(昭和38)年には黒糖をつくる含蜜糖工場から分蜜糖工場へと切り替えて600t体制とした。
村では「サトウキビを作って米を買え」と言われてきた。米を購入するための換金作物という位置づけである。
また、有畜農業も村是とした。耕畜連携で土づくりを進め、電照キク、葉タバコ、インゲン、トウガンなど畜産とともに園芸品目が拡大していった。
それは50年前の本土復帰が契機となった。東京や大阪への出荷に全県で取り組む。伊江村もたとえば、温暖な気候を利用した露地栽培で電照キクを栽培、開花期をずらして本土での端境期に出荷するなど成果を挙げた。謝花さんは若手農家からの要望に応えて新規品目の部会を立ち上げた。その後、野菜では島らっきょう、トウガンが県の拠点産地に指定されるまでに成長した。
子牛の市場も開設
子牛は農協が市場を開設、現在は年9回のせりを開き、年1800頭の子牛が販売されている。村は堆肥センターを運営しており、現在は農家からの牛の預託などを行う畜産総合センターを建設中で令和5年完成予定で、JAが指定管理団体として運営していく。
◇ ◇
「水なし農業」から「水あり農業」へ
こうした新規作物が盛んになるなかサトウキビの生産は次第に減少していき、1983(昭和58)年の4万8000tをピークに2001(平成13)年には7500tにまで落ち込んだ。サトウキビは穂が出てから収穫までの期間が長くなれば品質が劣化する。そのため作付けが増えれば工場の能力を上げて対応してきた。しかし、生産量が減れば工場は赤字に陥る。2002(平成14)年のJAおきなわの誕生を前に無念のうちに工場の閉鎖を決めた。
しかし、関係者はあきらめず2011(平成23)年には処理能力50tの黒糖工場を村が建設しJAが運営している。サトウキビは農地を守り、畜産との連携で島の農業を持続させていくためには必要だからだ。黒糖工場が稼動する4か月間は季節労働者を雇用しているが、その宿泊施設はJAが運営している。子牛市場や黒糖工場、堆肥センター、さらに宿泊施設まで行政と連携しJAが運営し、現場を支えている。
一方、収益性の高い野菜の栽培が盛んになったのは19か所のため池に加えて、2017(平成29)年に完成した「地下ダム」の成果でもある。15年以上におよぶ工事で石灰岩に浸み込み海に流れ出してしまう雨水を土中で貯める事業が完成した。地下ダムの貯水量は70万tで19のため池合計72万tの貯水量をあわせると3か月ほどの干ばつに耐えられるという。
「水が1万tあれば花の売上げが1億円増える」と言われることもあったといい、まさに水の恵みが農業を盛んにしてきた。謝花さんは「夢みたいなことが実現し、水なし農業から水あり農業へ島の農業が変わった」と話す。
2020年センサスでは367の農家と法人が農業を営む。これまでに20人ほどの新規就農もあった。農業生産額は切り花12億円、畜産11億円など約40億円。沖縄北部では名護市に70億円に次ぐ。「JAと共通認識を持って、協同しながら豊かに楽しく生活ができる農業施策を進めたい。次の50年後にしっかりと渡していきたい」と島袋村長。
農業で島に住み続ける人たちをサポート
JAおきなわ伊江支店
JAは合併から20年、伊江島の農業と地域の課題解決にあたってきた支店の職員は今、約3分の1が本店から着任している。合併によって農協を持続させ、伊江島の人々が農業でこの地に住み続けることをサポートしてきた。
謝花さんによると、かつて干ばつに苦しみ食料確保もままならないころ、営農指導員は雨量計で降水量を測っていたという。わずかな雨でも「昨夜は○ミリの降水量。これならイモを植えつけることができる」と農家に指導した。
農家に寄り添う、そうした姿勢を今後も大事にしてほしいと話し、長く苦しんだ水問題が緩和される時代を迎え、農家も加わってどう戦略を打ち出すか、次の時代に向かう実践部隊としてのJAに期待を寄せる。
【追記】
島袋村長は5月22日に急逝されました。ご冥福をお祈りいたします(編集部)
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