JAの活動:【2024年新年特集】どうする食料・農業・農村・JA 踏み出せ!持続可能な経済・社会へ
【提言2024】「気候正義」をさらに 横浜国立大学名誉教授 田代洋一氏2024年1月12日
2023年、世界は地球沸騰化の時代に突入、地上ではロシアのウクライナ侵攻が続き、さらに中東情勢も深刻化、混迷と対立が深まるなかで2024年を迎えた。本紙新年特集は「踏み出せ! 持続可能な社会へ」をテーマに、世界情勢と日本の未来を見越して、農政をはじめとした政治、政策、そして農業協同組合への提言を幅広く識者に発信してもらう。
横浜国立大学名誉教授 田代洋一氏
今年は、新基本法改正の年になる。改正は20年程度を射程に入れているが、今後20年といえば2040年代央(なかば)。つまり2040年代央まで農政理念の樹立が課題だ。
改正論議は、一人一人の食料アクセスの確保や物財費の価格転嫁を中心に食料安保を論じている。しかし、「一人一人」を本格的に達成するには、格差拡大という資本主義の根本問題にメスを入れる必要があり、当面、農政が担う役割は対処療法に限定される。突発的な物財費高騰は、補正予算等できちんと対処すべき緊急課題だろう。いずれも今世紀なかばまでをにらんだ農政理念というには難がある。
他方、本来の食料安全保障=食料自給率向上は、日本にとって半永久的な課題であり、そこで2040年代央までに何をなすべきかが問われる。
2040年代央は、世界的なカーボンニュートラルの目標年次である2050年にほど近い。昨年の地球を襲った豪雨、酷暑、山火事、そして日本では熊などの獣害、米の等級下落、魚の回遊変化等が日々の生活を脅かす。
そこでCOP28は、食料安全保障を「気候を守る正義」に位置づけようとしている。つまり、食料の安定供給(食料自給率の向上)、それと一体の多面的機能の発揮といった新基本法の基本理念は、もはやそれ自体が理念ではなく、「気候正義」というより高次の理念への貢献を問われている。それは食料安全保障・多面的機能を「いかに追求するか」という方法論の問題でもある。
日本の農林水産業が温暖化ガスの発生に占める割合は相対的に低いが、その一因は自給率(国内生産の割合)が低すぎることにある(代わりに食料・原料の遠隔輸入で大量発生)。つまり21世紀半ばに向けての日本農業の基本課題は、いかに「カーボンニュートラルな方法で食料自給率・多面的機能を高めるか」に尽きる。既にみどりの食料戦略法があるではないかと言うが、みどり法は技術論に偏しており、それを基本法の社会経済理念の要に位置づけ直す必要がある。
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