【クローズアップ:Jミルク出色の「見える化」冊子】コロナ禍で需給安定と指定団体機能も説く 農政ジャーナリスト 伊本克宜2021年6月3日
Jミルクは6月、酪農乳業の現状と課題をビジュアルに説きおこした「日本のミルクサプライチェーン2021」を発行した。複雑な実態を一般向けに「見える化」した出色の冊子だ。特にコロナ禍で生乳需給調整の重要さを説く。
「ミルクツリー」で用途別解説の工夫
酪農問題を巡り、マスコミも含めほとんど理解していないのが用途別需給だ。同じ生乳でありながら、用途が飲用牛乳からバター、脱脂粉乳まで幾重にも分かれる。
国際交渉で焦点の一つとなった乳清(ホエー)。タンパク含量によって関税率が変えられたが、脱粉代替の恐れがあるためだ。あるいは「加工乳」と「加工原料乳」は全く別物だが、指定団体の存廃を絡め4年前の酪農制度改革議論の当時、自民農林幹部の西川公也氏がよく「加工乳」と話していた。不勉強か制度の不理解かよく分からないが、用途別は極めて複雑だ。
今回の冊子は「ミルクツリー」という図で、枝分かれを各用途に例え素人にも理解しやすい。
「ミルクツリー」
半世紀の歴史と過不足の大波
酪農発展の礎となった指定団体を通じた加工原料乳補給金制度、いわゆる酪農不足払い制度発足から55年。半世紀を超す歴史を、象徴的な出来事と共に生乳生産の推移と合わせグラフ化したのは国内酪農の変遷を映す。1979年を皮切りに、2006年までほぼ10年単位の過剰に伴う減産型計画生産を強いられた「ミルクサイクル」の曲線が分かる。
それにしても、ここ数年の過度の自由化と政策展開に注視したい。2018年の不足払い制度廃止と改正畜安法、2019年のTPP11をはじめ相次ぐメガFTAの発効は、今後需要増が期待されるチーズをはじめ輸入乳製品との激烈な競争を余儀なくされる。
需給調整と指定団体の役割
同冊子は、今後の大きな課題として「生乳需給調整をどのように適切に行い、リスクをいかに小さくしていくのか」と問う。
典型は現在のコロナ禍での需給対応だ。見通しを誤れば、酪農と乳業メーカー双方に負担を強いる生乳廃棄となる処理不可能乳が出かねない。Jミルクは、適切な生乳需給の実施は、今後とも予想される経済変化や気候変動でも重要になると強調する。そこでカギを握るのが指定生乳生産者団体の役割だ。
指定団体の機能
冊子では図解で3つの機能を説く。酪農家の結集をテコにした価格交渉力、いわゆる大手乳業相手の乳価交渉力だ。さらに近年最も大切となってきた需給調整機能。酪農主産地の北海道や九州・熊本でも災害などで生乳廃棄の被害を最小限に抑えたのは指定団体の臨機応変の対応だ。そして合理的な集送乳の実施に伴う輸送コストの低減だ。
流通自由化を促す2018年の改正畜安法では、酪農家の選択肢を増やし所得向上に結びつけることが前面に出されたが、結果は生乳需給の混乱を招いた。一部の酪農家の「いいとこ取り」による全体の不公平感を助長したに過ぎない。冊子でも取り上げたように指定団体への結集による需給調整の強化がさらに問われる。
「季節」「地域」2つのギャップ
国内酪農の特徴と課題に二つの〝ギャップ〟を挙げた。ここは酪農理解に欠かせない要諦だ。季節と地域のギャップにどう対応し、消費者に過不足なく安全で良品質な国産牛乳・乳製品を届けていくのか。
「季節」は夏場の生乳供給不足と需要拡大との格差の広がり。ここ数年は、北海道から月6万トン超と輸送限界の数量まで首都圏など大消費地に生乳や産地パックの牛乳を運ぶ。しかも従来8、9月に限られていた6万トン輸送が、10月にまで延びている。
その理由が二つ目の「地域」のギャップと表裏一体となる。生乳全体の6割近くを北海道が生産する一方で、都府県の地盤沈下が進む。やはり半分近くを大消費地のある都府県の酪農が担う必要がある。
消費者や学校関係にも参考に
こうした酪農乳業の〈今〉を分かりやすく読み解いた「日本のミルクサプライチェーン2021」は図表を多用し、いわば酪農乳業の現状と課題の「見える化」冊子と言えよう。
Jミルクでは関係に加え、流通業者や消費者にも参考にしてもらいたいと呼びかけている。活字をもう少し大きくし表現を分かりやすく直せば、酪農教育ファームの浸透もあり学校など教育関係者にも役立つだろう。
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