【緊急寄稿】24年度概算要求 食料安保にかこつけた「構造政策」追求 田代洋一氏2023年8月31日
農林水産省は8月31日、2024年度農林水産概算要求を決定した。総額は前年比20%増の2兆7209億円で同省は食料安保の強化に向けた水田での麦・大豆の生産拡大などに重点を置いたとする。問題点はどこか。横浜国立大大学・大妻女子大学名誉教授の田代洋一氏に指摘してもらった。
令和6(2024)年度農林水産概算要求は農水省にとって正念場だ。農林の当初予算は、2023年度に国の予算の2.0%まで落ちた。2%を切ったら独立の産業省として体を成さない。対して防衛予算と子ども予算はけた違いに伸びている。そのための増税負担を恐れる国民は、「ほかの予算を削って」に傾いている。
ロシアのウクライナ侵略がそれに拍車をかけ、加えて生産資材の確保難・価格高騰となった。そこで2023年度概算要求では、食料安全保障の強化を、要求額を示さない「事項要求」扱いとし、22年度補正予算で一定の手当てがなされたが、それを含めても23年度予算は前年度割れだった。
このような厳しい状況下で、政治(農林族)は食料安全保障を錦の御旗にたて、新基本法を改正までして、農業予算を確保しようと努力し、24年度概算要求も23年度当初予算の20%増しにした。果たしてそれが通るか。通ったところで、国の予算に対する割合を2%以上に回復できるか。まさに勝負どころである。
基本課題は脱炭素のはず
加えて、食料安全保障のいわば手段として新基本法を改正するのは難がある。いうまでもなく日本の食料・農業・農村の基本法が、世界が直面する課題に真摯に応えるには脱炭素の方向を基本に据える必要があるからである。
しかるに農水省がリードする「中間取りまとめ」の改正方向は、輸出産業化、スマート農業化、担い手確保、農地集約、農村政策等の全ての農政を、食料生産の安定確保につながるが故に「食料安全保障に資するもの」と位置付け、その旗の下で構造政策を追求しようとしている。
その一端を示すのが、増額要求項目のベスト7をみた表である。①は大区画化、汎用化、畑地化等(このところ停滞的な公共事業の一挙増額)、②は麦、大豆、てん菜、でんぷん馬鈴薯等の担い手に交付金、③はずはり農地の集積・集約、他に地域計画関係予算27億円もある。かならずしも構造政策直結ではないと評価されるのは⑦くらいだ。もちろん①~⑥も国内生産基盤の強化という点では食料安全保障につながる。しかし狙いは構造政策の加速化である。結論的に言って、水田作経営では作付け10ha以上層に政策対象は限定される。
そこには農政の狙いだけでなく、そもそも構造政策に資さない要求は認めないという財務の壁もあるのかもしれない。いずれにしても食料安全保障に関する新規項目は、米粉専用種開発30億、国産飼料16億、国内産資源肥料36億、「適正な価格」(価格転嫁)の調査費(これは昨年度1億円が2億円へ)など、合わせて84億円に過ぎない。
食料安全保障を旗印としつつ構造政策追及を狙う農林予算獲得の戦略がいつまで通用するか。国民理解の得られる恒久的な農業予算獲得のためにも、新基本法の改正を、国家安全保障直結の食料安全保障に特化するのではなく、あるいはその裏で専ら構造政策を追求するのではなく、地球温暖化対策に資する食料・農業・農村のあり方を追求する方向に向けるべきである。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日