トロピカル農業は世界一 第2回台湾国際農業週をみて2017年11月24日
台湾(中華民国)の最新農業技術と農産物を世界にアピールする「台湾国際農業週」は、既報の通り、11月9日から11日まで、台湾南部の高雄市で開催され、「台湾で一番大きな国際展示会」と評されるほど盛況だった。このなかで、昨年とは大きく異なる展示を行ったいた行政院農業委員会(日本の農林水産省に相当)の内容と、同委員会農糧署の陳建斌署長(農水省生産局長)の話を中心に台湾農業の現状を見てみる。
◆グリーンハウスで新しい農業を―行政院農業委員会
行政院農業委員会のブースを訪れると、案内をしてくれた蘇茂祥農糧署副署長は「台湾の新しい農業を海外に発信する」ことが今回の狙いだと強調する。具体的にはと聞いてみると、その代表的なものとして「グリーンハウス」を盛んにあげる。IoTなど最新の技術などを活用して、温度管理から肥培管理などの栽培管理をする大型の園芸施設のことだ。オランダや中東の国など海外企業とも交流をして開発されたものだという。すでに空芯菜やキュウリ、トマト、パパイヤやマンゴなどでの栽培が行われており、バナナでも実証試験中だという。
こうした研究開発には、台湾政府も積極的な支援を行っており、「政府が5年間資金を投入して開発しいく」と蘇副署長は胸をはる。
(写真)行政院農業委員会農糧署の陳建斌署長
台湾では今年も台風によって278億台湾元(日本円で約1080億円)の被害が発生しており、こうした自然被害から農産物を守ることと、「自動化することで台風だけではなく、気候の変化に左右されずに生産量が長期的に安定的確保できる」ようになる。そうして生産された農産物の輸出はもちろんだが、こうした技術をニュージーランドや東南アジア、南アジアに技術輸出を視野に入れているという。
こうした展示内容は昨年にはまったく見られなかったもので、「今回から、台湾の農業技術の質の高さを示すためにこうしたテーマ設定をした」ことを強くアピールしていた。
◆熱帯と温帯の農業技術を融合してアジアへ―陳建斌農糧署長
(写真)行政院農業委員会のブース
台湾国際農業週の最終日に会場を視察に訪れた陳建斌署長がインタビューに応じてくれた。
台湾の農業の中心地である高雄市など南部地域は北回帰線(北緯 23°27′)の南に位置しており、その農業は「トロピカル農業」(熱帯農業)で、日本の温帯農業とは異なり、「日本とバッティングすることはない」と、流暢な日本語で話はじめた。ちなみに陳所長は日本に留学して学び、「日本国立東京海洋大学博士」号を持つ日本の事情にもよく通じた人だった。
実際に台湾からは日本に、マンゴ・パパイヤ・パイナップル・ドラゴンフルーツ・スターフルーツなど10品目のトロピカルフルーツが輸出され、日本からリンゴ・ナシ・ブドウなどの果樹を輸入しており「日本は台湾にとって重要な農産物の貿易先」だと指摘。日本の果物は価格が高いので「台湾では高級品として贈答用に購入」する人が多いとも説明された。
また野菜類も年間に日本から3万5000tほど輸入しており、その代表的なものが北海道の長芋だいう。そして、「3年前までは、日本が台湾の輸出先のトップだったが、いまは中国(大陸)がトップになっている」という。
今回の行政院農業委員会の展示内容が大きく変わったことを指摘すると、陳署長は「台湾の熱帯農業技術は"世界一"で、そのことに誇りをもっている」と語った。
そして、台湾には農業試験所が20カ所ほどあるが、そこで「品種改良を行っており、次々と新しい品種が開発されている」。しかし、台湾は「農地面積が小さいことと、人件費が高い」ことから、それらの全てを自国で栽培することが難しい。しかしそれらを「世界に紹介し、海外で栽培できれるようになれば、若い研究者の励みになるし、台湾のイメージが高くなる」ので、東南アジアや南アジアさらに中東諸国に「技術を輸出」したいと考えている。また、「微生物農薬に世界で一番早く取り組んだ」のも台湾であり、「10年間で農薬使用量を半減したい」とも考えている。
台湾の蔡英文政府は、「最先端農業技術の研究開発、農業の創出や食の安全、国家級農産物輸出企業の設立」を重要な政策の柱に位置づけている。そして、東南アジア、南アジアやニュージーランド・オーストラリアとの関係を強化する「新南向政策」を推進していおり、陳署長描いている「技術輸出」はそうした政府の政策を農業面で進めているということになる。
さらに農業機械についても「台湾の農機は日本に比べれば"1.5流"ですが、価格が安く、使い勝手がよく、丈夫なので、東南アジアや南アジア向きです」と笑いながら話してくれた。
今後、東南アジアや南アジア諸国が経済的に豊かな国になれば「食の安全に対するニーズが高まり、質の高い農業技術が求められるようになる」のだから、「温帯農業だが東南アジアでも使える優れた技術がたくさんあるのだから、日本と台湾の技術を融合して、これらの国々に進めていくことは大いに意義がある」と提案した。
(関連記事)
・台湾の農業・農業技術を世界に発信 第2回台湾国際農業週始まる(17.11.10)
・台湾農業の力を示す ―台湾 国際果実・野菜専門見本市2016―始まる(16.11.11)
・活力あふれる台湾の農業 ――台湾国際果実・野菜見本市で感じたこと 台湾の農業事情(上)(16.11.27)
・活力あふれる台湾の農業 ――台湾国際果実・野菜見本市で感じたこと 台湾の農業事情(下)(16.11.27)
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日