活力あふれる台湾の農業 ――台湾国際果実・野菜見本市で感じたこと 台湾の農業事情(上)2016年11月27日
台湾(中華民国)の高雄市で11月10日から12日まで開催された「第1回台湾国際果実・野菜見本市」は、既報のように成功裡に終わった。会場および高雄市周辺の加工工場、農場などの取材を通して感じた台湾の農業事情について報告する。


見本市は、13カ国183社が出展し260ブースで展示された。台湾国内外からの参観バイヤーは3918名、会場での買い付け商談は1850万米ドル(およそ19億円)以上と、初めての試みではあったが成功裡に終了したと主催者は報告している。
また、来年度は、この台湾国際果実・野菜見本市とあわせて、台湾国際農業テック見本市、台湾国際フラワー見本市を加えた3大テーマ農業総合展を開催する予定となっており、今回出展者の54%がすでに来年も出展することを確認しているという。
◆農業に力を入れる蔡政権



台湾はほぼ中央に北回帰線があり、その北部は亜熱帯、南部は熱帯気候となっている。
台北市などがある北部は、日本のシャープを買収し、スマートホンや薄型テレビなど電子機器の受託企業として知られる
鴻海精密工業に代表されるような世界的なハイテク産業が経済の中心となっている。一方、今回の見本市が開催された高雄市や台南市など南部は、農業が地域の中核的な産業となっている。
今年の5月に発足した台湾初の女性総統・蔡英文政権は、農業のイノベーションに力を入れ、アジアの主要農産物市場に隣接しているという地理的条件を活かして、「新南向国家」(東南アジア、南アジア、インドなど)、さらにASEAN(東南アジア諸国連合)やニュージーランド、オーストラリアなどの国々へ、農業技術とIT工業化の統合という台湾の優位性を活かした農産物や栽培技術を推進していこうと考えている。
農業に力を入れるのは蔡総督の祖父が農業地帯である台湾南部の屏東県出身であるため、という人もいる。
数日の高雄市滞在で、しかも見本市中心の取材だったので、台湾農業全体について言うことはできない。が、この見本市で受けた印象は、出展している生産者そして台湾の行政を含めた農業関係者からもっともよく聞いた言葉は「安全」「安心」であり、それを具体化するのが「有機・オーガニック」だという意識だった。
もう一つ強く印象に残ったことは、台湾政府は「新向南国家」へといっているそうだが、農産物およびその加工品の輸出先として「日本」への関心が非常に高いということだった。すでに日本で大きなシェアを占めているものもあり、驚かされた。
また行政が農業振興に相当に力を入れており、それは単なる補助・助成金を出すレベルではなく、日本と比べて極めて具体的だということだった。
◆50以上あるオーガニック認証団体

台湾が農産物(加工も含めて)輸出に力をいれているのは、マンゴー、パイナップル、バナナなどの果実。気候の影響もあって果実の収穫時期が長く、国内消費量を上回る収穫量がある。
生果の消費量を上回る部分をドライフルーツなどの加工品として販売していて、これを国外に輸出したいという強い希望がある。例えばドライアップルマンゴーは日本でも見ることがある。パイナップルは生果での輸出も多いが、輪切りにして乾燥加工したドライパイナップルに力を入れているところもある。
輸出するためには、安全性の確保は必須だ。そのためにGGAP(グローバル)、だけではなく日本へ輸出するためにJGAP(ジャパン)を取得、さらに台湾のGAPであるTAPも取得。その上に310項目のチェックができる「台湾オーガニック」という独自認定基準を設置している企業もある。
この企業には加工工場もあり加熱真空パックからパッケージまで一貫してでき、農産物の収穫後24時間以内に加工しているという。また、台湾では唯一だというが「ベビーリーフを土で育てている」という。このベビーリーフは日本の食品会社に輸出しているが、「3か月に1回、日本の担当者が台湾に来て、チェック・打合せをしている」という。
オーガニックについては、認定機関が大学や民間団体を含めて50以上もあるという。首都の台北市にはそれぞれの認定を受けたオーガニック農産物を販売する店が「コンビニと同じくらいある」。値段は、慣行栽培物より高いので、一般市民はあまり買えないが、シニア層など高い収入があり健康に気を遣う人たちの利用が多いという。
行政がオーガニックなどを推進する背景には、「普通は、キャベツでもレタスでも、1枚ずつ全部はがして、よく洗ってから調理」するそうで、日本のように農薬などの使用について厳しくないという実態があり、生産者はもちろん消費者の意識を高めたいという思いがあるようだ。
輸出と国内の教育啓蒙という二つの狙いがあるということのようだ。
(写真)会場風景、農村風景、台湾でメジャーな果物レンブ、レンブの栽培風景、JGAP認証書、輸出向けパイナップル包装工場
・台湾の農業事情(下)ー虎視眈々と狙われている日本市場、県政府が農業者教育に力を入れる
(関連記事)
・台湾農業の力を示す ―台湾 国際果実・野菜専門見本市2016―始まる (16.11.11)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(171)食料・農業・農村基本計画(13)輸出国から我が国への輸送の状況2025年12月6日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(88)ジチオカーバメート(求電子剤)【防除学習帖】第327回2025年12月6日 -
農薬の正しい使い方(61)変温動物の防除法と上手な農薬の使い方【今さら聞けない営農情報】第327回2025年12月6日 -
スーパーの米価 前週から23円上昇し5kg4335円 過去最高値を更新2025年12月5日 -
支え合い「協同の道」拓く JA愛知東組合長 海野文貴氏(2) 【未来視座 JAトップインタビュー】2025年12月5日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】『タコ市理論』は経済政策使命の決定的違反行為だ 積極財政で弱者犠牲に2025年12月5日 -
食を日本の稼ぎの柱に 農水省が戦略本部を設置2025年12月5日 -
JAの販売品販売高7.7%増加 2024年度総合JA決算概況2025年12月5日 -
ポテトチップからも残留農薬 輸入米に続き検出 国会で追及2025年12月5日 -
生産者補給金 再生産と将来投資が可能な単価水準を JAグループ畜酪要請2025年12月5日 -
第3回「食料・農林水産分野におけるGX加速化研究会」開催 農水省2025年12月5日 -
新感覚&新食感スイーツ「長崎カステリーヌ」農水省「FOODSHIFTセレクション」でW入賞2025年12月5日 -
(464)「ローカル」・「ローカリティ」・「テロワール」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月5日 -
【スマート農業の風】(20)スマート農業を活用したJAのデジタル管理2025年12月5日 -
「もっともっとノウフク2025」応援フェア 農福連携食材を日替わりで提供 JA共済連2025年12月5日 -
若手職員が"将来のあるべき姿"を検討、経営層と意見交換 JA共済連2025年12月5日 -
IT資産の処分業務支援サービス「CIRCULIT」開始 JA三井リースアセット2025年12月5日 -
「KSAS Marketplace」に人材インフラ企業「YUIME」の特定技能人材派遣サービスのコンテンツを掲載 クボタ2025年12月5日 -
剪定界の第一人者マルコ・シモニット氏が来日「第5回JVAシンポジウム特別講演」開催2025年12月5日 -
野菜との出会いや季節の移ろいを楽しむ「食生活に寄り添うアプリ」リリース 坂ノ途中2025年12月5日


































