コロナ禍 日雇い労働を直撃-豊洲市場から2021年10月12日
コロナ禍による緊急事態宣言と人々の自粛で外食産業は大きな痛手を被っている。飲食店や居酒屋に鮮魚を提供する水産業も深刻な打撃を受け、東京都の豊洲市場で働く人の暮らしにも影響を与えている。コロナ禍発生からどんな問題が起きているのか、豊洲市場で働く人を訪ねた。

緊急事態宣言が解除された10月初め、全国一般東京地本の東京中央市場労組の中澤誠執行委員長に聞くと「今日は忙しかったね。少しは活気が戻ったかなと。飲食店の時短は続くので、これが続くのかどうか」との答えが戻ってきた。9月末からの台風16号の接近で漁ができず水揚げが減っていたこともあって、この日、魚河岸は久々に活況を取り戻したようだった。
中澤誠執行委員長
◇ ◇
最初の緊急事態宣言が出た昨年(2020年)4月。東京中央卸市場全体で水産物の取扱い量は前年同月比84%、金額では同65%と落ち込んだ。なかでも鮮魚は量で同81%、金額で60%で、これが活魚となると量で41%、金額で31%と深刻だった。
活魚の販売には手間と経費がかかる。それが飲食店の営業停止で「活魚に値がつかなかった」。
活魚として売れないため、本来なら池場に並ぶ天然のタイやコチが箱に入って一般のセリ場に並ぶ光景もあったという。
「値段は1kg300円とか。本当なら1kg2500円ぐらいの値がつく魚なのに。気の毒になりましたよ」場内に仲卸は480社。量販店など卸している仲卸はその後の巣ごもり需要で持ちこたえたようだったが、個人経営の料理屋に販売している仲卸は「そもそもお客さんが来なくなった」。個人経営の飲食店からは「売り上げは前年比30%」という話も聞いたという。
今年の4月の実績は昨年4月のレベルを上回っているが、それでも多くの業界がそうであるように、繰り返される緊急事態宣言の影響で、コロナ以前には戻っていない。
仕事を引退する人も
労組はこれまで労働者供給事業を行ってきた。仲卸から求めに応じて一日平均15人ほどの労働者を派遣したきた。
しかし、コロナ禍で魚が売れず仕事が半分になったという仲卸も。働く人も必要とされず、昨年4月以降は一日3~4人に減った。
「12人は仕事がない状態になりました。そのままやめた人も結構います」。
実は中澤委員長自身がその1人だ。昨年の4月に仕事がなくなった。労組の業務があるから豊洲市場には通っており、昨年12月に長年の知り合いの仲卸から「うちに来ないか」と声を掛けられた。といっても日雇い労働には変わりはない。仕事は午前3時から11時ごろまで。2時から始まることもあるという。
長年、卸売市場で働いき、これまでも景気を肌身に感じてきた。リーマンショックのときもひどかったが、親しい仲間や長年ここで働き仲卸の仕事を熟知していたベテランが去らなければならない今回、「リーマンショックの比じゃない」と話す。
働く人の安全確保を
一方、コロナの感染リスクも身近に感じた。昨年秋に豊洲市場で感染が広がった。東京都は11月に市場関係者全員にPCR検査を実施し、確認された陽性者を隔離した。その後、年明けの2月には発生はゼロとなったが、「やはり感染は怖かったですよ。でも市場に行って仕事をするのをやめるわけにはいきません」。
緊急時宣言が解除され、時間制限はあるものの、飲食店の営業も再開された。市場が次第に活気を取り戻し「年末に向けていい商いをしたいというのが経営者も含めみんなの思いではないでしょうか」という。
そのためにも市場とそこで働く人の安全を確保するためは「検査を充実させるべきだ」というのが中澤さんの現場での実感だ。
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