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【緊急寄稿】どう捉えるか、日豪EPA大筋合意 鈴木宣弘・東京大学教授2014年4月10日

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・最小の利益と最大の損失
・従来の手法、適用できず
・「漂流」のち「急展開」
・やはり公約違反
・「TPPに有利」はごまかし
・日豪を最大限の譲歩とし、TPPを頓挫させるべき
・万全な国内対策の必要性
・消費者は健康リスク問題も認識を

 日豪EPA(経済連携協定)は、2006年末に、交渉入りの是非を検討する共同研究会報告が出され、2007年4月23日から政府間交渉が開始、7年間の「漂流」を経たのち急展開して、ついに2014年4月7日、大筋合意に至った。国内での猛反対を押し切って、官邸主導で交渉開始宣言をしたのは、くしくも第一次安倍内閣であった。ただし、「米、小麦、牛肉、乳製品、砂糖など重要品目は除外または再協議の対象となるよう、政府一体となって交渉する」という衆参農林水産委員会決議が行われた。

◆最小の利益と最大の損失

鈴木宣弘教授 なぜ日豪EPAが大論争になったのかというと、日豪EPAは、それまでのEPAに比べて、
 [1]すでにオーストラリアの自動車・家電等、鉱工業品の輸入関税が低く、また現地生産も進んでいるため、日本の産業界の利益は最も小さい
 [2]オーストラリアから日本への農産物輸出に占める日本側の重要品目の割合が極めて高く、かつ、1戸当たり耕地面積が2000倍もあるため日本農業との生産性格差は最大であり、なおかつ、安さだけでなく品質も高く、さらには、輸出余力も大きいため、日本農業及び関連産業への打撃は最も大きい、という特質を持つ。 つまり、最も鉱工業分野のメリットに乏しく、最も農業及び関連産業のデメリットは大きい対象国だからである。

(写真)
鈴木宣弘教授

◆従来の手法、適用できず

4月7日、迎賓館で握手する安倍晋三首相(左)と豪州のトニー・アボット首相(首相官邸ホームページより)  さらに、従来のような交渉妥結の手法が使えないことも大きかった。実は、EPA交渉における「農業悪玉論」が誤解であることは、タイのような農産物輸出国とのEPAでも、農産物に関する合意が他の分野に先んじて成立し、難航したのは自動車と鉄鋼だったということにも示されている。しかし、今回は条件が異なった。
 タイの場合には、「協力と自由化のバランス」を重視し、タイ農家の所得向上につながるような様々な支援・協力を日本側が充実することと、日本にとって大幅な関税削減が困難な重要品目へのタイ側の柔軟な対応がセットで合意された。しかし、先進国であるオーストラリアは援助対象国ではない。
 また、一般に言われているのに反して、我が国の大多数の農産物関税はすでに非常に低く、品目数で1割強程度の重要品目が高関税なだけである。したがって、重要品目への柔軟な対応を行っても、結果的に品目数ではかなりの農産物をカバーするEPAが可能なのである。 柔軟な対応とは、関税撤廃の例外とすることで、完全な除外や再協議として協定から外すほかに、メキシコでの豚肉のように、当該国向けに低関税の輸入枠を設定するといった方法がある。しかし、オーストラリアの場合、重要品目の輸出が農産物貿易に占める割合が極めて大きい(牛肉、ナチュラル・チーズ、麦、砂糖、コメだけで、オーストラリアからの輸入の5割を超える)ため、それらを含めないと貿易量ベースの農林水産物のカバー率が5割を切ってしまう。つまり、従来のような柔軟な対応の余地が極めて少ないと思われたのである。
 しかも、同国がこれまで締結したEPAは、関税撤廃の例外品目が非常に少ないのである。例えば、米国との場合、砂糖と主要乳製品以外は、すべて関税撤廃の対象となった。米国は、完全除外の砂糖のほかに、主要乳製品はオーストラリア向けの低関税枠の設定・拡大を約束し、関税撤廃は免れたが、牛肉は最終的には関税を撤廃することになった。タイとは、乳製品の関税撤廃期限を20年と長期にしたが、原則すべて関税撤廃を貫いた。

(写真)
4月7日、迎賓館で握手する安倍晋三首相(左)と豪州のトニー・アボット首相(首相官邸ホームページより)

◆「漂流」のち「急展開」

 案の定、オーストラリアは、日本に対しても、重要品目の関税の全廃を強硬に要求し続けたため、日本側も国会決議を盾に応じられないとの姿勢を変えず、平行線のまま7年が経過した。
 それが、ここにきて、急展開したのは、オーストラリア側は、農産物の中でも最大の輸出品目である牛肉について、早く米国よりも有利な状況をつくる必要が生じたことがある。日本がTPP交渉参加を米国に承認してもらうための「入場料」として、BSE(牛海綿体脳症)に絡んで米国産牛肉に課していた輸入条件を昨年緩和したため、急速に米国産牛肉が日本市場でオーストラリアのシェアを奪い始めた(下図参照)ので、これをくい止める必要が認識されたのである。低関税が適用される輸入枠について、過去数年間の平均でオーストラリアが了解したのも、このままでは、米国のシェアが拡大し、オーストラリアのシェアが低下してしまうので、米国のシェアが低い段階のオーストラリアの実績が確保できるならばメリットがある、と判断したのである。
 日本としては、極端な関税撤廃を求められるTPPよりも、TPPと同等の極端なものになりかねないと懸念された日豪EPAを、少しでも柔軟な形で決着できれば、「TPPよりはましだ」という雰囲気が醸成され、双方に歩み寄る環境が生じたのである。
 大きなメリットはないと言われた自動車などについても、韓豪FTAが発効することによって、米国のみならずオーストラリアにおいても日本車が韓国車よりも不利になるとの焦りが生まれたことも妥結が急がれた一つの背景と思われる。
 結果として、日豪EPAは、当初懸念されたよりは、柔軟な形で決着したことになる。

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◆やはり公約違反

 しかし、今回のような牛肉、プロセス・チーズなどの低関税枠の設定やナチュラル・チーズの無関税枠の設定は、やはり、「米、小麦、牛肉、乳製品、砂糖など重要品目は除外または再協議の対象となるよう、政府一体となって交渉する」という日豪EPA交渉に関する衆参農林水産委員会決議に反すると言わざるを得ない。

◆「TPPに有利」はごまかし

 日豪で決まれば、TPPで米国を同程度の水準での妥結に誘導できるから、日豪EPAをTPPに先行させて「牛肉や乳製品でのある程度の譲歩はやむなし」の雰囲気が醸成され、国益のラインがいつの間にか後退させられた。うまくごまかされている。日米豪の力関係からして、米国が、関税の全廃も含めて、日豪の結果以上の極端な要求をしてくるのは目に見えており、米国が日豪に従うとの読みは甘すぎる。

◆日豪を最大限の譲歩とし、TPPを頓挫させるべき

 TPPを妥結しようとすれば、日豪を出発点に、さらなる譲歩を重ねるしかなくなる。したがって、いま覚悟を決めるべきは、日豪EPAでの妥結水準が日本の最大限の譲歩であり、TPPでもこの「レッドライン」以上は「1ミリたりとも譲れない」と突っぱね続けて、TPPを頓挫させることである。
 TPPのような極端な協定を拒否するには、ある程度の柔軟な協定なら受け入れるとの姿勢はやむを得ないのも現実であり、その点での最大限の譲歩が日豪だと位置づける必要がある。
 また、今回の日豪EPAの曲がりなりにも柔軟な決着は、TPPという筋の悪すぎる協定を回避して、もっと柔軟で互恵的な選択肢としてのRCEP(日中韓、アセアン、インド、オーストラリア、ニュージーランド)を加速する上でも効果的である。RCEPを柔軟な協定にする上での一番のネックがオーストラリアの強硬さであったから、その点にベースとなるラインが示せたことになる。また、日・EUの協定をどの程度の柔軟性で進めるかについての目安にもなる。こうして、日豪の妥結ラインを基準に、TPPでない代替的な経済連携協定の推進を急ぐことでTPPを無意味なものにしていくべきである。

◆万全な国内対策の必要性

 一方で、国会決議を割り込んで譲歩してしまったことで、国内の畜産・酪農や関連産業への影響は大きいし、TPPでなし崩し的な、さらなる譲歩が進む不安も広がるので、万全の国内対策をセットにする必要がある。牛肉の関税削減の影響は、乳雄価格はもちろんだが、F1や和牛にもある程度の価格下落を引き起こし、酪農家の子牛販売収入も減少させる。関税収入の減少の一方で、生産コストと粗収益との差額補填(新マルキン)の単価が大きくなるが、必ず財源を確保して満額が支給できるよう手当する必要がある。
 酪農経営については、さらに、チーズなどの乳製品価格の下落が加工原料乳価の下落を引き起こす。補給金単価が固定的な現状では、これに十分に対応できないので、生産コストと市場価格との差額を伸縮的に補填できる仕組みに変更する準備が不可欠である。
 牛肉の価格下落は、競合する豚肉や鶏肉の価格下落にもつながる。こうした畜産・酪農への影響を回避することをしっかりと示さないと、ただでさえ、飼料価格高騰と長引くTPP交渉の先行き不安から、投資できずに廃業する経営が増えてきている中で、我が国畜産・酪農への打撃は広がり、同時に、飼料米の増産による水田農業政策の構想も立ちゆかなくなる。

◆消費者は健康リスク問題も認識を

 なお、牛肉関税が下がり、オーストラリア産や米国産牛肉が増えると、一部で発ガン性リスクが懸念され、日本では使用が認可されていない成長ホルモン入り牛肉の輸入がさらに増えることになる。
 EUは成長ホルモンが入っているとして米国産牛肉の輸入を拒否しているが、オーストラリア産を拒否していないので勘違いしている人が多いが、オーストラリアがEU向けについては、成長ホルモン未使用を証明しているため輸入が認められているのであり、日本向けのオーストラリア産牛肉は、特別な場合を除き、成長ホルモンが入っている(所管官庁に確認済み)。
 消費者は、農産物関税が下がることは農業だけの問題なのではなく、国民全体の命・健康のリスクの増大なのだということをもっと認識する必要がある。

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