農政:世界の農業は今
【第1回メキシコ】NAFTAで疲弊進む-トランプ発言の背後にあるもの-2016年6月16日
メキシコの農業・農村
人間の生存に不可欠な食料。それを生み出す農業はそれぞれの気候や土地条件のなかで営まれてきた。一方で市場経済化によるグローバル化が進み、とくにわが国では、このところ農業の成長産業化や競争力強化が声高に叫ばれている。そんな今、世界各地の農業はどうなっているのか-。改めてその実態を考えるため専門家の協力による新シリーズを始めます。第1回はTPP参加国でもあるメキシコ。
◆米国経済と一体化
米国大統領選でトランプ氏が、米国民の所得減少と失業の原因はメキシコからの不法移民にあるとし、「メキシコとの国境に壁を作る」と発言して物議を醸しているが、トランプ発言の背後にはNAFTA以降の市場経済化に伴うメキシコ農業の困窮がある。
メキシコは中米の大国であり、面積は197万平方kmで日本の5倍、人口は日本と同程度の1億22百万人である。この地域は古代よりマヤ、アステカ文明が栄えていたが、そこに16世紀にスペイン人がやってきて征服した。メキシコは3世紀にわたる長い植民地時代を経て1821年にスペインから独立したが、その後、米国との戦争によってテキサスやカルフォルニアが米国に割譲された。
メキシコは1910~17年のメキシコ革命によって農地を農民に分配して共有化(エヒード)を進め、また石油資源等の国有化を行った。その後、メキシコ経済は石油や銀の輸出で発展し、70年代には資源価格の高騰を背景に外国からの投資が増大した。しかし、80年代にはいって石油価格が下落するとメキシコ経済は急速に悪化し、累積債務危機に見舞われることになった。危機への対策としてメキシコはIMFの提言に従って貿易・資本の自由化を進め、さらに92年には米国、カナダとの間でNAFTA(北米自由貿易協定)を締結し(94年発効)、その後、米国経済との一体化が進んだ。
◆商業的農業は成長

NAFTA以降、メキシコ経済は表面的には危機を脱して成長軌道に乗ったように見えるが、メキシコ国内では様々なひずみが表れた。メキシコでは60年代より国営食糧公社(CONASUPO)がトウモロコシ、小麦などを保証価格で買い入れる価格支持制度を有していたが、99年に食糧公社は解体され価格支持制度は廃止された。また、NAFTAによってトウモロコシの関税は段階的に引き下げられ(08年に撤廃)、その一方で企業の農地所有が認められた。その結果、米国からの農産物輸入が急増して小農の貧困化が進み、さらには中国、ASEANからの工業品輸入増大がメキシコの地場産業に大きな打撃を与えた。
メキシコは北部と南部で気象条件が異なり、農業構造も異なる。北部は比較的乾燥しており農地は広大であるが、南部は熱帯林が茂り零細な農家が多い。メキシコはトウモロコシ(トルティージャ、タコス)を主食としており、メキシコ国内でトウモロコシを2266万トン、小麦を336万トン生産しているが、NAFTA以降米国からの輸入が増加し、11年の輸入量はトウモロコシ948万トン、小麦405万トン、大豆334万トン、ナタネ159万トンで、輸入量は94年に比べトウモロコシ2.4倍、小麦2.9倍、大豆1.3倍、ナタネ3.2倍になっている。米国から輸入しているトウモロコシは主に飼料用に使われる「黄トウモロコシ」であり、メキシコ人が食べる「白トウモロコシ」の生産量は維持されているものの、メキシコは食料を米国に大きく依存することになり、また食糧公社廃止後、メキシコの穀物流通はカーギル等の米国穀物メジャーが支配する状況になっている。
その一方で、米国からの穀物輸入によってメキシコの畜産業は発展し、13年の生産量は肉類608万トン(94年の1.7倍)、牛乳1104万トン(同1.5倍)、鶏卵232万トン(同1.9倍)とそれぞれ大きく増大したが、同時に肉類の輸入量も54万トン(94年)から150万トン(11年)に急増した。また、野菜、果実部門も発展し、メキシコはトマト(輸出量149万トン)、スイカ(54万トン)、キュウリ(50万トン)、レモン(47万トン)、タマネギ(37万トン)、アボカド(35万トン)、マンゴー(29万トン)などの輸出を増加させている。
◆農地手放し不法移民に
このように、NAFTA締結以降、メキシコでは、大規模な商業的農業が発展する一方で、商品経済が農村部にも浸透し、政府の助成措置や関税が削減される中で小規模農家の生活は苦しくなった。そのため小規模農家は農地を企業的農業に貸して米国に出稼ぎに行く動きが盛んになり、それが米国に1000万人いるとされる不法移民の大きな要因となっている。
私が13年にメキシコを訪問した際に、大学等の研究者に会ってNAFTAの評価について話を聞いたが、NAFTAは最悪の協定であると厳しく非難する研究者がいる一方で、当時のメキシコ経済の状況ではやむを得ない選択であったとする研究者もおり、NAFTAに対する評価は二分していた。
メキシコは、2000年にEUとFTAを締結したあと、日本とも04年にFTAを締結し、その後、メキシコから日本に対して豚肉、アボカド、牛肉、かぼちゃ、アスパラガスなどの輸出が増加した。TPPはNAFTAの手法をアジア太平洋地域全体に適用するものであるということができ、NAFTAがメキシコの経済・社会にもたらした問題はTPPが発効すると日本やアジア太平洋地域に何が起きるのかを示唆していると言えよう。
(写真)トウモロコシ畑で農場主の指示を受ける先住民の労働者ら、出稼者が立てた自分たちの像(メキシコ北部ヌエボレオン州で)
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