農政:世界の農業は今
【第4回 ロシア・ウクライナ】農業生産額の5割を占める住民副業2016年12月9日
ウクライナは4割を輸出
ロシアのプーチン大統領が来日し北方領土問題を中心に首脳会談が行われ、日ロの外交の未来に注目が集まる。一方でロシアの農業・食料問題はあまり知られていない。今回はウクライナを含めた食料・農業事情について解説してもらった。
◆近くて遠い国ロシア
ロシアは日本の隣国であり、ロシアが占領・実効支配している北方領土は北海道の目と鼻の先にある。日本とロシアは歴史的にも深い関係があり、ロシア文学、チャイコフスキー、ロシア民謡、ロシア料理など日本人はロシアに対して強い関心を持ってきた。しかし、ロシアの国土拡張政策のなかでロシア脅威論が唱えられて日露戦争に至り、またその後も日本とソ連は中国東北部(旧満州)を巡って対立し、戦後も東西冷戦体制のなかで日ソ関係は難しい状況が続くなど、日本とロシアは必ずしも良好な関係を構築してこなかった。
◆ソ連農業は「アキレス腱」
1917年にロシア革命が起きて社会主義国家「ソビエト連邦」が成立し、社会主義経済を導入したが、農業分野においても農業集団化を進め、それまでの地主所有の土地をコルホーズ(集団農場)、ソフホーズ(国有農場)に再編した。
ソ連の国土は広大であり、南部のドン川、ボルガ川、ドニエプル川流域は豊かな黒土地帯であるが、旧ソ連にとって農業は「アキレス腱」と言われ、農業の生産性は低く旧ソ連は恒常的な食料輸入国であった。特に、70年代初頭のソ連の穀物大量輸入は、世界食料危機の引き金になった。
ソ連の社会主義経済は初期は順調に推移していたものの、次第に技術革新、情報通信革命に乗り遅れ、ゴルバチョフが80年代後半から改革運動(ペレストロイカ)を進めたものの、91年にソ連邦は崩壊し15の国に分裂した。15カ国のうちバルト3国を除く12ヶ国(うち中央アジア5ヶ国、コーカサス3ヶ国)がCIS(独立国家共同体)を結成し、バルト3国は04年にEUに加盟した。
ソ連崩壊後、経済は混乱したが、石油資源が豊富なロシアは、石油価格高騰もあいまって2000年頃から好転し、近年ではロシアはBRICSの一つとして注目を浴びている。
◆伸びるロシアの農業
ロシアの耕地面積は1億2200万haで、日本の28倍、米国の7割であるが、穀物の単収は2.4トン/haと、米国(7.6トン)、日本(6.0トン)を大きく下回っており、ロシアの穀物生産量(1億315万トン)は米国の4分の1である。ロシアの穀物作付面積はソ連崩壊後に約4割減少したが、近年は回復し単収も増加したため、13年においてロシアは穀物を1918万トン輸出している(うち小麦が1380万トン)。畜産物の生産量も、ソ連崩壊以降急減したが、近年回復し(14年の肉類生産量854万トン)、その一方で肉類を222万トン、乳製品を521万トン(生乳換算)輸入している。
◆ウクライナの農業の今
ウクライナは、旧ソ連ではロシア(1億4400万人)に次ぐ人口規模(4500万人)を有する国である。南は黒海に面し豊かな穀倉地帯として知られており、ウクライナの耕地面積は3200万haで、ロシアの耕地面積の4分の1であるが、単収はロシアより高く(4.4トン/ha)、穀物生産量は6338万トンで、うち約4割(2740万トン)を輸出している。このうちトウモロコシの輸出が1673万トンで6割を占める。ただし、ウクライナの穀物生産は干ばつ、冬枯れによって生産量が落ち込むこともあり、不安定である。ウクライナでも、ソ連崩壊後、肉類の生産量は大きく減少したが、近年では回復しつつある。
◆小規模農場が重要な役割
ソ連は社会主義体制のもと農業集団化を進め機械化した大規模農業経営を実現したが、ソ連崩壊後もこうした農場は穀物、油糧種子で大きなシェアを有している。
その一方、ソ連時代から自留地という各農民が所有する小規模な農場も並存し、またほとんどの都市住民はダーチャという自家消費用の菜園を持っている。こうした小規模の農場・菜園(「住民副業」)は現在も存続しており、農業生産において非常に大きな役割を担っている。例えば、ロシアでは住民副業の農園・農場が3400万もあり(平均規模は農村部0.4ha、都市部0.1ha)、こうした農場がジャガイモの89%、野菜の79%、牛乳の52%を生産しており、ウクライナでも同じような状況にある。
◆日本との関係強化も
地球温暖化のなかで、今後、ロシアの食料生産が増大し輸出がさらに増大する可能性があり、ウクライナも、新しい農業技術、品種の導入によって穀物増産のポテンシャルがある。現在は、物流インフラ(倉庫、輸送手段、港)の不備もありロシア、ウクライナの穀物の品質は悪いが、日本としてロシア、ウクライナからの食料輸入ルートを持つことは食料安全保障の観点から重要であり、日本はこれらの国と長期的視点に立った関係を構築する必要があろう。
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