農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
種子法復活 議員立法で2018年4月6日
◆各地で広がる不安
3月23日の日本農業新聞三面トップに「種子法復活提出へ 希望各党に賛同呼び掛け」と題した次のような記事があった。
「希望の党は22日、3月末で廃止される、稲、麦、大豆の種子生産を都道府県に義務付ける主要農作物種子法(種子法)について、復活させる法案を今国会に提出する方針を固めた。都道府県による種子生産が後退する可能性があるとして、懸念が広がっているためだ。今後、他の野党にも賛同を呼び掛け、早期の提出を目指す(下略)。」
そして翌24日、「優良種子安定供給継続、兵庫、新潟が条例」と題して、"主要農作物種子法...が4月に廃止されることを受け、兵庫県と新潟県が稲や麦、大豆の種子の安定供給を継続するための条例を制定した。優良種子が安定供給されなくなったり、種子が値上りすることへの不安の声が生産現場に広がっていたことを踏まえたもので、両県ともに2018年度予算で種子の安定供給を継続するため、前年度なみの予算を確保した(後略)"という記事が一面で報道された。
◆食料主権に禍根
この動きは兵庫、新潟に止まらないだろうと考えていたところ、30日の同紙は「種子法廃止地方から懸念 国会へ意見書50件超」と題した記事を一面に掲げ、社説で「種子法廃止 食料主権に重大な禍根」と論じた。記事及び社説を引用させていただこう。
「主要農作物種子法...が3月末で廃止されることを受け、市町村を中心とした地方議会から国会に提出された意見書が50件を超えることが分かった。都道府県が従来通り種子供給を行えるよう財源を確保することや、企業による種子開発の独占を招かないよう求める意見が多い。種子法に代わる立法の検討を訴える声もある。法廃止で種子の安定供給に向けた都道府県の役割が後退しないか"不安は根強い"(中略)。
参院では種子法廃止に関する地方議会からの意見を、昨年11月から今月28日までに9都県から53件を受理。...衆院も同期間で9都道府県から35件を受理した他、受理手続き中の意見書が21件ある。多くの意見書が衆参両院に出されているとみられる。"
社説では冒頭、食と農の未来が危うい。...主要農作物種子法が"今月末で廃止される。民間参入を促すためだという。来年度は全県でこれまでの供給体制を維持するが、根拠法を失えば、将来の不安は拭えない。基礎食料の種子という「公共財」がビジネスに支配されれば、食料主権を脅かすことになるだろう"とした上で、"種子を制するものは食料を制する。食料主権をないがしろにする国は、食と農の未来に責任を持たない国である。種子法廃止はそれほど重い意味を持つ。"を締めとしている。
◆与党も巻き込め
農水省が農業競争力強化支援法案と一緒に主要農作物種子法廃止法案を出した時点で、私は本欄(113)で"農業競争力強化支援と銘打ってはいるが、この法案のなかみで「競争力強化支援」になるのか疑問だし、政府によるJA活動への過剰介入容認根拠法にする惧れが多分にあり、国会での究明を望むものだが、この新法が制定されるより主要農作物種子法が廃止になることのほうが大問題...、「原種及び原原種の生産」は多くの人手と費用が必要だが、種子法の廃止は人手と費用のかかる事業から手をひかせることになりかねない。廃止を決めた農水省は、米の優良品種供給体制が崩れることはないと考えているのであろうか"と論じたのだが、むろん農水省から品種供給体制はこうするから大丈夫というような政策提案があったとは、今まで聞いていない。
"優良品種供給体制が崩れる"ことへの危惧が、"地方議会から国会に提出された意見書が50件を超えること"にもさせたのだろう。希望の党が種子法復活法案の今国会提出をきめたのも、こうした地方議会の動きに応えるためであろう。30日の日本農業新聞は、同党の復活法案骨子ができたことを報じていたが、同時に"衆参の農林水産委員会などでは、他の野党からも同法廃止への懸念を示す意見が目立ち、第一党の立憲民主党などでは種子法の維持・復活を目指す動きがある。希望が法案骨子を決めたことを踏まえ、法案提出に向けた野党内の調整が活発化する見通しだ"とも報じている。"野党内の調整"が与党農林族も巻き込んで種子法復活になってほしい。
もともと種子法廃止は16年9月の規制改革会議の提起で始まったことであり、種子法が果してきた役割などはほとんど議論がなく、廃止の理由も関係者の納得を得られるものは無かったことを、与党農林族の先生方も十分承知のところだった。だからこそ廃止法案採決に当って、政府に都道府県の種子生産の予算確保や外資による種子独占の防止に努めることを求める附帯決議もなされたのである。是非とも、与党も巻き込んで種子法復活を議員立法でやってほしい。(本紙3月30日号10面も参照を)
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