農政:バイデン農政と日本への影響
【バイデン農政と日本への影響】第20回 州知事選敗北がもたらすバイデン政権の危機~民主党は地方有権者へ何を訴えるのか2021年11月11日
米国では11月の「第1月曜の翌日の火曜」が選挙の日。今年も2日の火曜日、議会の補欠選挙や知事選などが複数の州で行われた。バイデン大統領はその5日前の10月28日、気候変動・社会福祉対策の大型歳出法案の当初予算を1兆7500億ドル(約200兆円)へ半減した、新たな枠組みを発表した。
米国バージニア州の農村部と都市部の郡における共和党候補の得票率
無党派層の「民主党離れ」
国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)の首脳級会合(11月1、2日)へ出席し、気候変動対策に対するバイデン政権の本気度を内外へ示すとともに、大型歳出法案の早期実現の可能性を米国民へアピールして選挙の勝利に貢献することを、大統領は狙ったのだ。
歳出法案には多額の農業・地方対策費が含まれた。脱炭素農業の推進や農村経済の活性化の予算は今後10年間で900億ドル(約10兆円)に及ぶ。
なかでも、(1)休耕期のカバークロップ(被覆作物)の植え付け奨励(1エーカー25ドル・ha当たり7000円弱)など、脱炭素農業の推進と土壌保全対策に223億ドル(約2兆5200億円)(2)トウモロコシ由来のエタノールや大豆由来のディーゼルなどバイオ燃料の供給促進に9億6000万ドル(3)困窮家庭の子弟への食料支援(100億ドル追加)などについて、農業関係メディアは詳しく報道した。
全米農民連盟のロッブ・ラルー会長は、「家族経営農家こそ気候変動問題の解決に不可欠な存在だ。歳出法案は農家の脱炭素農業の実践を加速する」と述べ、大統領の提案を高く評価した。
しかし、新たな枠組みの発表が選挙結果へプラスに働くことはなかった。来年11月の中間選挙の前哨戦として注目を集めたバージニア州知事選では、共和党の新人候補が勝利。大差での当選が予測されたニュー・ジャージー州知事選は2.6ポイント差の辛勝に追い込まれ、オハイオ州2選挙区での下院議員補選も1勝1敗。全体として民主党の党勢後退を強く印象付ける結果となった。
バージニア州での敗因は「無党派層の民主党離れ」と、主要メディアは分析した。だが、「ルーラル・アメリカ(アメリカの農村部)が再び吠えた」などの見出しをかかげ、地方有権者の高い投票率と共和党候補への圧倒的支持が同党候補の勝利に貢献したと強調するメディアも少なくない。
「民主党離れ」には、(1)インフレや雇用などの身近な経済問題を民主党は優先していないとの批判や(2)新型コロナ対策への不満(3)気候変動・インフラ法案をめぐる民主党の内部対立への嫌気(4)人種差別の歴史等の教育やコロナによる学校閉鎖への反発など、有権者の様々な反応が影響した模様だ。
身近な経済利益の提示こそ最重要課題
農村部では民主党離れがさらに進んだ。バージニア州の郡別の投票結果と世帯数に占める農家の割合を比べてみると、農家の割合が多い郡では共和党知事候補のヤンキン氏が1年前のトランプ氏の高い得票率をさらに5ポイントも上回っている(詳しくは表参照)。
潮目は変わったのか。8月末のアフガン撤退以降、世論調査でバイデン不支持が支持を上回り、この数日間は前述の知事選敗北で不支持の割合がさらに増えた。11月8日現在、世論調査の平均(FiveThirtyEight社)は不支持51.3%、支持42.8%だ。
この流れが中間選挙まで続くなら民主党は同選挙で敗北し、議会の上下両院で多数を失う可能性がある。そうなれば、バイデン大統領は一期後半からレイムダック化し、政権運営が危機に陥る。3年後の冬にトランプ前大統領か、その後継者の"ホワイトハウス奪還″が現実味を帯びてくる。
"奪還″は止められるのか。2つの点が注目される。
一つは、今回の選挙敗北を機に、与党民主党のリベラル派と穏健派が結束して大型歳出法案を早急に可決し、「より良き再建」の経済的な利益を有権者へ短期間のうちに提示できるかどうかだ (なお、8年間で1.2兆ドル規模の「インフラ投資雇用法案」は11月5日に可決)。
二つ目は、社会の党派性が強まるなか、民主党が地方のトランプ岩盤支持層を切り崩し、保守的な無党派層へ食い込むには、トランプ陣営を上回る規模の草の根キャンペーンをバイデン大統領がリードし、看板政策の気候変動対策が地方有権者へ与える経済メリットをどれだけ身近に実感させられるかだ。
兼業農家の多い中小農家も含めた「ミドルクラスの強化」というバイデン公約の実現が、今こそ問われている。
一方、バージニア州知事選では税制や雇用、教育、コロナ対策などが争点となったが、気候変動対策は議論の対象にもならなかった。また、脱炭素農業に対する農家の関心は全国的に低く、肥料などの価格高騰の方が現場では切迫した問題だと伝えられる。
さらには、2023年末までに成立予定の次期農業法案の議会審議では、脱炭素農業への補助金と自然災害補償の強化が重要課題になると予想されるが、法案の中身は来年の中間選挙へ向けた農村対策に間に合いそうもない。
こうしたなか、中間選挙でも接戦の農業州が勝敗の鍵を握る。バイデン陣営は農村部の有権者の実態を踏まえて対応していかなければ、勢いを増す"トランプ逆襲″の動きを跳ね返せなくなるかもしれない。
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