農政:世界の食料・協同組合は今 農中総研リポート
【世界の食料・協同組合は今】自然保護と農業の境界線 EUにおけるオオカミ議論(1) 農中総研・小田 志保氏2024年6月4日
農林中金総合研究所の研究員が解説するシリーズ。2024年度から「世界の食料・協同組合は今」として、視点を広げ紹介する。今回は主任研究員の小田志保氏が「自然保護と農業の境界線〜EUにおけるオオカミ保護に関する議論」をテーマに解説する。
農林中金総合研究所
主任研究員 小田志保氏
2024年6月上旬に行われる欧州議会選挙では、緑の党といった環境保護派の獲得議席数に注目が集まる。EUが農業からの環境負荷の軽減を進めるなか、22年のオランダや23年末のドイツでは、農家が激しい抗議行動を繰り広げた。選挙の結果次第では、脱炭素と経済成長の両立を目指す欧州グリーンディールが後退する恐れもでてくるだろう。
すでに、環境政策の後退とみられる動きもある。23年12月に欧州委員会は、家畜被害等を理由に、オオカミ保護の緩和を提案した。野生動物の生息数を適正に間引く生物多様性保全の目的から、EUではオオカミが保護されている。選挙前の規制緩和の提案は農家票を狙ったものと、環境保護団体は強く批判している。
日本でも、獣害が深刻化し、オオカミの導入を求める声はある。23年に立命館大学が実施した、1万人の意識調査では、回答者の2割が生態系の再生を目指すオオカミ導入に賛成している<注1>。米国のイエローストーン国立公園が、1990年代にオオカミを導入し、エルク(シカ類)の個体数を抑え込んだ事例等は国内でも知られている。
一方、農家にとって、オオカミ導入は脅威だろう。これはEUでも共通していて、家畜被害を理由に、農業団体はオオカミ保護に強く反対している。以下では、EUにおける生物多様性の保全を目指すオオカミ保護に関する議論から、自然保護と農業の境界線について考えたい。
欧州のオオカミ生息地
出典https://www.lcie.org/Largecarnivores/Wolf.aspx
1. EUでの保護状況
EUでは18~19世紀に、狩猟等を理由にオオカミは絶滅した。1970年代以降に森林が回復し、生息地や餌となる野生動物が増えた為、再びその存在が確認されるようになっている。
現在、EUのほぼ全域でオオカミの生存が確認されている(第1図)。確実にオオカミが生育している地域は、アイルランド等を除く、多くの加盟国にある。23年のEU全体での生息数は2万頭以上と推計され、これは2010年代の1万頭の倍である<注2>。
オオカミは、食物連鎖の頂点捕食者として保護されている。森林や農作物に食害をもたらす野生動物を食べる益虫ならぬ、益獣というわけだ。さらに間接的には、野生動物が媒介するアフリカ豚熱等の感染症を防ぐ効果も期待される。
デメリットもある。EU全体で年間6万5500頭の家畜がオオカミの餌食となる。被害の多くはヒツジやヤギで、牛や馬といった大家畜も含まれる。家畜福祉が推進されるなか、放牧する農家には、オオカミは頭の痛い存在となっている。
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