農政:トランプの世界戦略と日本の進路
【トランプの世界戦略と日本の進路】危機に直面し気づく協同組合の価値(1) 国際ジャーナリスト・堤未果氏2025年8月18日
日本政府は米国のトランプ大統領との間で幅広い対米輸出品目に15%の関税を課すことや多額の投資で合意したが、本当に決着したのか予断を許さない。トランプ大統領の狙いは何か。さらに農協をはじめとする協同組合をめぐる国際的な動きをどう見て、どう運動に取り組むべきか。今回は国際ジャーナリストの堤未果氏に聞いた。聞き手は久保田治己氏(食料安全保障推進財団専務理事)
トランプ大統領の「関税爆弾」
久保田 内外の情勢が混沌としています。アメリカでは1月からトランプ政権が始まりましたが、その後の動きをみてどのように感じていますか。
堤 日本で一番衝撃が走ったのは「関税爆弾」でしたね。トランプさんがいきなりぶち込んだ「爆弾」みたいに日本のマスコミには叩かれていますが、アメリカは自国市場を開放し他の国からの輸入を受け入れてきました。「もう限界だ、他国はずるい」とトランプさんが口火を切っただけです。
久保田 その爆弾を各国に一気になげましたね。
堤 はい。関税自主権を使って、自国産業をもう一度元に戻すという大義名分で動いています。日本からは15%の課税に5500億ドル(約80兆円)への投資、お米などの農産品と自動車の市場開放を引き出しました。投資先はアメリカが決定し、利益も9割をアメリカが持ってゆく。トランプ氏が大統領に就任してすぐに5000億ドルの米国投資を決めたものの利益は全てソフトバンクという好条件を得た孫正義氏のしたたかさと対照的です。また、アジアで重要地域とみなされているフィリピンとは、フィリピンからの輸出品に19%の関税を課し米国製品は免税、インドネシアとはインドネシアが重要鉱物を19%の関税で提供し、アメリカの農産物とエネルギー製品を輸入するディールを結びました。
久保田 関税爆弾でアメリカの国内産業は戻りますかね?
堤 そう簡単には行かないでしょう。グローバル化した世界での貿易戦争では、一気に保護主義に戻すと自国の首を絞めることになるからです。例えばトランプ大統領が1兆ドル規模で進める目玉政策の「AIデータセンター」一つとっても、国内では2割しか生産できていない変圧器による送電網問題によって、延期される羽目になっている。全米電気工業会が警鐘を鳴らしています。国内産業を復活させるための工業部品への関税が、プロジェクト自体の障害になってしまうというパラドックスです。
久保田 なるほど。そう単純ではないのですね。国家運営の方はどうですか?
堤 こちらはダイナミックに変えられるところです。アメリカでは、政権交代すると役所も総取っ換えすることができる。実はこの機能を合わせ鏡のようにして日本を見ると、我が国を蝕んでいる元凶の一つである箇所が見えてくるでしょう。日本はいくら政治家を変えても官僚を変えることはできません。だからいつまでも官僚主導の政策が継続してしまう。政治家を変えても暮らしが楽にならない、のはこのためです。そして官僚たちは、そのことを誰よりもよくわかっています。
無知で緩い国で稼ぐ多国籍企業
久保田 トランプさんは「ディープステート」という言葉で、選挙で受かっていない人たちが権力を駆使する現状を問題視していますよね。
堤 はい。「ディープステート」という言葉は日本では陰謀論の代名詞のように言われていますが、アメリカでは一般的に広く認知されています。有権者の手の届かないところでやりたい放題していた人々を辞めさせたり、そういう国家プロジェクトの予算を切ったりしているのもその一つです。今回、ロバート・ケネディ・ジュニア氏が保健福祉長官になりましたが、早速食品添加物の規制から始めてかなり思い切った改革を実施しているんですね。国内の消費者からは拍手喝采なんですが、これも経済がグローバル化しているので、アメリカの規制がきつくなると、その分危ない製品は規制が緩い国に流れてゆくので、他国は注意が必要です。
久保田 緩い国がある?
堤 あるんです! 以前、アメリカ国内で危険な除草剤や食品添加物などについて消費者が起こして勝訴した裁判を取材したことがあったんですが、負けた企業側の人に「回収するのですか」と聞いた時「いいえ、必ずしも回収するだけが手段ではありません」と言う回答が返ってきたことが今も忘れられません。規制が緩くて国民が無知な国の消費者に売れば、まだまだ稼げるというわけです。そう、日本のような。
財務省という権力
久保田 話を少し戻しますが、トランプさんの関税提案に対し、日本はどう対応すべきだったでしょうか。
堤 強気に出るべきでしたね。「では中国と組みますよ」くらい吹っ掛けて、そこからディール(取引)するとか。
久保田 どうぞ、と言われたら困ります。
堤 困らないですよ。日本は交渉というと「いかに譲歩するか」の話ばかり出てきますが、バンとはね返す。どこの国もそうやっているじゃないですか。
久保田 日本の対応としては、消費税を止めてくれるのが国民にもいいんですけどね。
堤 そうですね。ただ財務省が絶対認めません。永田町だけでは無理です。財務省解体デモなども行われていますが、財務省の傘下に国税庁があるだけでどれほどの権力を手にしてしまっているか。
ケネディ保健福祉長官の挑戦
久保田 政権に目障りな言動をすると、税務署の方がお見えになるという話も聞きます。ところで、ロバート・ケネディ・ジュニアさんは保健福祉長官として何を改革しようとしているのでしょうか。
堤 ロバート・ケネディ・ジュニアさんは弁護士ですが、彼はずっと子どもの健康をライフワークとして取り組んできました。アメリカは子どもの慢性疾患の発症率が異常で、1960年代と比較して糖尿病は10倍に増加し、10代の子の3割は小児糖尿病か予備軍、若者の3人に1人が肥満を中心にした健康問題で軍に入れないほどひどい状況なのです。病的な太り方は食べ過ぎではなく代謝異常だと分かってきたので、ケネディ氏は添加物や着色料を規制し始めました。食品業界は製薬業界に負けずとも劣らぬ資金力で政治を支配していますから、今まで誰もまともに手を出せなかった所の一つです。
今まで「陰謀論」と一蹴され封じられていたものをケネディ氏は「議論のテーブル」に載せた。議論されることで1つの扉を開けたのです。
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