農政:石破首相退陣に思う
【石破首相退陣に思う】「失われた30年」脱却 道なお遠し 横浜国大名誉教授・田代洋一氏2025年9月10日
石破茂首相(自民党総裁)が7日、官邸で緊急記者会見を開き、退陣する意向を示した。選挙での相次ぐ敗北を受け、党内では首相が責任を取らずに続投する姿勢に反発が強まっていた。そこで横浜国立大学名誉教授の田代洋一氏に「石破首相退陣に思う」として緊急寄稿してもらった。田代氏は「内閣が何をやりたいか分からず退陣を迫られたのは無念だろう」とするものの、日本の課題を浮き彫りにした点は評価するとした。(敬称略)
記者会見に臨む石破茂首相、2025年9月7日(首相官邸ホームページより)
党の都合に負けた
石破首相が9月7日に退陣を表明した。トランプが日本に対する自動車関税、相互関税を15%にする大統領令に署名して3日後、翌日に総裁選前倒しの意思確認が行われるギリギリのタイミングだった。内閣支持率は急上昇しつつあり、それが国民の声だったが、石破は、「党を割ってはならない」とする「党の都合」をとった。
持論はどこへいった?
2024年秋の総裁選から衆院選に至る過程で、本紙に「石破首相よ持論に戻れ」を書いた(以下「前稿」)。石破は直前に出版した『保守政治家』(講談社)で、多くの持論を語っている。曰く、日米地位協定の改訂、地方創生、教育無償化、選択的夫婦別姓、食料自給力向上、防災省創設、政治改革大綱の完全実施等々。しかしながら持論にほとんど手をつけずに終わった。
「一内閣一仕事」がせいぜい、まして党内基盤が弱く、かつ自ら招いたとはいえ少数与党の身としては、野党との連携に腐心せざるを得なかった。
石破は、同書で、「私は原稿を読んでしゃべる人はあんまり信用しないようにしています」、「愛を告白するときに原稿を読む人はいません」(191~2ページ)と述べている。ならばもっと持論を語ってほしかった。
安倍政治からの脱却
石破政権が本当にやりたかったのは何か。それは安倍政治、アベノミクスからの脱却ではないか。しかるに石破は裏金問題について「たんなる記載漏れ」として徹底追及せず、自ら商品券を配ったりし、自民党体質にのみ込まれた。自民敗北の真因は安倍派の裏金問題を払拭し切れなかったことにある。今回の自民党の総裁選騒動は問題の本質を取り違えている。危機を疑似政権交代でかわすことが自民党のお家芸だったが、それもできなくなったということか。
最賃制賃金は若干引き上げられたが、地方創生には程遠かった。そのためか、石破は総裁選では地方票で勝ったが、今回は多数の地方県からも総裁選前倒し要求が出ることになった。
石破政権が残した課題
石破は、前著の冒頭で、自分が首相になるような時は、「自民党や日本国が大きく行き詰まった時なのではないか」と述べている(20ページ)。その自己認識は当たっている。
戦後80年。日本は今、トランプ2.0の対日要求や米不足に端的に現れているように、国家存立の与件と統治システムが根底から揺らいでいる。石破政権が残した課題として、トランプ関税対応、右派ポピュリズムとの対決、「失われた30年」からの脱却、の三点がある。
トランプ2.0への対応
石破政権は脆弱な基盤の上で、トランプ関税問題に善戦した、とひとまず評価する。最初の日米合意を文書化しなかったことについて、野党もマスコミも政権を批判したが、それは的外れだったことが、9月4日の大統領令や覚書、共同声明で明らかになった。
トランプ2.0の自動車関税、相互関税での揺さぶりは、関税を「ディール」のカードとした、対米投資5,000億ドルの引き出しにあった。投資を履行しないと関税率を引き上げると脅している。石破内閣が「問題はこれから」としていたのは正論だ。
ミニマムアクセス米もほぼ米国が独占する。次は、その主食用仕向けとさらなる主食利用米輸入だ。
米国は覇権国家としてのグローバルな負担は返上しつつ、世界最強の軍は維持し、地域帝国として「アメリカ・ファースト」を追求する。日本への防衛負担は強めるが、いざとなれば見捨てる構えでもある(コルビー国務次官『アジア・ファースト』文春新書)。「防衛の石破」の正念場だったはずなのだが。

横浜国大名誉教授・田代洋一氏
右派ポピュリズムの阻止
「日本人ファースト」等の右派ポピュリズムが、トランプを真似て急台頭している。世論調査では、参政党の「日本人ファースト」を評価する者が48%、男性は55%だ(朝日新聞、7月28日)。そこには生活をないがしろにされたという思いがあろう。
表を見られたい。思い切って単純化すれば、自民が減らした分が参政党に行った(同じ粗さで言えば、維新・共産が減らした分が国民・れいわに行った)。自民党の(旧安倍派等の)保守票が、石破政権を嫌って参政党などに流れたという構図だ。自民党が右に逃げる票をつなぎとめるため、自ら右傾化する可能性が高い。
極右ポピュリズムの台頭は欧米に共通した傾向であり、その動きが日本に上陸したとも言えるが、日本の歴史を顧みれば、それは日本にとって極めて危険な動きだ。
今、日本は、トランプ2.0がグローバルな連携から手を引きつつあるなかで、CPTTP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)やRCEP(地域的な包括的経済連携)等も活用して、アジアや欧州と連携し、グローバル課題に立ち向かっていく責任がある。そのような使命に対し、「日本人ファースト」が多くの国民の共感を得ることは危険である。
自民党がいかなる候補者を次の総裁に選び、いかなる路線を追求するのか、そして多くの野党が一致して右傾化に対抗するのかが、日本の岐路になる。
「失われた30年」からの脱却
石破は前著でアベノミクスの異次元金融緩和に強く異を唱えている。しかしアベノミクス批判は既に古く、今や、「失われた30年」からの脱却の道を明示することが求められている。石破は「今後の経済政策の柱の重要な一つ」は「地方創生」としているが、 今日の課題はそれをどうやって実現するかだ。
日本は1985年のプラザ合意で円高に追い込まれ、資産バブルに逃げこんだ。そのバブルがはじけた1990年代以降は、もっぱら不良債権問題処理を旨とし、生産性向上の成果を賃金引き上げ(労働分配率の向上)に回さず、利益剰余金を準備金として内部留保する道をとった。それを決定的にしたのが、<異次元金融緩和→円安→輸出産業利益>追求のアベノミクスだ。
あげく、賃金は30年にわたり低迷し、家計の可処分所得は減り、内需は伸びずデフレに陥り、それが農産物価格の低迷、農業不況をもたらした。
「失われた30年」から脱却するには、このような経済構造を打破する必要がある。そのためには、内部留保に高率課税し、利益剰余金を賃金引き上げに振り向けさせて内需を拡大し、円安から脱却し(その点ではトランプ2.0のドル安追求はプラス!)、輸入消費財の価格を下げる必要がある(脇田成『日本経済の故障箇所』日本評論社)。過ぐる参院選が、消費税率引き下げ(野党)か現金給付(与党)かに終始したのは争点外しもいいところである。
石破ほど、「何をやりたいか」の持論をもった「保守政治家」はまれである。
その彼が「石破内閣は何をやりたいのか分からない」といわれて退陣を迫られたのはさぞかし無念だろう。しかし、いま、何が日本の課題かを明確にした点を高く評価したい。
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