農政:自給率38% どうするのか?この国のかたち -食料安全保障と農業協同組合の役割
誇り持って国民の食料を担う 農への理解を盟友一丸で発信(2)【インタビュー水野喜徳・JA全青協会長】2018年10月30日
◆自己改革を成長の力に
大金 私はかねがね、JAは家族農業と地域社会を守る「守護神」であると唱えてきました。しかし、このところ時の政権が自分たちの都合でJAグループをバッシングし、農協改革という名で強権的な攻撃を仕掛けてきましたが、JAがなければ地域社会も家族農業ももたないと思っています。水野会長は政府の農協改革とJAグループの自己改革について、これまでどのようにご覧になってきましたか。
水野 いろいろな問題が複合的にからんでいて簡単には言えませんが、地方、いわゆる田舎で暮らしている人間からすると、田舎のインフラとしてのJAの事業、これはやはりなくてはならないものです。日常生活に密着しているのがJAの事業ですし、農業者だけでなく准組合員のためにも必要なのが農協だと思います。
それから農業者にとってJAの共販システムは有用です。それは私たちが農産物を作ることに専念できるからです。私も農業の世界に入る前はモノを売る会社員でしたから、売ったものに厳しく責任を持たなければならないことは分かっています。ですから、私たちが作ることに専念し、売るのを任せることができるJAがあるのは経営リスクが分散されることになり、それを先輩たちが考えて作ってきてくれたのだと思います。
たしかに自己改革はしなければならず、今回の自己改革では生産資材の銘柄集約や低価格のトラクターの開発などにも取り組みましたが、JAグループだけではなくて民間企業も巻き込んだ活動になっており、組合員にとっては高く評価すべきことです。数年の取り組みで、これだけの成果が出たということは、まだまだJAグループも成長できるし、私たち組合員もしっかり理解してJAの事業とともに農業を発展させていくということだと思います。
JAグループは協同組合ですから、株式会社とはまったく違う。この組織は自らの組合員が運営する組織です。利益だけを追いかけるような株式会社と違い、お互いの助け合いが基本です。
たとえば、世界の穀物相場はアメリカの市場で決まっていますが、協同組合である全農は海外子会社をつくり、そこから飼料穀物を調達することで穀物メジャーによる価格支配ではなく適正価格にしている。もし全農が株式会社化し穀物メジャーが買収したとすれば、穀物相場は全世界的に影響を受け、日本は飼料穀物の輸入国ですから、それこそ日本国民の台所を直接圧迫する。その原因となるようなことを政府は進めるのか、と言いたいですね。農協を解体してしまおうということが本当に国益になるか、そこを危惧しています。
大金 戦後の食糧増産時代から今日まで、だれが国民の胃袋を満たしてきたのか。言うまでもなく一人ひとりの農業者であり、その農業者が農協に結集することによって賄ってきました。しかし政権は、ここに至って日米物品貿易交渉などといった詭弁を弄しながら、投資やサービスも交渉の対象にする事実上の日米FTA交渉入りを合意しました。9月の日米共同声明について、会長はどのように受け止めていますか。
水野 今回の日米物品防疫交渉もそうですが、もう半世紀以上も国際貿易が問題になっています。牛肉、オレンジの自由化から始まって、その都度、国内農業への影響試算に私たちは振り回され、規模拡大に二の足を踏んだ盟友もいたと思います。TPPをめぐっても非常に歯がゆい思いをしてきました。
今度はそのTPPから米国が抜け、日米二国間の物品交渉を始めるということです。政府は農産物の譲歩はTPP以上にはならないと言っていますが本当にそうか。金融や保険などの分野ではどういう交渉になるのか。日本の金融市場、円が欲しいという裏側が見え隠れしているのでは、と考えたりします。
青年部としてはどこに真実があるのかをしっかりと突き止める。国はTPP対策などの農業予算関連で対応しようとするのでしょうが、そこを見極めて、本当の意味での強い農業づくりをめざさなければならないと思います。国民の胃袋を満たすというわれわれの農業に誇りを持ってやるにはしっかりとした情報収集から始めて、強い産地をつくることが国民理解の醸成にもつながってくると思っています。
大金 政権がどんな動きをしていくか、これまで以上に厳しく注目していかなければなりませんね。今後の動向によっては、JA全青協としてしっかりした意思表示を明確にしていく局面もあり得るわけですか。
◆国益を視野情にも訴え
水野 数年前まではデモ行進などで意思表示をしていました。それが農協改革を迫られるなかで、いわば自由な意思表示も難しくなってしまったというのではなく、この問題では国民の情に訴えるような行動も必要ではないかと思っています。
われわれは農業者ですが、農業のことしか考えないのではだめだと思います。農業をしながら日本をトータルに考えて、国際貿易交渉や農業を考えるということが大事だと思います。つまり、国益ということですが、それはただ単にお金のことではなく、国民の満足度も含め、健康を守るのも農業の役割ですから、そういう多角的で広い日本の国益を考えていく。日本経済の一つの歯車としての農業なんだという意味で、視野の広い考え方をしていかなければならない時代になっていると思います。
われわれの主張は理想論かもしれませんが、それをいかに現実に近づけていくか。それは6万人の盟友がいるからできることです。日本の青年農業者が一体となって訴え続けていかなければならないと思っています。
大金 トップリーダーとしてのご活躍を心から期待しております。
(みずの・よしのり)
昭和52年生まれ。
JAあがつま理事。29年JA全青協副会長、30年同会長に就任。こんにゃく10ha、水稲2ha。
【インタビューを終えて】
清々しい会見だった。JA青年組織との半世紀の付き合いの中で、近年嬉しく感じることがある。それは、自分の言葉を持った魅力的なリーダーが多いということだ。しかも、言葉が持つ力に信を置いている。水野会長もそんな一人だろう。
ポリシーブックは、盟友たちの手作りのコミュニケーション・ツールと言える。せっかくのツールを「画餅」にせずに活用し、「国民食料の安定供給」という大義の旗を掲げた果敢な活動に期待したい。(大金)
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