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特集:持続可能な世界を拓く SDGsと協同組合

2020.01.16 
鼎談:普天間・下小野田・大金 農業・農協はだれのものか(2)一覧へ

次代担う協同組合の真価発揮を
普天間朝重・JAおきなわ代表理事理事長 下小野田寛・JA鹿児島きもつき代表理事組合長、大金義昭文芸アナリスト

普天間朝重・JAおきなわ代表理事理事長

◆経営理念◆
事業の推進は 組合員視点で

 普天間 合併したJAおきなわで常務を1期、専務を2期務めました。いずれもトップを支える立場でやってきましたが、実際にトップに立ってみると、自分で決断するのは大変なことだなと感じましたね。常務・専務のころからトップの立場だったらどうするかと、当初から考えてきましたが、最初は機構を改革して職員の働きやすい環境・条件をつくることでした。

 機構改革はトップが何を考え、この組織をどう動かしていこうとしているかなどのメッセージを組合員にも、職員にも伝える最も有効な手段だと考えていたからです。

 機構改革の理念は原点回帰であり、基本方針が総合事業機能発揮、期待される効果が事業横断というものでした。特に職員に対しては総合事業を担っているということを再認識してもらって、他事業にも関心をもち、他事業の職員の応援や手伝いもするという感覚を持って仕事をしてほしいと思いました。それがうまく機能すれば相互に「思いやり」を持ち、助け合うことになるので、職場の雰囲気はよくなって、まさに働きやすい職場になると思います。そのことを機構改革を通じて発信したかったのです。

 働きやすいという点では、事業推進上の目標のあり方を見直すべきだと考えています。支店や部署での目標設定は必要だと思いますが、個人目標は果たして必要でしょうか。数値目標があると、それを達成するために、職員がどうしても内向きになり、組合員に対して「お願い推進」になるのではないでしょうか。もともと協同組合の目的は、弱い立場の人間の生活の安定です。本当にその組合員のためになるのかという視点がなければなりません。合併前に多くのJAが経営危機に陥りましたが、これも組合員個人に目を向けず、事業者に対して融資をロットで貸し付けして不良債権化したものでした。

 農産物の販売にしても、受託販売による市場出荷は大量ロットの取り扱いでは有効ですが、例えば品評会などにおいて大臣賞をとった農家の野菜を特別にもっと高く売れないか、そういう仕組み、ルートをつくれないでしょうか。

 マンゴーの販売にしても、出荷当初は量が少ないので高値になりますが、ピーク時には価格が大きく下落します。当然と思われがちですが、マンゴーの旬はわずかに1か月半ほどしかありませし、ほとんどが贈答品です。出荷量によってそこまで価格変動が起こるのはおかしいと考え、原因を追究したところ大半が市場出荷だったのです。市場でのセリは高級品であれ、贈答品であれ、必要量を超えると暴落するのは当たり前です。そこで昨年は市場出荷を一昨年の半分にしました。すると価格はそれほど下がりませんでした。その結果市場価格を参考に価格設定するJAのファーマーズマーケットやエーコープなどでも高値で販売でき、生産者は「今年は価格が下がらないな」とびっくりしていました。

 こうした工夫が、なぜこれまでできなかったのかという思いです。受託販売による市場出荷が当たり前になり、農家のことをあまり考えていなかったのではないかと思います。貯金や共済事業も、本当に組合員のためになるとはどういうことなのかという視点で見直す必要があります。その工夫を指示してリードできるのはトップです。
 
 大金 「組合員目線」で事業を徹底検証し、その結果を踏まえた改革を確実に実行するための機構改革と「人づくり」の仕組みとが重要だということですか。どのように取り組みますか。
 
 普天間 組織の人間をペンギンに例える学者がいます。ペンギンが陸上にいるときは歩くというより、よろめいていますが、ひとたび海に飛び込むと事情は一変します。泳ぐために生まれてきたかのように、水の中でのスピードは速く、俊敏でとても楽しそうです。そして1リットルのガソリン分のエネルギーで2000キロも泳げるそうです。人間の作った機械で、これほどエネルギー効率の高いものはありません。

 一方、我々の職場はどうでしょうか。総合事業なので職員は信用も共済も営農も生活も、あるいは管理業務もすべてを渡り歩かなくてはなりません。一人前になるのに相当な時間がかかり、一通り回り終わったころにはフラフラになっているのではないか。そして常に目標(ノルマ)が課せられています。JAの特性から否定はできませんが、もう少しどうにかならないものでしょうか。ペンギンの例は、職場の環境や条件を変えることによって、あたかもペンギンにとっての水中のように職場が柔軟で楽しく、無理なく感じられる場になることを教えています。
 
 大金 職員が「水を得た魚」になるような環境・条件を整えるということですね。 


nous20011611_3.jpg 下小野田 「人材」という言い方で、人を十把一絡(ひとからげ)にするのではなく、性格も考えもそれぞれ違う一人ひとりの人間に目を向けるということが大事ですね。600人のJA職員がいますが、全員が組合員にしっかりと向き合い、一緒に仕事をしていけば、とてつもないことができると信じています。

 「目の前にいる職員がいるから頑張れる」と言ってくださる組合員。「組合員がそう言ってくださるから」と、さらに頑張れる職員。そのような温かい人間関係のなかで、人は育ち"人財"となるのだと思います。組合長としての私の役割は、人が育ち"人財"となるJAをみんなで創ることだと思っています。

 つまり「競争」ではなく「共生」が必要であり、私たちが誠実にみんなと心と力を合わせ、みんなでチームを創ることが大切だということです。これが「チームきもつき」です。

 そこで肝心なことは、まずトップがオープンに分かりやすく自らの考えを発信することです。賞与のときは、「幸せを感じていますか」というメッセージカードを添えました。職員と組合員とが「ワン・チーム」となり、みんなが幸せを感じてもらいたいという思いを込めました。
 
 大金 実に「温かい人間関係」が感じられますね。
 
 下小野田 JAでは独自の職員手帳「灯台手帳」を使っています。これは職員の発案でつくったものですが、そのなかで「JAの経営は、よく船の航海に例えられます。目指すべき方向が理念であり、航海する海域が外部環境、船が組織、そして乗組員が役職員です。この手帳は、その航海で必要となる灯台です。この灯台は目指すべき方向と還るべき場所を照らします」として、私の経営理念や協同組合などについての考えを明記しています。

 また「考え、行動する職員」を育てるために、職員には「職員プロジェクト」を勧めています。どんな小さなことでも良いので、しっかり取り組み、成功体験をしっかり味わってほしいと思っています。それが大きなチャレンジにつながります。さらに農業の分野だけで活躍する"人財"を育てようとは思っていません。いろいろな分野、産業界、海外で活躍できる"人財"をJAで育てたいと思っています。機会を見つけて、職員をできるだけ海外視察にも出しています。
 
 普天間 大きな志ですね。
 
 下小野田 「チームきもつき」は、チームプレーの精神を大切にしています。そのために、組合長になってから共済事業推進の個人ノルマを廃止しました。支所単位の目標はありますが、個人ノルマを課すと、その職員本来の仕事のモチベーションが損なわれるからです。

 一つの例ですが、最初の組合長のときに畜産課長だった男性が、27(2015)年に組合長になったときも課長のままでした。畜産のベテランだったのですが、個人ノルマ未達のため、ずっと昇進が見送られていました。本人としては厳しい畜産農家のふところ具合がよく見えるので、農家の経営を考えてあえて推進する必要はないということだったと思いますが、本来の仕事で評価するべきです。しかし、本人も昇格は諦めていました。以前からその課長のことをよく知っていましたので、組合長に就任してすぐに、いやがるその職員を説得して部次長に昇格させました。

 「他の職員に示しがつかない。職場がおかしくなる」と、まわりの反対がありましたが、本人を説得して昇格させました。平成29(2017)年の宮城全共(第11回全国和牛能力共進会)で鹿児島の和牛29頭の代表牛が入賞して日本一になり、そのうちの13頭がJA鹿児島きもつき管内の牛です。彼は畜産部長としてリードし、「日本一」に大きく貢献しました。JA肝付は約300億円の販売額があり、その7割が畜産です。

 普天間 まさにペンギンの例え通りですね。JAおきなわの職員は、まだまだ陸上でよたよた歩いている状態です。
 
nous20011611_1.jpg 大金 人事考課制度は取り入れているのですか。

 下小野田 「チームきもつき」を謳っているので、みんなが良くなろうという考えです。地域も同じですね。一部の地域だけが良くなっても、全体が良くならなければ意味がありません。だから、日常の業務に人事考課は入れていません。結果として昇格で評価しています。だからボーナスも同じです。
 
 普天間 人事考課は、結果としてB評価が多くなり、有効とは言えませんね。この4月から凍結しようかと思っているところです。(第三回につづく)


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