農政:原発処理水海洋放出
処理水海洋放出 当事者意識ないがしろ 菅野孝志JA福島五連会長に聞く【緊急特集:原発処理水海洋放出】2021年4月14日
4月13日、政府は福島第一原発で増え続ける処理水の海洋放出を決めた事に対して、JA福島五連の菅野孝志会長(JA全中副会長)は、すぐに「福島県の第一次産業に携わる立場として極めて遺憾」とする談話を発表したが、改めて、JAグループとしてこの問題をどう考えるべきかを聞いた。菅野会長は、このなかで、風評被害問題はもちろん、原発問題についてもう一度検証するべきではないかとも指摘した。
JA全中副会長 菅野 孝志氏
東京電力福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出する処分方針を政府やマスコミは漁協だけが反対しているような印象を与えていますが、実際は風評被害はいろいろな分野で発生しており、地域も福島だけでなく近隣の県にも及びました。
これまでを振り返ると事故を起こした東京電力福島第一原発のなかで何かが動けば風評被害は必ず発生する。それは漁業だけでなく当然、農業、林業なども及びますが、今回は第1次産業の分断をあえて煽っているのではないか。一つの勢力として政府にものを申すようにまとまらないよう常に分断、分断を仕掛けているのではないかと思います。
だから、4月13日の談話では海洋放出決定について「福島県の第1次産業に携わる立場として極めて遺憾」と強調しました。風評被害は漁業ばかりでなく農林水産業の衰退が加速される。これを政府そのものが後押ししているようなものではないか、そう認識しています。
これまで政府は「風評被害を未然に防止する」と言ってきましたが、これはできていません。結局、10年間、風評被害に苦しんできました。たた、そのなかでも生産現場は安全な農産物を作り続け、みなさんにおいしいと言っていただくように努力してきました。
風評被害の損害賠償をもらうために仕事をしているわけではありません。適正な評価をしてもらいたいということです。
もちろん政府には輸出規制をいまだにしている国への働きかけをスピード感を持って取り組むべきだと思います。被爆をした地域ですから、より安全なものを作ろうと、実際に食品の安全基準(放射性物質の基準)は国際的な基準より低くしています。それは原発事故にあったために、より安全に、という生産者の思いです。
たしかに食品の安全性は高いと思います。ただ、政府や東電はこれまで不都合な問題を隠してきたり、先日の地震でもリスクに対するガバナンスが問題になったりしました。格納容器内の水位が低下しているとか、地震計が放置されていたなどです。
そういう政府や東電が処理水は安全だと言っても信用できるのかというのが国民の気持ちではないかと思います。
一方では原発事故から10年も経つことから海洋放出には賛成という声もありますが、現場はどういう思いでいるかという当事者意識もないなかで賛成しているのではないかと思うと心外です。
いろいろな意味で判断しなければならない時期であることは確かですが、この10年間、タンクを作って水を貯めればいいということでよかったのかと思います。
ずっとトリチウムは除去できないと言っていますが、世界的には分離できる技術もあると聞きますから、科学的に除去できる技術を追求すべきではないかと思います。
それも時間がかかるというであれば、今貯まっている処理水で魚の養殖をして、それも東電や政府だけがやるのではなく、一般の人も関わって安全性を検証し、そのうえで問題がないことを確認するといったこともすべきではないでしょうか。
政府は風評被害を未然に防ぐといっていますが、海洋放出決定というだけですでに県内産品の価格への影響が懸念されています。
原発事故から10年。原発についてはもう一度検証してみるべきだと思います。JAグループも当時の全国大会決議で脱原発を盛り込みました。カーボンニュートラルが掲げられるなかで、本当のカーボンニュートラルは何か、これからの日本のことを考えると日本の豊かな水資源を活用していくことも考えていかなければならないと思います。
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