農政:許すな命の格差 築こう協同社会
【特集:許すな命の格差 築こう協同社会】都市農業 新たな地平へ JAはだの(神奈川)宮永均組合長に聞く(上)2021年9月29日
神奈川県のJAはだのは「都市農業の確立」に向け実践。組合員との結びつきを大切にする組織運営とともに、地域住民を対象とする事業活動と准組問題に先駆的に取り組み、今や組合員の約8割は准組合員が占める。さらに、今、「夢のある農業と次世代へつなぐ豊かな社会を地域できずく」ことを基本理念として、新たな地平を築こうとしている。そこで、今回は宮永均組合長に今後のJA運営等について話を聞いた。
(聞き手・根岸久子JCA客員研究員)
JAはだの 宮永均組合長
農業塾でプロ育成 困窮者に食料支援
――まず、最初にJAはだのが目指すJAについて伺います。
農協改革の中で一番求められたことの一つは地域の中で農家を育てることで、そのための営農指導と販売に力を入れ、地域農業を発展させていくこと。そしてもう一つが地域社会の活性化で、この二つに貢献できる組織づくりをすることです。
前者については、都市化と共に離農者が増えてくるなかで、特定農地貸付法(1989年)ができた時には耕作できなくなった農地をJAが借り受け市民農園を運営してきた(全国初の試み)。さらに、2006年には就農コースもある市民農業塾を立ち上げ、ステップアップしながら、人を育てていく仕組みづくりをしてきました。
そのなかで現在までに80人が就農し、うち約20人が農家の定年退職者等で、60人は地域外の農外からの参入者だったので、農地の斡旋(あっせん)や技術指導をし、組合員や生産部会にも加入してもらい、販路はファーマーズマーケット、というように入り口から出口までをサポートする仕組みを作ってきました。その結果としてこの10年間で専業農家が80人増えたのは大きな実績だと思っています。
防災協定や学校食材も
また、地域社会の活性化に関しては、一つは農の多面的機能を最大限発揮していくことで、その一環としてJAの多様な事業機能を有事の際には生かす防災協定を秦野市と締結しています。
もう一つが社会的貢献で、地域住民が困っていることへの支援です。今回のコロナ禍では米農家や畑作農家、じばさんず(直売所)への出荷農家、さらに女性部の自発的な協力で、相当な野菜や食料が集まり、生活困窮者への食料支援を行いました。農協としても防災協定を締結している福島県の東西しらかわ農協に声をかけ600キロの米を提供していただきました。
ちなみに、12月からの実施が決まった中学校給食では、JAはだのが食材を納入する「地産地消」の給食になります。
――そうした地域農業や地域活性化に取り組む上での行政との関係は?
行政との関係で言えば、2005年にはJAと行政が一緒に運営する「はだの都市農業支援センター」をJAの本所敷地内に設置しました。「農」に関しては各組織ごとの役割があり、相談に行った農家が結構たらい回し状態だったので、JAが市に働きかけ、担当部署間で調整しながら4年かけて設置に至りました。メンバーはJAから2人、農業委員会から1人、市農産課から5人の計8人が連携しながら人・モノづくりを担っています。
こうした市の対応は、農地保全や地域農業の活性化は行政の施策とも関わるからで、15年前にJAが都市農業振興計画見直しのためシンクタンクの指導を受けた際には、費用の半分を市が負担しています。また、先ほど申し上げた市民農業塾では市長が塾長に就任しています(副塾長は組合長)。
――都市的農協の役割について伺います。
都市的農協の役割は地域の農地、農業を守ることと、そのためには不可欠な地域住民の農業への理解と参加を地域農業の多面的機能を生かしつつ広げていくことです。
前者については、農家の次世代が家業を継がなくなっているので、農地の所有権と利用権を別々にし、農業をする人が農地を守っていく仕組みづくりをする。都市農業振興基本法の改定で(2015年)、農地は宅地化奨励から保全に方向転換したので、これまでの取り組みをステツプアツプした取り組みをしつかりやっていかなければいけない。
また、管内農地には、市街化区域と市街化調整区域があるが、前者のうち生産緑地の組合員の関心は税の問題、後継者のいない組合員は農地をどうするが関心事で、また市街化調整区域には独自の問題(例えば動物の出没等)がある。さらには経営規模によりニーズも違うので、それらを大事にした組織運営が求められます。このようにそれぞれ違った課題があるので、市役所と一緒になってしっかりとサポートしていきたい。
――准組合員問題に先駆的に取り組んでこられましたが。
それは先に述べた通り、都市的農協にとって地域住民の農業やJAへの理解を広げ、さらには准組合員になってもらうことが重要であり、役割だからです。
准組合員問題は1980年代に全中「都市農協問題総合審議会」が取り上げ、それに基づく有識者検討会では「正・准隔たりのない対応・参加の組織運営が望ましい」という結論を出しました。
それを受け、当JAでは正・准一体の取り組みが組織の中に位置づけられ、今日まで受け継がれてきたのです。前述の全国初の「市民農園」の開設も都市化が進む中での農業と地域住民対応(准組合員)を視野に入れてのことでした。
ちなみに、当JAでは組合員座談会や訪問・対話活動などで准組合員の意見を聴く機会を広く設けており、2019年春の組合員座談会では出席者1233人のうち220人が准組合員でかなり積極的に発言されています。
多面的機能前面に 生協とも包括協定
――2019年に生協パルシステム神奈川との包括連携協定を締結それましたが、ます、その目的について伺います。
大きくは二つあります。一つは、協同組合間連携とか協同組合間協同と言われてきたが、1年に1回の国際協同組合デーと秦野市市民の日に「協同組合ブース」を設置する程度だったので、秦野で何かやれないかなと考えていた時に神奈川県協同組合連携機構ができ、そこで単位JAが行う連携の事業があってもいいのではないかと考えたことです。
二つ目は、何故パルシステム生協神奈川を選んだかということ。農協改革のなかで購買事業の見直しを求められた時であり、また、JAも経営的に難しいものはスクラップせざるを得ず、事業高ダウンで不採算の女性部の生活購買は続けることはできないと判断し、宅配事業をするパルに提携を働きかけました。
不安を感じた女性部員には、希望者は従来どおりの班配達も可能なことや、Aコープ商品も購入できることを説明し理解を得ました(直売所JA支所での取り扱い等)。
一方、パル側には県内で取り組んできた田んぼの学校や畑の学校等の農との関わりをもっと広げたいこと、さらに戸配事業のため組織活動や地域との結びつきが弱いため、地域密着型で組織活動も活発なJAはだのと連携することで組織活動の活性化や組合員拡大につなげたいとの目的がありました。
こうして互いに地域を良くする活動に取り組むことで合意し、食材供給を含む八つの包括協定を締結にしました(2019年3月)。
(注)・戸配事業利用者はJA組合員(家族)でパル生協に登録し「共通組合員」になる
・パルシステム生協神奈川ー事業エリアは神奈川県全域、組合員数34万人、事業の中心は宅配事業
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