農政:今こそ 食料自給「国消 国産」 いかそう 人と大地
【今こそ食料自給・国消国産】すべての人の食料アクセス守る国民運動に(1)横浜国立大学・田代洋一名誉教授2022年10月5日
食料自給率が先進国で最低水準の38%に低迷する中、JAグループが推進する「国消国産」について考えるシリーズ。この動きを国民運動に高めていくためにわれわれが考えなければいけないことは何か。また、資材高騰や農産物の価格低迷で厳しい状況に直面する生産現場を支えるためには何が求められるのか。横浜国立大学の田代洋一名誉教授に寄稿してもらった。
横浜国立大学名誉教授 田代洋一氏
地産地消、国消国産―どこが違う?
10月はJAグループの「国消国産」月間、「国民が消費する食料はできるだけその国で生産する」ことをアピールする月だ。世界的に食料危機が引き起こされ、また生産資材価格の高騰を価格転嫁しなければ農業が持たないなかでむかえた「みのりの秋」にふさわしい提起である。
しかし運動が拡がるには、スローガンが深く浸透し親しまれる必要がある。既に同じような言葉として「地産地消」が定着しており、法律の略称にもなっている(2010年6次産業化・地産地消法)。地産地消は、「地域で生産された農林水産物を地域で消費する」というコンセプトであり、地域資源を活用し、直売所や学校給食など地場消費を促し、郷土料理の歴史にもつながり、カーボンニュートラルにも貢献する。
それと「国消国産」は同じなのか違うのか。食料自給率の向上という趣旨は同じだと思うが、敢えて地産地消の「地」を「国」に変え、「産」と「消」の順序を変えた狙いは何か。そこは運動提起する側としてはっきりしておく必要がある。食料自給率や食料安全保障に関わらせてその点を筆者なりに考えたい。
食料自給率に輸出も含めるべきか
国の食料自給率は<国内生産/国内消費>の割合で計算される。分子の国内生産には、国内消費仕向けと輸出仕向けの両方が含まれる。そしてアベノミクス以来の農政は、メガFTAに邁進しつつ、「輸出で自給率向上」を追求している。しかし食料自給率が極めて低い国・日本としては「輸出で自給率向上を」は本末転倒ではないか。
自給率とは字義どおり、国民(正確には外国人も含め日本に住む人)が食べるものをどれだけ自給できるかを示すべきだ。その意味で「国民の食べるものはできるだけ国産で」という「国消国産」は適切である。確かに人口減少とともに国内需要も減少していく下で、輸出自体は重要だが、自給率計算とは切り離すべきである。国内需要全体が減退していくとしても、自給率の低い国としては、その中で国産品シェアを高めていく可能性を大いに持っている。
最近の食料安全保障論議を考える
さらに、国消国産には食料安全保障上の深い意味があるが、そこに行く前に、ロシアのウクライナ侵略下でにわかに高まっている食料安全保障論議をみておきたい。そこでは、これまでの食料安全保障論は生産資材なかんずく肥料原料等が確保されることを前提に組み立てられている点で欠陥がある、食料自給力の指標も同じ、と指摘され、話は食料・農業・農村基本法の改定にまで及んでいる。
しかし、基本法に生産資材確保を銘記すること自体は大切だが、それだけを強調すると、食料安全保障が、経済安全保障や国家安全保障に飲み込まれてしまう危険もある。
その他にも日本の食料安全保障政策には大きな欠陥がある。不測の事態が起きると俄かに注目されるが、喉元を過ぎるとすぐ忘れられてしまう「三日坊主」の癖だ。しかし「不測」が常態化した今日、それでは困る。1980年農政審報告は、「食料の安全保障―平素からの備え」すなわち自給率向上としたが、一向に自給率の低下傾向に歯止めをかけられていない。
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