農薬:現場で役立つ農薬の基礎知識2018
【現場で役立つ農薬の基礎知識2018】土壌消毒のポイント 計画的予防散布で確実に防除2018年6月29日
園芸作物では、同じほ場で同じ作物を作り続けなければならないことも多く、連作障害が避けがたい課題として浮上し、特に根葉菜類の産地では深刻な問題となっている例が多い。今回は、この産地にとっての死活問題でもある連作障害の回避方法について整理してみたので参考にしていただきたい。
◆連作障害の原因と耕種的防除法の活用
このやっかいな連作障害の主な原因は、特定の作物を作付し続けることで特定の土壌病害虫が優占化するためである。なぜ優占化するかというと、連作で特定の農作物が供給され続けることによって、その特定の農作物を好む土壌病害虫が他の土壌微生物や昆虫たちとの競争に打ち勝ち、大量に増殖するためである。ということは、この特定の土壌病害虫を優占化させないようにできれば、連作障害は回避できることになる。
その優占化を回避する方法として、いくつかの耕種的防除法がある。その1つが、最低でも原因病害虫の土中生存可能期間以上の期間は別の作物を栽培する輪作の導入である。具体的には、一つのほ場に科が異なる作物をおよそ2~3年の輪番で作付することであるが、病原菌によっては5年間の期間を必要な場合もあるので、ほ場の作付計画を入念に検討する必要がある。その他、抵抗性品種の活用や湛水化といった方法があるので、例えば抵抗性品種と太陽熱消毒など、併用が可能な耕種的防除法を幾つか組み合わせるとより効果的である。
◆土壌消毒による連作障害の回避
求められる数量の確保や安定供給のためには、どうしても短期間に連作障害を回避しなければならないことがある。その短期間で効果を得るためには土壌消毒が有効であり、特に土壌病害虫が原因の連作障害には、最も効果が期待できる方法である。土壌消毒には、太陽熱消毒など熱を使うものや、土壌消毒剤を使うものなどがあるが、土壌病害虫の種類によって効果のある方法が異なるので注意が必要だ。
以下に、主な土壌消毒法を紹介する。
【太陽熱消毒】
太陽の熱で、十分な水分を入れ、ビニールなどで被覆した土壌の温度を上昇させることで、中にいる土壌病害虫を熱によって死滅させる方法である。このため、土壌内部の温度をどれだけ上昇させることができるかが鍵である。連作障害を起こすたいがいの病害虫は、およそ60℃の温度で死滅してしまうため、土壌内部の温度を60℃に到達させることができるかどうかで成否が分かれる。
太陽光でこの温度まで上昇させるためには、施設を密閉して十分な太陽光を当てる必要があり、夏場にカンカン照りになる西南暖地などの施設栽培向きの消毒法といえる。夏場でも日射量が少ない地域では、地中温度を60℃に到達させることができない場合もあるので、そのような地域には、次の土壌還元消毒法の方が向いていることが多い。
【土壌還元消毒法】
この方法は、フスマや米ぬかなど、分解されやすい有機物を土壌に混入した上で、土壌を水で満たし(じゃぶじゃぶのプール状)、太陽熱による加熱を行うものである。これにより、土壌に混入された有機物をエサにして土壌中にいる微生物が活発に増殖することで土壌の酸素を消費して還元状態にし、病原菌を窒息させて死滅させることができる。有機物から出る有機酸も病原菌に影響しているようだ。このため、有機物を入れない太陽熱消毒よりも低温で効果を示すので、北日本など日照の少ない地域でも利用が可能な方法である。
還元作用により悪臭(どぶ臭)が発生するので、この臭いがするまで十分な期間をおく必要がある。また、近隣に住居があるようなほ場では臭いの発生に注意が必要である。
【蒸気・熱水消毒】
文字通り、土壌に蒸気や熱水を注入し、土壌中の温度を上昇させて消毒する方法である。病害虫を死滅させる原理は太陽熱と同じで、いかに土壌内部温度を60℃にまで上昇させるかが鍵である。
この方法を実施するには、お湯や蒸気を発生させるためのボイラーや土壌に均一に注入するための設備や装置が必須である。このため、導入のための設備投資と大量に消費する燃料のコストを考慮する必要があるので、個人での導入というより、地域一体となった共同利用といった大掛かりな取り組み向けの技術といえるだろう。
【土壌消毒剤による消毒】
効果の安定性やコスト面から考えても、現在の技術で最も一般的なのが土壌消毒剤による土壌消毒である。
土壌消毒剤には、揮発性で臭気や刺激性のガスを発生させるものが多いので、使用する場合には、作業者の安全、近隣の安全を十分に考慮し、被覆を行うなど、使用ルールを確実に守ることが重要だ。
その特性や効果の範囲を別表に整理したので、それらを良く把握した上で、効率よく安全にご使用願いたい。以下に主な成分の特性を示す。
<クロルピクリン>
(商品名:クロールピクリン、ドジョウピクリンなど)
揮発性の液体で、土壌に注入することで効果を発揮する。激しい刺激臭がするので、使用時は、防毒マスク、保護メガネ、ゴム手袋など保護具の着用が必須である。その反面、ガス抜けが早いので、ガス抜き作業が基本的に不要なのが特徴である。最近では、灌注機や同時マルチ機などが普及し、より安全により楽に処理できるようになっているので可能であれば利用したい。クロルピクリン剤をPVAフィルムに封入し、土壌に埋設するだけの簡単処理ができるようにしたクロピクテープやクロピク錠剤があるので適宜使用するとよい。主に、フザリウム病など土壌病害に効果を発揮する。
<D―D>
(商品名:D―D、DC油剤、テロン)
主に、土壌センチュウに効果を発揮する。クロルピクリンに比べ、ガス抜けが悪いので、丁寧に耕起して、ガス抜き期間3~4日を確実において作付けに移る。ガス抜きが不十分だと薬害が起こるので注意が必要。
<クロルピクリン・D―D剤>
(商品名:ソイリーン、ダブルストッパー)
クロルピクリンとD―Dを効率的に配合し、両成分の長所を活かした製剤とすることで幅広い病害虫雑草に効果を示す。刺激臭も、有効成分単剤のものより少なくなっており、比較的扱いやすい土壌消毒剤である。D―D同様、ラベル記載とおりのガス抜き期間をきちんと取る必要がある。
<ダゾメット>
(商品名:ガスタード微粒剤、バスアミド微粒剤)
微粒剤を土壌に均一散布し、土壌の水分に反応して、有効成分であるMITC(メチルイソシアネート)を出して効果を発揮する。そのため、処理時には適度な水分が必要であり、ガス抜きも10~14日と比較的長い期間が必要である。主に土壌病害に効果を示す。
◆土壌処理粒剤、粉剤、液剤による防除
一般の土壌消毒剤のようにくん蒸するものではなく、土壌中に薬剤を均一に散布、混和することによって土壌中の病害虫を防除するものである。効果の成否は、土壌中にいる病害虫に薬剤をいかに接触させるかにかかっており、土壌中での均一な混和が必要である。
土壌中の病害虫の密度があまりにも多い場合には効果が不安定になる場合があるので、そのような場合には、一旦土壌消毒剤によるくん蒸処理によって病害虫密度を下げたあとに使用すると効果が安定する。
<粒状線虫剤>
(商品名:ネマトリン、バイデート、ネマキック、ラグビーなど)(表2参照)
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