農薬:サステナ防除のすすめ2025
かんきつは事前予防(1)防除暦使い"先手"【サステナ防除のすすめ2025】2025年5月19日
サステナ防除の実現には「リスク管理」の考え方が有効である。「リスク管理」がうまくできることによって、効果的で無駄のない、そして環境負荷を少なくした、病害虫対策が実現できる。かんきつの防除を考える。

1.病害虫対策の基本はリスク管理
防除とは「リスク管理」+「危機管理」と言い換えることができる。「危機」というのは、病害虫被害が既に発生して、問題が深刻化しつつある状況のことである。「危機管理」とは今まさに病害虫の被害が拡大しつつある状況を何とかして回避するためにとる行動で、事後の切羽詰まった対応ということになる。
これに対して、「リスク」とは、今後生じると予測される未来の病害虫被害の可能性を表している。そして、「リスク」を引き起こす原因になる危険な要素が「ハザード」である(図1参照)。例えば、「病原菌の存在」として、かんきつの黒点病の場合は樹冠内の枯枝に形成された胞子や切り株、剪定(せんてい)枝に形成された胞子、防風樹の枯枝に形成された胞子などいろいろな「ハザード」がある。また、「発生に好適な条件」といっても、温度条件や湿度条件、風の条件、日照条件......などたくさんあり、これらの一つひとつが「ハザード」になる。
「リスク管理」とは「ハザード」を前もって取り除く、あるいはその影響を小さくすることによって、将来問題になると予測される病害虫被害をなくしたり、軽くしたりすることである(図2参照)。「リスク管理」は事前に予測されるリスクに対応して実施するという行動なので、病気や害虫の発生を予防するためにとる行動といえる。
具体的には、かんきつかいよう病の被害(リスク)が発生しないように樹冠内の伝染源になる発病枝や発病葉を剪除する(→伝染源の量を少なくする)、あるいは風当たりの強い園で防風ネットを設置する(→発病しにくい環境を作り出す)という行動、つまりハザードを小さくする行動が「リスク管理」になる。あらかじめ、ボルドー液などを発芽前の時期から散布しておく(→病原菌の感染を抑制する)ということも「リスク管理」である。
【図1】病害虫被害(リスク)が発生するための3要因と要因に関係している種々のハザード
【図2】防除の考え方 → 3つの要因の重なりをなくす
2.「リスク管理」とは「予防」
このように、「リスク管理」の特徴は常に前向きで能動的である。なぜなら、かいよう病を例としてあげると、まず、①かいよう病が発生するかもしれないということを予測して②かいよう病を発生させないような手段は何かということを考え③それらのことを積極的に実行していくからである。これらの一連の行動に付け加えるとすれば④番目として③で実行した結果がどうだったのかをよく見極めて、そのことを今後に生かしていくことがあげられる。前向きでなければこのような行動はできない。
一方、6月も末頃になって果実にポツポツとかいよう病の病斑が見え出した時点であわてて銅剤や抗生物質剤を散布する(→病原菌の感染を抑制する)ことは「危機管理」である。しかし、これでは残念ながら、かいよう病の被害を食い止めることはできない。後追いの薬剤散布の効果が不十分なことは皆さん承知のことと思う。「危機管理」とはいうものの、実際には「後始末」に過ぎない。それもなかなかうまく始末できないのが現実である。
「後始末」をする必要がないように、「前始末」=「予防」に積極的に取り組むことが大切になる。病害虫対策では、「リスク管理」=「予防」がきわめて重要である。「予防」によって初期の発生を無くす、あるいは最小限にすることで、その後の病害虫対策が格段に楽になり、労力、資材の無駄を省くことができる。さらに、環境負荷低減が図られることになる。つまり、サステナ防除の実践につながる。
実際場面で、いくつものハザードの影響を小さくするための「リスク管理」を効果的に実施するように示してあるのが、防除暦である。
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