日本の窒素収支を解明 2000~2015年で世界平均の2倍 農研機構2021年8月25日
農研機構らの研究グループは、日本の全ての人間活動と環境を対象に2000年から2015年の窒素収支を解明し、大気や水域への窒素排出の実態を明らかにした。その結果、国民一人当たりの廃棄窒素は年間41~48kgで、同時期の世界平均の約2倍であることや、廃棄窒素の発生量に対して環境に排出される反応性窒素は1/3程度に抑えられていることなどがわかった。同成果は、将来世代の持続可能な窒素利用に役立つ。
人類の窒素利用がもたらす窒素汚染とその影響
大気の8割を占める安定な窒素ガスから人工的に合成される反応性窒素は、肥料や工業原料として人類に大きな恩恵をもたらしている。いまや、世界で人工的に合成される反応性窒素の量は、地球システムが本来有する自然の反応性窒素の生成量と同程度までに増加。その一方で、食料や製品の生産・消費・廃棄と、化石燃料の燃焼等の人間活動に伴い、多量の反応性窒素が環境へ排出され、窒素汚染を引き起こしている。
地球規模では、人間活動による窒素循環の改変は地球システムの限界を既に超えていると評価されているが、日本の状況はどうなのか。食料・飼料・燃料等の各種資源を輸入に頼る日本は、世界から反応性窒素をかき集め、最終的に環境にばらまいていると考えられるが、国としての窒素の出入り(窒素収支)が明らかになっていないため、これまで実態がわかっていなかった。
今回、農研機構を中心とした研究グループは、日本の2000年から2015年における人間活動(エネルギー、農林水産業、製造産業、国際貿易、消費、廃棄物・下水等)と環境媒体(大気、森林、陸水、沿岸域)を対象に、各活動・媒体間を流れる窒素の量を一つ一つ算定し、日本の窒素収支を評価した。その結果、人間活動に伴い発生する廃棄窒素が年間526~609万トンで、そのうち反応性窒素として環境に排出されたのは年間186~229万トンであったことを明らかにした。
日本の窒素収支モデルを構成する14のプールとその中のサブプール
国民一人当たりの廃棄窒素は年間41~48 kgとなり、Suttonら (2021) より求めた同時期の世界平均(22~23 kg)の約2倍の大きさだった。廃棄窒素の発生量は、景気の影響を受けたものの16年間ほぼ横ばいで推移していたのに対し、環境への反応性窒素の排出量は経年的に減少した。
廃棄窒素の発生量に対して環境に排出される反応性窒素は、1/3程度に抑えられており、例えば2010年では、576万トンの廃棄窒素に対して、環境に排出される反応性窒素は196万トン。このうち64%は大気、36%は水域への排出だった。
窒素収支は、個別の人間活動について、廃棄窒素の発生量と反応性窒素の環境への排出量を明らかにする。これらの情報は、窒素利用が窒素汚染をもたらしているという重要な問題への気づきを与える。また、窒素収支は、窒素の利用効率の向上や窒素汚染の軽減に向けて開発される新しい技術や立案される政策が、優先的に対象とすべき人間活動と環境媒体を絞り込むための基礎情報となる。さらに、技術や政策の効果を評価するためにも窒素収支の情報が必要不可欠といえる。
同成果は、6月9日付で国際科学誌「Environmental Pollution」に掲載された。
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