ALPS処理水の「海洋放出」中止を求める意見書を国へ提出 生活クラブ2023年9月4日
生活クラブ事業連合生活協同組合連合会は8月30日、ALPS処理水の「海洋放出」の中止を求める意見書を内閣総理大臣と経済産業大臣へで提出した。
生活クラブは、1986年に発生した「チェルノブイリ原発」事故をきっかけに、生産者と連携し食品における独自の放射能基準を設けて取り組む消費生活協同組合。
2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発の事故で深刻な放射能汚染が広がった以降は、提携生産者への支援、市民団体と連携して原発事故被害者救済や脱原発社会をめざす活動を展開している。
このほど8月30日付で提出した、内閣総理大臣、経済産業大臣に向けてALPS処理水の「海洋放出」の中止を求める意見書の内容は次の通り。
2023年8月30日
生活クラブ事業連合生活協同組合連合会
2023年8月22日に政府は、東京電力福島第一原発で生じているALPS処理水の処分をめぐり、「海洋放出」時期を関係閣僚会議で決定し、東京電力は24日に放出を開始しました。生活クラブ連合会は、この決定に対して以下の点から強く抗議し、放出の中止を求めます。
1.民主的な合意形成が行われていません
2015年に東京電力および日本政府は福島県漁業協同組合連合会(以下県漁連)に対してALPS処理水に関して、「漁業関係者を含む関係者への丁寧な説明等必要な取組を行う事としており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と約束しました。県漁連、全漁連(全国漁業協同組合連合会)は、放出に対して繰り返し反対の意思表明をしており、県漁連は6月30日にいわき市で開かれた総会で、ALPS処理水の海洋放出に反対する特別決議を4年連続で採択しています。福島県内では県議会をはじめ県内市町村の約7割の市町村議会が、海洋放出に反対または慎重な対応を求める決議や国への意見書を採択しています。
2020年2月に政府の小委員会が公表した報告書には、「現地や関係業界と丁寧に議論をして、国民的な合意ができたら政府が決定する」としていました。「御意見を伺う場」を福島や東京で計7回開催していますが、現地や関係業界との丁寧な議論を尽くしたとは言えません。多くの問題を抱えたまま、関係閣僚会議で政府の方針を決定したことは、民主的なプロセスではありません。
2.トリチウム以外の放射性物質の残留量や総量が明らかになっていません
ALPS処理水には、トリチウム以外にもさまざまな放射性物質が含まれています。現在、東京電力はトリチウム以外の放射性物質について「二次処理して基準以下にする」としていますが、どのような放射性物質がどの程度残留するか総量は示されていません。それどころか、東京電力が詳細な放射能測定を行っているのは、全体の水の3%弱に相当する3つのタンク群にすぎません。また浄化設備で取り除く事ができないトリチウムは規制基準を十分に満たすよう海水で希釈するとの事ですが、「ALPS処理水の海洋放出」とは「希釈汚染水の海洋投棄」であり、直ちに中止を求めます。これらの放射性物質の環境蓄積、生体濃縮などが起こりえるため、これらの取り込みによる人々の内部被ばくも懸念され、安易に海洋放出する決定については到底受け入れることができません。東京電力に任せるのではなく、政府としてALPS処理水に含まれる放射性物質の状況把握し公開することを求めます。
7月に公表されたIAEA包括報告書は30年に及ぶ放出による環境影響評価を実施していません。東京電力あるいは日本政府にそれを求めていません。原子力規制委員会も原子炉等規制法に環境影響評価の実施を求める条項がないことから、まともにこの問題を扱っていません。
3.ALPS処理水の海洋放出による漁業と子どもたちの将来への悪影響が懸念されます
放出開始の24日に中国政府は日本の水産物の輸入全面停止を表明しました。農林水産省によれば2022年の水産物の輸出総額は3,873億円で、輸出先1位の中国871億円・2位の香港755億円で輸出総額の4割を超えます。政府は風評被害対策として補正予算と基金で計800億円を計上していますが、その額を上回る被害が生じます。ALPS処理水の海洋放出による実害・風評被害がさらに広がれば、東北のみならず日本の漁業に壊滅的な打撃を与えることは必至です。
これまで復興に努力してきた漁業関係者に大きな失望を与え、再び漁民の生活や希望を奪い去ることになります。また、有害物質に対する人権に関する特別報告者、身体的および精神的健康に対する権利に関する特別報告者など、国連の専門家ら5人が2021年3月11日に「汚染水を太平洋に放出することは、子どもたちの将来的な健康リスクを高める」など、人権侵害にあたるとの声明を発表しました。
地元の漁業者や市民との合意を得られずに、近隣国からも批判があるなか「海洋放出」を決定したことは、「海洋放出ありき」で進められてきたものであり妥当性に欠けるものです。また「海洋放出」は、莫大なトリチウムの海洋投棄が必要となる六ケ所再処理工場稼働、すなわち核燃料サイクル政策維持への布石を打つ事になります。ALPS処理水に含まれる放射性物質の全容把握を優先させ、「海洋放出」を即時中止し、保管するタンクの新たな敷地の確保や他の代替案の再検討を強く求めます。
以上
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