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シリーズ:安全な食とは

【天笠啓祐 / 市民バイオテクノロジー情報室代表】

2013.07.26 
【シリーズ・安全な食とは】第13回 遺伝子組み換え小麦自生事件の波紋一覧へ

 米国でGM(遺伝子組み換え)小麦が自生し、違法流通していたことから、日本や韓国が輸入を中止するなど波紋が広がりました。いったい、この事態は何を意味するのでしょうか。発端は、農家が除草剤ラウンドアップをかけても枯れない小麦があることから、GM小麦ではないかと疑い、オレゴン州立大学の科学者に依頼した分析でGM小麦であることが明らかになったことによります。確認されたのは、モンサント社の除草剤耐性小麦で、2005年に同社は撤退を表明し、栽培試験を終了させていたものです。8年ぶりに見つかり、その間、市場に流れていた可能性が高いことになります。

◆オレゴン州で発見されたGM小麦

 モンサント社が除草剤耐性小麦の野外での栽培試験を始めたのは1998年頃と見られています。2000年12月には環境保護局(EPA)には承認申請を行っています。その後、日本を含めて各国に承認申請を行い、世界同時に承認を得ようとしました。それは、未承認で流通すると、今回のような回収や廃棄、損害賠償請求などの訴訟が起きるからです。

◆未承認小麦が8年間も流通していた?

 しかし、GM小麦への抵抗は強く、米国産小麦の最大の輸出先であるアジア市場で日本や韓国の消費者団体が反対の声明を発表し、足元のカナダや米国内でも反対運動が広がり、ついにモンサント社は「除草剤耐性小麦」からの撤退を表明し、04年6月21日に、米国以外の承認をすべて取り下げ、05年には栽培試験を終了させました。皮肉なことに、未承認での流通を避けるために世界同時申請までしたGM小麦が、8年もの間、未承認のまま栽培され、流通していた可能性が高いことになります。
 オレゴン州は、小麦の一大生産地であり、その9割が輸出されており、おもにアジア向けに作られ、日本にも多量に入ってきています。日本や韓国が輸入を一時停止し、台湾やEUも検査体制の強化を図りました。この動きを受けてモンサント社は、6月4日までに、このGM小麦の検査技術を日本、韓国、台湾、EUなどに提供したことを明らかにしました。輸入停止により起きる損害を理由に農家からの訴訟が起きることは必至であり、その損害を最小限に食い止めるのが目的と思われます。
 実際、カンザス州の農家アーネスト・バーンズがモンサント社を訴えました。これをきっかけに訴訟が相次ぎ、集団訴訟にまで発展し、また他の州にも訴訟が広がりました。
 米国政府も、被害を食い止めるのに必死でした。トム・ビルサック農務長官は、6月20日、米国内で流通している小麦にGM小麦は見当たらなかった、という調査報告の結果を書簡の形で日韓両政府あてに送付しました。これに対して日本政府も韓国政府も、輸入再開を目指すことを明らかにしました。しかし、この事態に至った原因は何も分かっていません。

◆干ばつ耐性小麦の試験栽培が始まる

 GM小麦については、米加豪の3カ国の生産者団体が、09年に推進を表明しました。その背景には、米国、豪州、英国で相次いでGM小麦の開発が進められていることがあげられます。開発中のGM小麦の主力は、「干ばつ耐性」品種です。
 11年から一斉に試験栽培が始まりました。まずオーストラリアの首都キャンベラ郊外にあるCSIRO(連邦科学産業研究機構)の試験圃場で、干ばつ耐性の大麦と小麦の試験栽培が始まりました。英国でもハートフォードシャー州ローザムステッド研究所が、12年から、研究所内の圃場でGM小麦の試験栽培を始めました。ホルモン成分を生産してアブラムシを寄り付かなくさせる品種です。
 モンサント社も「干ばつ耐性」品種を武器に、11年には360エーカー、12年には900エーカーで試験栽培を行っています。
 しかし、試験栽培とはいえ、いったん栽培されると、今回の事態が示したように、いつどこで汚染が起きるか分かりません。

◆いつ、どこで汚染が起きるか分からない

 オレゴン州では、州政府がウィラメット・ヴァレーでのGMナタネ栽培を承認したことに対して、種子生産者がそれに反対し、GMナタネの栽培を規制する法案が議会に提出されました。現在、同法案は州議会の委員会で審議中ですが、その議論の最中にGM小麦汚染事件が発生したため、この法案の議論の行方ががぜん注目を集めています。
 モンタナ州とノースダコタ州の有機農家が、モンサント社がGM小麦から農家を守る対策を行っていない、という声明を発表しました。モンタナ州の農家は、以前、同社がGM小麦を栽培した際に、そのことを全く公開しなかった、と述べました。ノースダコタ州の農家は、現在同社が進めているGM小麦の栽培試験は、秘密裡に行われており、汚染を起こしても防ぎようがない、と述べました。確実に言えることは、いったん栽培が行なわれると、汚染が必ず起きるということです。

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