「遺伝子組み換え技術」の情報発信でセミナー2013年7月30日
遺伝子組み換え作物は、日本国内ではまだ実用栽培こそ行われていないものの、世界から年間1700万トン(推定)もの遺伝子組み換え作物を輸入している。一方で、消費者や生産者の不安は根強く、関連企業や研究者らは、遺伝子組み換え作物について、市民との溝を埋めるべく、模索の日々が続く。
そうしたなか一般財団法人バイオインダストリー協会が7月29日、「遺伝子組み換え技術の実用化とコミュニケーションのあり方」をテーマにセミナーを開いた。
◆付加価値を伝える
セミナーでは、遺伝子組み換え技術の応用や産業化に取り組む企業や研究機関が開発事例を紹介するとともに、その有用性とリスクをいかに社会に伝えてきたか、それぞれの経験が語られた。
米国化学メーカー大手のデュポン株式会社は、近年、トウモロコシ、大豆、小麦、イネなど遺伝子組み換え種子の販売で売り上げを伸ばしている。「顧客の成功が会社の成功」という理念のもと、遺伝子組み換えに関する情報提供も積極的に行ってきた。
その一つとして、同社では、宇都宮市清原工業団地の隔離ほ場(遺伝子組み換えトウモロコシなどを栽培)で、2007年から、周辺自治会を対象にした見学会や学生向けの講義を開催してきた。当初は、否定的な意見が目立ったと、同社バイオテクノロジー事業部長の笠井美恵子氏。「何のために栽培するのか?」「花粉は周辺に飛散しないのか」「遺伝子組み換えに懸念をもつ人が多い日本では受け入れられないと思う」「海外企業が食糧をコントロールするのでは」…。こうした声を受けて「透明性、信頼性」こそ重視という結論にたどり着いたという。「最初は絶対に安全と断言していたが、それでは信頼してもらえない。断言ではなく、どのように安全性を確認しているかを説明することが重要」と語った。
さらに、安全性だけでは不十分で、「付加価値を伝えることがポイント」と笠井氏は語る。付加価値とは、「遺伝子組み換え技術を使えば、生活習慣病の予防や改善に役立つ高オレイン酸大豆や、花粉症の緩和に役立つ米を作ることもできる」といったもの。「遺伝子組み換えを利用する消費者や生産者にとってのメリットを、具体的な製品として見せてはじめて受容されるのではないか」と語った。
◆市民参加で実験も
農業生物資源研究所は、遺伝子組み換え技術を用いた産業利用のためのバイオテクノロジー研究を行っている。同研究所の田部井豊氏(遺伝子組み換え推進室長)は「消費者の要望は、おいしくて安全で、しかも安いこと。しかし、すべてを実現するのがいかに困難か、わかっていない」と、参加型コミュニケーションによる「気づき」を重視してきた。
同研究所は、茨城県つくば市の隔離ほ場で遺伝子組み換えイネなどを試験栽培しているが、ここに「市民参加型展示ほ場」を設け、5?の大豆畑で除草作業を体験してもらう。除草作業の大変さから、遺伝子組み換え農作物について考えるきっかけを提供することが目的だ。
「すべて除草した」と満足顔の参加者に、後日、除草しきれなかった雑草で大豆が埋もれた写真を送ると、驚きとともに、生産者の視点でものごとを考えられるようになると田部井氏は言う。さらに、参加型コミュニケーションでは「研究者や開発者との対話が容易(疑問や不安に対してすぐに回答が得られる)」というメリットもある。
今回のセミナーには54名が参加。大半は、遺伝子組み換え関連の企業や研究機関で、「社会とのコミュニケーションの最前線に立つ人たち」(バイオインダストリー協会)だ。質疑応答でも積極的な挙手が目立ち、「伝えることの難しさ」に苦悩する日常が浮かび上がる。
遺伝子組み換え作物の栽培は、年々増加している。輸入大国である日本でも、今後、企業や関係機関などは積極的な情報提供を行うことが予想される。一方的に耳を塞ぐのではなく、コミュニケーションをしながら、考え、判断することも求められそうだ。
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