今年の夏は「異常気象」 木本昌秀・東大教授2013年9月20日
本格化する温暖化の影響
高知県四万十市で1日の最高気温が41℃と記録更新し、全国的な猛暑に襲われた2013年夏――。一方では、日本海側を中心として一部地域では「過去に経験したことのない豪雨」が深刻な災害を招いたほか、九州南部では統計開始以降第1位の少雨による干ばつにも見舞われた。「気温」、「豪雨」、「干ばつ」の3つで最高記録を更新したこの日本列島の「極端な天候」について9月2日、気象庁の異常気象分析検討会が分析結果をまとめた。なぜこのような天候になったのか?地球温暖化はどう関係しているのか? 同会会長の木本昌秀・東京大学大気海洋研究所教授に聞いた。
日本の夏の天候は、太平洋高気圧とチベット高気圧に支配されている。今年の7月から8月にかけては、この2つの高気圧がともに強まった。
その要因は海水の温度だという。インド洋からインドネシア、そしてフィリピン周辺の西太平洋の海水温は高かった(下図)。
一方、それより東側の中部・東部太平洋では平年より低くなったことから、海水温が高まった西太平洋の海、すなわちアジア・モンスーン域で上昇気流が強まり、湿った空気が次々と雲をつくる積雲対流活動が非常に活発になったのだという。
この活発な積雲活動は強い上昇気流が起こしているが、その周辺は逆に下降気流となる。それがインド上空ではチベット高気圧を強めることに働き、日本付近では太平洋高気圧を強めた。つまり、強い下降気流が流れ込んだために日本上空では雲が発生せず晴れの日が続き、それが連日の猛暑をもたらしたのだ。 さらに8月には偏西風の蛇行によってチベット高気圧が日本へ張り出してきた。西からやってきたこのチベット高気圧は高層の高気圧だ。「つまり、太平洋高気圧の上にチベット高気圧が重なり、日本は非常に背の高い高気圧に覆われたのです」と木本昌秀教授は話す。まさに2階建て高気圧に覆われたということになる。
(写真)
木本昌秀・東京大学大気海洋研究所教授
◆東北豪雨は過去最大
この強い高気圧が最高気温や西日本での夏平均気温の記録更新につながっただけでなく、九州南部などで統計開始以降第1位の少雨をもたらしたのである。
しかし、この高気圧がそれほど北まで張り出していたわけではない。高気圧の縁には梅雨前線があった。
木本教授によると、そこには南からの水蒸気を多く含んだ空気が朝鮮半島から回り込むよう日本海側に入ってきた。これが島根や秋田、岩手の「過去に経験したことのない豪雨」をもたらした。
つまり、今年の夏は猛暑と集中豪雨、そして渇水の被害もあったという「極端な天候」だったということになる。また、異常気象とは「30年に1回以下の頻度で起きる」というのが定義だが、西日本の夏平均気温の平年差(+1.2℃)と東北地方の7月降水量平年比(182%)は、ともに60年以上(1946年から)の観測史上で1位となった。したがって「異常気象」の定義にあてはまることになる。
では、今年の極端な天候は地球温暖化の影響なのか。
木本教授は「今回の天候は今年特有の海水温の上昇が原因。しかし、最近の最高気温の更新などは温暖化が暑さの底上げに貢献しているといえます」と話す。
近年の研究では日本付近の気温は100年間で1℃上昇したことが分かった。しかし、直線的に気温が上昇するわけではない。下のグラフは04年に発表した木本教授らがスパコン「地球シミュレータ」を使った気温上昇の予測結果だが、平均気温が前年よりも高い年もあれば、逆に低い年もある。しかし、全体の傾向としては上昇していく――、まさにそれをこの“ギザギザ”のグラフが示した。
最近では最高気温の更新は記録されるものの、最低気温の更新は少なくなった。
◆今までにない体験も
それもこのグラフのような気候変動をたどっているのだとすればうなずける現象だ。
ただ、温暖化とはただ気温が上昇するだけではない。気温の上昇にともなって水の蒸発量が増える。すなわち水蒸気が増えることになる。これが雨をもたらすから平均雨量も増えることになる。
ただし、問題はどこで雨が増えるのか? である。
木本教授は「大気中に水蒸気が増えたからといっても、どこでもそれが雨になるわけではありません。もともと雨が降らない地域で雨が増えることはない。つまり、今まで降ってきた地域でより強く降る、ということになります」と強調する。まさに日本がそれだ。温暖化が進行しても梅雨がなくなるわけではなく、むしろ今年のような集中豪雨の発生頻度が高まると予想されている。また、水蒸気が増えるため冬には湿ったベタ雪の豪雪という現象にもなると考えられている。考えてみれば温暖化が叫ばれながらも、ここ数年は記録的な豪雪にも見舞われている。
「つまり、気候変動とは、今までになかった、と思う気象を経験するようになるということです。たとえばある地域で50年に1度と考えられていた豪雨が20年に1度となる、というものです。気候変動が起きていることを念頭に、たとえば堤防の設計そのものも考え直す必要が出てきているという認識が必要です」と指摘する。
◆適応策と防災策必要
同時にCO2排出抑制策など自治体や企業、家庭などそれぞれの場で取り組むことが今まで以上に必要になる。ただし「対策を急いだとしても温暖化の進行による気候変動は止められない」というのが気候研究者たちの一致した見解だといい、木本教授は「気候変動に適応する対策が重要になる」と話す。
農業でいえば、高温や干ばつに強い品種開発、農業用水の確保策なども求められる。ただし、当面、農業の現場では気象情報に注意してほしい、という。今年もゲリラ豪雨の発生が相次いだが、携帯電話やスマートフォンなどで気象庁のレーダー情報や地域の気象状況を知ることができる時代になっている。身を守るためにも自分の地域の数時間後の雨などの情報を「現場でも手に入れるように努めてほしい」と木本教授は話している。
2013年夏(6月?8月)のおもな記録的天候
【一日の最高気温】
○「41.0℃」:高知県四万十市(8月12日に記録)
○最高気温記録更新:全国143地点(タイ記録含む)
【夏平均気温】
○西日本で平年より+1.2℃=第1位
【大雨】
○東北地方の7月の降水量平年比182%=第1位
○山口、島根、秋田、岩手の一部地域=「過去に経験のない豪雨」
【干ばつ】
○九州南部・奄美地方の7月の降水量平年比11%=第1位
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