植物に対する病原性因子の環状糖を合成 アノマー反転型糖転移反応を発見2024年8月2日
東京理科大学大学院創域理工学研究科生命生物科学専攻の元内省氏(博士課程2年、日本学術振興会特別研究員)、同大学創域理工学部生命生物科学科の中島将博准教授、農研機構食品研究部門の今場司朗上級研究員、新潟大学農学部農学科の中井博之准教授の研究グループは、植物病原菌由来の糖質加水分解酵素(GH)ホモログが、「常識」を覆すユニークな糖転移反応により病原性に必須な糖鎖「α-1,6-cyclized β-1,2-glucohexadecaose(CβG16α)」を合成することを示した。この反応は、100年以上のGHの研究の歴史で初めて見つかった「アノマー反転型糖転移反応」。立体構造に基づいてこの反応が可能であると解明したことにより、「酵素を利用した糖鎖利用の可能性」を大幅に広げた。この酵素自体が全く新しいコンセプトの農薬の阻害ターゲットとして将来的に期待される。
図1:研究で発見した酵素の反応
同研究グループは、これまでアノマー保持型糖質加水分解酵素にしか見つかっていなかった糖転移反応を、アノマー反転型糖質加水分解酵素で発見した。これは、糖質加水分解酵素研究の100年以上の歴史の中で、初めて見つかったタイプの糖転移反応(図1)。
図2:一般的な糖質加水分解酵素群の反応の分類の模式図(構造、反応の一部は簡略化)
糖質加水分解酵素群は、反応前後でアノマー型が保持されるか反転するかで、アノマー保持型とアノマー反転型に大別される。また、この酵素群は基質に水がアタックするか、糖鎖がアタックするかで加水分解反応と糖転移反応に分類され、理論的には4種類の反応に分けられる(図2)。
糖転移反応は生体内で重要な役割を果たす反応の一つで、糖鎖合成のツールとしても利用価値の高い反応だが、アノマー保持型でしか見つかっていなかった。
図3:研究で発見されたアノマー反転型 の 糖転移反応。
同研究では、Xanthomonas campestris pv. campestris(Xcc)によるモデル植物(シロイヌナズナやタバコ)への病原性発現に重要なことで知られるα-1,6-cyclizedβ-1,2-glucohexadecaose(CβG16α)の生合成に関連する酵素について研究。その結果、Xcc由来酵素XccOpgDが直鎖状β-1,2-gulcanをCβG16αに変換することを発見した。また、立体構造解析も行い、この酵素がβ-グリコシド結合をα-グリコシド結合に変換して糖鎖の転移を行うメカニズムを明確に証明しました(図3)。これは、アノマー反転型にも糖転移反応が存在することを示す初めての結果で、酵素を利用した糖鎖合成の可能性を大きく飛躍させる発見と言える。
さらに、この反応により合成される糖鎖は、多様なグラム陰性菌の病原性発現に深く関わる物質であるため、将来的には今回発見した糖鎖ホモログ群をターゲットとした、殺菌することなく病原性を阻害できる、新しいコンセプトの農薬の創成につながる可能性がある。
同研究成果は6月19日、国際学術誌『Journal of the American Chemical Society』にオンラ
イン掲載された。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(173)食料・農業・農村基本計画(15)目標等の設定の考え方2025年12月20日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(90)クロロニトリル【防除学習帖】第329回2025年12月20日 -
農薬の正しい使い方(63)除草剤の生理的選択性【今さら聞けない営農情報】第329回2025年12月20日 -
スーパーの米価 前週から10円上がり5kg4331円に 2週ぶりに価格上昇2025年12月19日 -
ナガエツルノゲイトウ防除、ドローンで鳥獣害対策 2025年農業技術10大ニュース(トピック1~5) 農水省2025年12月19日 -
ぶどう新品種「サニーハート」、海水から肥料原料を確保 2025年農業技術10大ニュース(トピック6~10) 農水省2025年12月19日 -
埼玉県幸手市とJA埼玉みずほ、JA全農が地域農業振興で協定締結2025年12月19日 -
国内最大級の園芸施設を設置 埼玉・幸手市で新規就農研修 全農2025年12月19日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】「経済関係に戦略性を持ち込むことなかれ」2025年12月19日 -
【農協時論】感性豊かに―知識プラス知恵 農的生活復権を 大日本報徳社社長 鷲山恭彦氏2025年12月19日 -
(466)なぜ多くのローカル・フードはローカリティ止まりなのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月19日 -
福岡県産ブランドキウイフルーツ「博多甘熟娘」フェア 19日から開催 JA全農2025年12月19日 -
α世代の半数以上が農業を体験 農業は「社会の役に立つ」 JA共済連が調査結果公表2025年12月19日 -
「農・食の魅力を伝える」JAインスタコンテスト グランプリは、JAなごやとJA帯広大正2025年12月19日 -
農薬出荷数量は0.6%増、農薬出荷金額は5.5%増 2025年農薬年度出荷実績 クロップライフジャパン2025年12月19日 -
国内最多収品種「北陸193号」の収量性をさらに高めた次世代イネ系統を開発 国際農研2025年12月19日 -
酪農副産物の新たな可能性を探る「蒜山地域酪農拠点再構築コンソーシアム」設立2025年12月19日 -
有機農業セミナー第3弾「いま注目の菌根菌とその仲間たち」開催 農文協2025年12月19日 -
東京の多彩な食の魅力発信 東京都公式サイト「GO TOKYO Gourmet」公開2025年12月19日 -
岩手県滝沢市に「マルチハイブリッドシステム」世界で初めて導入 やまびこ2025年12月19日


































