コメ先物市場は先行きを示す価格指標になり得るのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2026年2月10日
総選挙で政治情勢が流動化、政治物資であるコメの先行きが見えなくなっている。今、コメ業界で最も関心が高い政府備蓄米の買入についてもいつ実施されるのか具体的スケジュールは示されていない。さらには入札売却された備蓄米の買戻しもどうなるのか全く分からないという状況。コメ業界ではせめて8年産政府備蓄米買入入札が早期に実施されれば、8年産米の価格の目途が立ち、産地、実需者双方との加工用米等の価格交渉が出来るようになり、それと合わせて主食用米の事前交渉もタタキ台としてテーブルの上にのせられるようになるのだが、現状ではそれも叶わない。さらには本来先行きの価格動向を示す役割があるはずのコメ先物市場も容易に理解できない指数取引によって当業者にそっぽを向かれている有様。

農水省は堂島取引所のコメ先物市場の取引高が低調であることを懸念しており、大臣官房商品取引グループでは現在、当業者(コメの生産者、集荷業者、流通業者、需要者)向けにセミナーを開催することを検討している。セミナーでは、当業者が実際にコメ先物市場をどのように活用しているのかといった事例を取り上げて、参加を促すことにしているが、指数取引そのものがわかりづらいうえ、先物市場で形成される価格が現物市場の価格とあまりにも乖離しているため価格変動のリスクをヘッジする機能も果たせないという商品設計上の重大な欠陥がある。
コメの価格が急激に下落していることもあってコメ先物市場を活用したい農協の組合長や大規模稲作生産者が農水省に出向いて、農水省幹部に「コメ先物市場で現物の受け渡しが出来るようにして欲しい」と言う要請を行ったが、農水省側からは具体的な返答はなく、商品取引グループ室も堂島取引所が現先連携を検討していることや先物市場での現物受け渡しに関しては価格形成市場を認めたくない組織の圧力を警戒してかGOサインを出さない。
その現先連携がどのようなものかと言うと、堂島取引所が唯一指定している現物市場は「みらい米市場(株)」である。この市場に登録している業者数は買い手が138社、売り買い両方が96社、合計234社である。取引開始から現在までの成約実績は、2023年10月~2024年6月が846俵、2024年7月~2025年6月までは7922俵、2025年7月~2025年12月末までが2152俵で、設立されてから昨年末までの累計成約数量は1万3072俵に留まっている。
このところ成約量が低調になっているクリスタルライスでさえ、一回のFAX取引会で少なくても2万俵以上成約していることからすれば、みらい米市場が現物市場としての役割を果たせるレベルに達するには相当の労力と時間を要し、現状のままではみらい米市場は堂島取が目論む現先連携の相手先としての役割は果たせない。
2月12日午後1時半から農政調査委員会が主催して千代田区紀尾井町の日本農業研究所で「第5回米産業・米市場取引に関する懇話会」を開催することにしており、この席で堂島取引所から「現先連携制度に関するヒヤリング報告」が行われるのに続き、(株)神明が「堂島コメ平均を活用した播種前契約」について具体的事例をあげて8年産米の契約について説明することになっている。
現先連携のヒヤリングについては、実際に先物市場を活用して売りヘッジした生産者から「現物市場ではスポット価格が急激に値下がりしているにも関わらず、堂島取のコメ先物市場の期近限月は逆に値上がりしており、しかも現物が渡せないためヘッジ機能が果たせないどころか差損が発生した」という厳しい意見が出ており、これに堂島取がどう答えるのか注目される。
また、試験上場中は先物市場に売り買いの建玉を建てている当業者であれば取引員が仲介して「合意早受渡し」で様々な銘柄の現物を受渡ししており、売り手は納会を待たずに早めに現物を換金出来、買い手は自らが必要とする産地銘柄を手当て出来るというメリットがあった。
現在のコメ先物市場ではそうした合意早受け渡し制度による現物の受け渡しも出来ない。試験上場中に現物の受け渡しが出来たことによって大きなメリットを受けたのは福島県であった。原発事故で行き場を無くした福島県産米は東京穀物商品取引所で試験上場中であったコメ先物市場の納会で大量に受け渡しされ、現金化することが出来た。
コメ先物市場が売り先の一つとして十分に機能することが認知されていたのだが、現在のコメ先物市場ではそれが出来ない。せめて先行きの価格のシグナルになり、先渡し条件で8年産米を契約する際に先物市場の価格を基準にして、集荷業者や生産者と卸が契約できるということを(株)神明が説明することになっている。これは(株)神明だから出来る手法ではなく、どのような流通業者、実需者であっても出来る事例なので、先行きの価格が見えない現在、これだけでも先物市場の価格を活用することは可能だ。
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