重要植物病原体ウイロイドの病原性を予測 アルゴリズムを開発 農研機構2024年11月7日
農研機構は、植物の重要病原体であるウイロイドの病原性を予測するアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムは、今回対象とした「ジャガイモやせいもウイロイド」だけでなく、他のウイロイドにも応用が可能なことから、野菜・果樹・花き類のウイロイド被害の低減につながると期待される。

PSTVdに感染したジャガイモの塊茎と健全なジャガイモの塊茎(左)と
強毒性から弱毒性まで示す各PSTVd変異体に感染したトマトと健全なトマト(右)
近年、野菜や果樹、花き類に病害を引き起こすウイロイド病害が、感染種子等の国際的な移動によって世界各地で発生している。これらのウイロイドに感染した植物に対し有効な薬剤はなく、一度感染すると、感染植物を全て廃棄処分しなければならない。また、1つのウイロイド種の中には多数の変異体が存在しており、それぞれ異なる病原性を示す。
こうしたウイロイドの病原性を評価するには、周辺ほ場への拡散を防ぐ隔離施設で、評価対象の植物にウイロイドを接種し、数か月間の栽培試験を経て発病の有無などの植物の反応を観察する必要がある。また、接種するウイロイドや植物の種類が増えると、それらの組み合わせが増加し、病徴の強度の判定に必要なコストも膨大になる。
そこで農研機構は、トマトやジャガイモにおける重要病原体である"ジャガイモやせいもウイロイド(PSTVd)"の各変異体の病原性を予測するアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムでは、それぞれの変異体がトマトにもたらす病徴の強度をコンピュータ上で予測。同アルゴリズムを用いると、栽培試験無しで多くのPSTVd変異体の病徴を一度に予測できるようになり、重大な被害を与える変異体を短期間で判定することが可能となる。
また、気づかないうちにウイロイドに無症状感染したトマトを栽培し蔓延してしまうリスクのあるPSTVd変異体の予測も可能。仮に、PSTVdがトマトにおいて無症状感染であっても、他の植物種に感染すると発病するリスクがあることから、無症状感染によって潜伏したウイロイドが汚染源となることを未然に防止することで、ウイロイドの感染による被害の低減に役立つことが期待される。
同研究で開発したアルゴリズムは、データベースで公開されているウイロイドのゲノム情報と宿主植物であるトマトのゲノム情報を利用してウイロイドによる病徴の強度を予測している。野菜や果樹、花きに感染するウイロイドは多数存在し、PSTVdと同様に、多数の変異体が報告されており、病原性も様々。将来的には、ウイロイド研究者や植物防疫に関係する専門家がこのアルゴリズムを利用して、トマト以外の様々な重要作物とウイロイドの組み合わせに対し、ウイロイドに感染した時の病徴の強度を予測することも可能になる。
これにより、接種試験のための栽培管理に要する労力や時間・場所が大幅に削減され、より効率的にウイロイドに感染した際のリスク評価やその評価を基にしたウイロイドの侵入や潜伏リスクの評価などが可能となる。
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