【コラム・森田実の政治評論】佐賀知事選の意味 改革至上主義の終焉へ2015年1月23日
・一兎を追うか二兎を追うか
・地方と農業の立直しが課題
1月11日の佐賀県知事選において無所属の山口祥義氏が、自公候補の樋渡啓祐前武雄市長に4万票の大差をつけて当選したことの意味は、非常に大きいと私は思っています。それは、1980年代以後、日本においても展開してきた新自由主義、競争至上主義、過激な改革至上主義の潮流が退潮期を迎えていることを示したということです。1970年代後半のサッチャー革命、1980年代初めのレーガン革命以後、30年以上にわたる新自由主義グローバリズムの流れが収束しつつあるのです。新自由主義は明らかに終焉に向かっています。
「過ちては改むるに憚ること勿れ」(孔子)
改革至上主義の潮流の衰退は、昨年2014年12月14日の衆議院議員選挙の結果にも示されました。改革至上主義から中道主義への大きな潮流の転換が静かに起きているのです。佐賀県民は過激な改革至上主義的県政の道ではなく、中道主義的、現実的な県政を求めました。これが山口氏勝利の背景だと私は思います。大きな時代の変化の意味をもつ選挙です。
◆一兎を追うか 二兎を追うか
改革至上主義は終焉しつつあります。代わって中道主義的現実主義が徐々に力をもってきています。「温故知新」の思想が復活しつつある、と言ってよいでしょう。この流れは、2015年4月の統一地方選挙を通じて日本全体に広がっていくと思います。
安倍首相は第一次内閣のとき、「戦後レジームからの脱却」という政治路線一本槍の行き方をとって失敗しました。国民生活を一枚看板にした民主党の小沢一郎氏に破れ、2007年の参院選で大敗を喫しました。この敗北が第一次政権崩壊の原因でした。
2012年12月に第二次安倍内閣が成立し、安倍首相が復活を果たしたとき、安倍首相が掲げたのは景気回復です。アベノミクスです。しかし実際には首相は二兎を追いました。景気回復と「戦後レジームからの脱却=憲法改正、集団的自衛権行使容認」の政治路線です。二兎を追う安倍政治は高い支持率に支えられて、矛盾をはらみながらも大きな破綻には至りませんでしたが、一進一退でした。安倍首相は2014年12月14日の衆院選において「景気回復 この道しかない」を訴えて勝利しました。安倍首相は景気回復の十字架を背負ったのです。大変な重すぎるほど重い大仕事を背負いました。
しかし、安倍首相は総選挙勝利の瞬間から二兎を追う路線を進む意思表示をし、景気回復と防衛力増強とを同時に進める2015年度予算を組みました。これは大きな賭けです。安倍政権は景気回復一本に総力を傾注するのが総選挙公約に忠実な行き方だと私は思いますが、安倍首相は二兎を追う方向へ動いています。危ない方向へ動き始めています。
もう一つ問題があります。
安倍首相は地方創生を経済政策の中心に据えましたが、これを成功させるためには改革至上主義からの脱却が必要です。地方と農業の声に従う姿勢に転換しなければなりません。しかし、安倍首相の経済政策理論の中心にあるのは依然として新自由主義、競争至上主義です。景気回復をする上で新自由主義路線は有害です。いま必要なのは地方・地域からの経済再生です。農業と地方経済の復興がカギです。これは新自由主義ではできません。この点で安倍首相の経済政策はちぐはぐです。力のある者を富ませることによって国民経済全体を潤すという手法では経済再生は困難です。安倍首相が成功するか否かは追うものを一兎に絞るとともに、新自由主義からの脱却が必要です。
◆地方と農業の立直しが課題
新自由主義の経済運営は格差を拡大するだけです。行き過ぎた改革至上主義は有害です。安倍首相の成否は、今までのやり方を中道主義的現実路線に変えることができるか否かにかかっています。改革至上主義では地方・農村を建て直すことは不可能だと思います。安倍首相は地方と農業者の声に謙虚に耳を傾けて政治運営を行うべきです。
安倍政権には重要な課題がもう一つあります。春の賃上げです。アベノミクスの成否は、2015年4月に賃上げが実現できるか否かにかかっていると思います。賃上げが掛け声倒れに終わるようであれば、景気回復は困難です。今のところ。賃上げは首相の掛け声だけで、経済界全体の盛り上がりは見られません。安倍政権は賃上げに本腰を入れる必要があります。安倍首相がすべての政治力を経済再生・景気回復に集中することができるか否かに、日本経済の未来がかかっていると思います。いつまでも二兎を追っていては景気回復は困難であり、いつまでも改革至上主義にこだわっていては地方と農業の再生は困難だと思います。方向転換が求められています。佐賀県知事選の結果に学ぶべきです。
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