【小松泰信・地方の眼力】政府予算案から見る国防と穀防2017年12月27日
12月22日、政府は一般会計総額が過去最大の97兆7128億円となる2018年度予算案を閣議決定した。注目すべきは、6年連続で増加、過去最大を更新する5兆1911億円の防衛費。この防衛費問題を軸に、予算案に関する新聞各紙の社説・論説を検討する。まずは全国紙から。
◆全国紙:特に興味深い読売新聞の展開。米穀より米国ですか
23日の読売新聞は、防衛費についてはまったく触れずに、「農道や用水路を整備する土地改良事業は、民主党政権の時代に削減されたが、今回は09年度の政権交代前の水準に並んだ。与党内で規模回復を求める声が強かった。厳しい財政事業を踏まえた慎重さが求められる。政府は総額2兆7073億円の17年度補正予算案も併せて決定した。欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)発効に備えた農業対策費などを計上した」と、農業関連予算に対する批判的な書きぶり。
25日の同紙は、"「陸上イージス」配備を着実に"という見出しで、防衛予算増額に賛辞を呈している。
まず、「北朝鮮や中国の軍備増強に対し、日本も相応の防衛力を整備し、抑止力を高める必要がある。...6年連続の増額は適切」と、完全肯定。つぎに、「対外有償軍事援助(FMS)」に基づく米国からの防衛装備の購入の急増について、「...米国の最新装備は高額だが、性能に優れ、代替できないものが多い。予算額の増大にはやむを得ない面があろう」と、理解を示す。「米国が価格や納期の設定に主導権を持つ制度のため、その言い値で購入を迫られがちだ」と、少しは批判するのかと思いきや、「他の装備の調達・維持費、自衛隊の訓練経費などへのしわ寄せが深刻化している」ことを心配している。23日の社説と読み合わせれば、増大する調達コストのしわ寄せを社会保障費や農業関連予算への削減で吸収せよ、という意図が透けて見える。
これがあながち勘ぐりではないことを、"コメ減反廃止 競争力強化へ規制改革を急げ"という見出しで同日併記された、もう一つの社説が教えている。
「補助金頼みのコメ作りから脱し、創意工夫で競争力を強化する。そのためには、経営の自由度を高める規制改革の加速が必要だ」で始まり、生産調整(減反)制度が「...補助金を主な収入源とする零細農家の頻出を招いた」とする。そして、2018年産米からの減反廃止を農業再生の契機と評価する。他方、「飼料米向けの補助金制度」を農業競争力強化に逆行する政策と批判する。
"低生産性改善のために意欲ある担い手への農地集積" "大規模化による収益性の向上" "規制緩和による民間企業の参入と経営権の掌握" 等々が実現すれば、強い農業、稼げる農業が達成する、と言う幻想を書きなぐるだけ。もちろん、それによって失われるものへの顧慮もない。
毎日新聞(23日)も、「農業の土地改良費は民主党政権前の水準に戻した。自民党の支持団体へのばらまきとみられても仕方がない」と、農業関連予算に批判的書きぶり。
日本経済新聞(24日)は、防衛力の増強は不可欠としたうえで、「...陸海空いずれの自衛隊にとっても主業務でない課題への感度が鈍い」として、サイバー攻撃といった新たな危機への対応が手薄、と注文をつける。
朝日新聞(23日)は、「ミサイル防衛をどこまで優先するか。巨額の費用に見合う効果があるのか。次々と兵器を購入する背景に、米国への過度な配慮があるのではないか」と、やや及び腰の感あり。
◆地方紙:筆致鋭い批判の展開
地方紙の多くは、防衛費の増大傾向には批判的である。
愛媛新聞(23日)は、「北朝鮮問題を『国難』とあおって利用し、国会での十分な審議もなく巨額装備の経費を盛り込んだことは看過できない。憲法9条に基づく『専守防衛』から逸脱する危険性が高い、敵基地攻撃が可能な長距離巡航ミサイルの経費を計上。...『イージス・アショア』導入も閣議だけで決めた。購入額がどこまで膨らむかも不透明だ。...契約もいわば米国の『言い値』で、見積額に基づき前払いする対外有償軍事援助になる見通し。トランプ大統領の売り込みを受け今後、必要以上に購入が増え続けることを危惧する」と、問題点を余すことなく指摘している。全国紙には見られぬ小気味好い展開。
加えて、「沖縄振興予算は2年連続の減額で3010億円となり、14年の翁長雄志知事就任後、最低を更新した。米軍普天間飛行場移設を巡り、国と県が激しく対立している。政権との『距離』が恣意的な予算配分につながっている疑念が拭えない」との指摘には、快哉を叫びたい。
同様に中国新聞(23日)も防衛費問題に鋭い批判をした後、「日本政府が米国にいい顔をして大盤振る舞いをすれば、国民の暮らしに欠かせない社会保障費などの予算にしわ寄せが及ぶことを忘れないでほしい。歳出の3割を超す社会保障費についても、政府は抑制することばかり重視しているように見える。その一方で、防衛費の効率化は検討せずに『聖域』とすることは容認できない」と、的確な指摘。
この他、あくまでも政府案であることから、「今度の防衛予算案には不透明な点が多過ぎる。十分な説明なしに北朝鮮対策という理由による装備増強はあまりにも乱暴だ。国会での徹底論議を求めたい」(デイリー東北、23日)、「緊張緩和の外交努力と、専守防衛の下で節度ある防衛力を整備するのが日本の安全保障の取るべき道である。防衛費の際限なき膨張に歯止めをかけるために、国会で徹底した議論が求められる」(北海道新聞、25日)といった、国会での論戦を期待する論調多数。
作られた国難と軍国化へのシナリオを、多くの地方紙は見抜き、紙面から警鐘を鳴らしている。
◆沖縄からの訴えと穀防のすすめ
"これでは制度がゆがむ"との見出しは沖縄タイムス(23日)。「予算を大幅に減らすことで、辺野古移設に反対する知事をけん制し、県内世論に揺さぶりをかける。そんな狙いがすけて見える予算である」ではじまり、「沖縄関係予算が『基地維持装置』としての役割を強めれば強めるほど、沖振法に基づく『沖縄振興の論理』がゆがめられていく」とする。
さらに、減額だけではなく、その中身の犯罪的問題点を指摘する。すなわち、沖振法に基づき、県や市町村が自主的に実施できる制度として創設された沖縄独自の制度である"一括交付金"が過去最低となる大幅削減なったこと。その一方で、国直轄事業は軒並増額。「沖縄関係予算に対する官邸のコントロールが今ほど強まっている時は過去にない」と、官邸の兵糧攻めを訴える。
兵糧攻めと言えば、日本農業新聞(23日)は、「この予算で農家所得を増やし、農村を活性化できるのか」と迫り、「安全保障は防衛力だけでは担保できない。足元の食料安全保障を確立できないようでは国民の命を守れない」と、直球を投げ込み、国会論戦に期待を寄せている。どこまで期待できるか、はなはだ心許ない状況ではあるが、諦めるには早すぎる。
農業関係者は、自分たちが、兵糧攻めという最強の平和的武器を持っていることを、他方政府は、国内外から兵糧攻めに遭わないよう、穀防に力を入れることを肝に銘じておくべきである。
「地方の眼力」なめんなよ
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