【近藤康男・TPPから見える風景】TPP、日米関係の地政学的側面を考える2018年1月4日
多国間の経済連携協定は多くの場合、経済的側面に加え政治的には地政学的側面を免れられない。そして時には、地政学的側面を担保するために軍事的な要素を伴うことも見られる。企業自体は国の枠組みから自由であるものの、多国間の枠組み作りは政府により代表されている。政治と経済が不可分な中国の存在が大きくなる中では、更に意識されるようになっている。
今回は、TPPから見える風景を通して、日米が地政学的な意味を含め、どのようにアジア太平洋地域に関与してきているか考えてみたい。
◆11年秋から勢いを増した、日米のアジアへのリバランス
11月は、毎年APEC首脳会議、ASEAN首脳会議とその関連会議が集中する季節となっている。筆者が参加している有志の反TPPのグル-プは、11年11月にハワイでのAPEC対抗行動に、福島原発事故の問題とTPP反対を訴えるべく参加したが、米国のリバランス=アジア回帰政策を取り巻く地政学的変化を感じて帰ってきた。この時出会ったTPP参加国の市民団体とは、その後国内外で連携を深めることとなる。
米国は前年にTPP交渉に参加、日本は「TPP交渉参加と平成の開国」を打ち出した菅首相の後の野田首相が、ハワイAPEC首脳会議で"参加検討"を表明し、翌年2月から事前交渉が始まった。日米にとって、成長するアジアの成長を取り込み、21世紀の通商ル-ルを主導するために、ソフトパワ-としてのTPPは格好の道具立てだった。そして日本は米国を、米国は日本を必要としていた。自動車の非関税"障壁"や農業の市場開放が、日本政府にとってアリバイ的な重要関心事項でしかないこともその後明らかになった。
APECの場ではオバマ大統領が、軍事を含むアジアへの"リバランス"を打ち出し、豪州ダ-ウィンに海兵隊を配置、外交の要としての通商と(ハ-ドパワ-としての)軍事の並立が認識される場ともなった。
そして民主党(日本)政権下でも、日米の軍事的一体化が大きく進み(日・米・豪・比の海洋での合同演習、日米の離島奪還演習、テニアン島に自衛隊の訓練拠点配置、自衛隊幹部の米国防省駐在、日印海洋安保協議、等々)、それは現在も続いている。
◆中国の関与と巻き返し
成長のアジアとの関連でのもう一つの要素は、RCEPの立ち上げだ。11年11月のASEAN首脳会議長声明は、自らが中心となって日中両国の共同提案(ASEAN+3と+6の両論併記)を踏まえて議論を進めることを確認した。中国は"インド抜き"の実現に拘っていたが、ASEANはインドを排除しない立場を強め、同時期の東アジアサミットでもこれを歓迎した。そして翌12年11月のASEAN+6ヶ国首脳会議で、RCEP交渉の立ち上げが宣言されるに至った。
またASEANは、中国の南シナ海の南沙・西沙諸島での埋め立て・軍事拠点化に対して、領有権を主張するフィリピン、ベトナムを中心に牽制を強め、中国との間で法的拘束力のある海洋での「行動規範」策定の協議に入ることで合意した。また米国も中国牽制のため、「航行の自由」作戦を開始した。
しかし、経済支援を梃子に15年を境に中国の巻き返しが奏功し、ASEANによる中国批判は後退、「行動規範」策定の協議は実質的に棚上げ状態となっている。
そして中国は、13年の「一帯一路」構想、アジアインフラ投資銀行構想の立ち上げなど、アジアから欧州・アフリカに広がる経済的権益確立を打ち出してきている。またインド洋を中心に「真珠の首飾り」戦略と称される軍事拠点の展開を並行して進めている。ちなみに、「一帯一路」と「真珠の首飾り」で陸海双方から包囲されかねないインドはエネルギ-の90%を中東に、貿易の50%を東アジアに依存しており、対抗的に「ダイヤのネックレス」と称される動きを始めている。
◆TPPの地政学的から「自由で開かれたインド・太平洋戦略」へ
TPPでは、折に触れて新しい世界標準を主導すること、それを中国にさせる訳にはいかない、ということが言われたが、特に米国で年内の議会承認が難しくなった16年夏以降繰り返し喧伝されるようになった。TPPの条文の文脈にもそのことが意識されている。RCEPの交渉では、日・豪・NZがTPP規範に拘り、中国(インドとも)と鍔迫り合いを演じている。
そして、昨年11月の日米首脳会談は「自由で開かれたインド太平洋」戦略に合意、安倍首相はASEANとの首脳会合でも呼び掛けた。
経済連携と地政学的展開の新たな広がりを注視する必要がある。
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