【小松泰信・地方の眼力】現場は危機を踏み越える2018年2月28日
2月20日午前8時40分ごろ、米空軍三沢基地所属のF16戦闘機が離陸直後、エンジンから出火した。同機は着陸時の火災を防ぐために、基地北側の小川原湖にタンク2本を捨て、同基地に引き返した。タンクは湖でシジミ漁をしていた漁船から約200メートルの地点に落下した。
◆全国紙では朝日だけ
この問題を社説で取り上げた全国紙は朝日新聞(22日)のみ。
「米軍機の事故やトラブルは全国で続いている」ことに対して、「日米安保条約と地位協定のもとで、米軍に様々な特権が与えられ、乱暴な運用が繰り返されている」と指摘する。そして21日に沖縄県議会が、米軍に対し「沖縄は植民地ではない」と抗議する決議を全会一致で可決したことを紹介し、「強大な権限を握る米軍には、それだけ真摯に慎重に運用する責任がある。日本政府はまずそのことを強く訴えるべきだ」として、地位協定の見直しを求めるのが"主権国家としての日本政府の使命"と、強調する。
◆危機感を強める地方紙
「わが物顔に日本の上空を飛行し、不要なものは遠慮なく地上に投棄する。といっては言い過ぎかもしれないが、現に起きている危険な事態を見逃すわけにはいかない」で始まる福井新聞(23日)は、「事故の捜査権も及ばない現状の中で、日米同盟に依拠する安倍政権の外交・安全保障に対する姿勢や危機管理体制も厳しく問われよう。非常時とともに、日常におけるわが国の空と国民の安全をどう守るのか。政府の毅然たる主体性も一層厳しく問われている」と、政府の姿勢に疑問符を投げかけている。
「米軍と自衛隊の岩国基地を抱える私たちも、青森や沖縄の問題だと済ませられない」と、危機感を強めるのは中国新聞(23日)。「岩国基地と市は米軍機の訓練や飛行は正月三が日と盆期間中は避けることを確認している。ところが、基地の運用マニュアルに、それに反する記述があることが分かった」と、新事実を明らかにする。そして、「このままでは住民の安全はもちろん最低限の平穏な暮らしも守れない。政府は協定見直しも視野に、粘り強く改善を目指すべきだ」と、政府に平穏な日常の保障を求めている。
「『それで何人死んだんだ』-日本政府も米軍も、腹の内ではまた、そううそぶいているのだろうか」と、聞き覚えのある放言から始まるのは愛媛新聞(23日)。「高速飛行中の戦闘機から、湖面の『人け』や安全性を詳細に確認できたとは、到底信じられない。タンクが漁船を直撃しなかったのは『たまたま』にすぎず、極めて重大な事故につながりかねない危機であったことは明白」「一歩間違えば大惨事」「米軍機の事故が、こうも頻繁に続く状況は明らかに異常」と、ズバリの指摘の数々。そして、「愛媛でも、...2度、米軍機の事故が起きている。上空には『オレンジルート』と呼ばれる米軍訓練ルートもある」として、今回の重大事案が「日本中どこでも起こり得るとの認識を持ち、基地問題を再考し、向き合う契機とせねばならない」と、危機感を強め警鐘を鳴らす。
◆重鎮が乱打する農業問題への警鐘
警鐘と言えば、日本農業新聞に21日から連載されている"緊急インタビュー 針路を問う"と題した企画において、国会や政治のあるべき姿や課題について、国政の一線で活躍した元議員の乱打が興味深い。
元金融相の亀井静香氏(22日)は、「だんだん政治から土のにおいがしなくなった」との嘆き節から始める。そして「農業が総生産の何%なんて関係ない。日本人の魂の根っこにあるのが農業。生活を形づくっている基本の中の基本だ。そのにおいが薄れてきたら日本でなくなって、漂い始める。そういう状況だ」には同感。「農政も農業に関係のない連中が仕切っている。安倍晋三(首相)は間違えている」と、一太刀のあと、「生産性が低くても人の心を大事にする。土地を耕す、米を作る、野菜を作る、そこに生きがいを感じている人を大事にする政治をやらないかん」と、苦言を呈する。
「田舎の土地で生活できる人たちがいないといかん。農業政策の基本はそこだ。土地を何十町歩も集約して機械でやっておしまいの農業でいいというのは間違い。小規模でも兼業でも、やっていける環境をつくらないと駄目だ」としたうえで、「残念ながら農協すら効率的に農産物を生産すればいいという団体になっている」と、JAにも厳しいコメントを忘れていない。
願わくば、農林水産大臣へ復帰され、次官の更迭と規制改革推進会議の解散に辣腕をふるっていただきたい。
前日本共産党中央委員会議長の不破哲三氏(24日)は、まず「過去にも政治手法が強引な内閣はあったが、安倍政権のような横暴はなかった」とする。半世紀にわたって自民党政治と対峙してきた経験者の言葉は重い。さらに「安倍政権は、自分が決めた政策を国民と国家に押し付ける。誤りを突き付けられても、時間切れになるまで言い抜けようとする。かつてなかった国会軽視姿勢だ」と、その政治姿勢を糾弾する。亀井氏同様、規制改革推進会議が幅を利かせる状況を嘆く。その被害者である農政については、「日本農業の中心は水田の家族経営だが、今の政権は企業が参入して経営が発展すればいいという態度。かつての農政も、やるべきことをしなかった部分はあった。しかし、家族経営と農協への直接攻撃に乗り出したのは安倍政権になってからだ。危機的な状況と言える」と、農政の危機を冷静に分析している。
確かに、公正取引委員会(公取委)が23日に、「JA以外にネギを出荷した組合員に特産ブランドの商標や集出荷施設を使わせなかったのは独禁法違反(不公正な取引方法)に当たるとして、JAおおいたに是正するよう排除措置命令を出した」(日本農業新聞24日)ような動きには、薄ら寒さを覚える。しかし、それでへこたれるような農業者やJAグループではないはず。
◆見えるかな? 危機を踏み越える現場の姿
この2月、前回の当コラムで紹介した北海道を皮切りに、JAはまゆう、JA静岡中央会、岡山県農民連、JAたがわ、JAひがしうわ、JA丹波ひかみで、農業者やJAの役職員を前に講演を行った。どこも、農業改革、農協改革という"改革"の二文字で化粧された愚策がもたらす危機に振り回され、戸惑いつつも、高品質の農畜産物を適正な価格で提供するために、己の役割を果たしていこうとする誠実な姿勢と意欲にあふれていた。
愚かしい政治家、官僚、そして規制虫どもには見えない、見たくない風景のはず。
26日と27日は、研究室一同で浜松市にあるJAとぴあ浜松と株式会社知久を訪ねた。JAでは農業振興への意欲的な取り組みの数々を学んだ。知久では、「健康とおいしさ」をテーマとした惣菜類・米飯類の製造及び販売、レストラン経営、そして耕作放棄地を開墾するところから始めた自社農園での農業事業などを学んだ。
一歩ずつ危機を踏み越えていく取り組みの数々に興奮しながら、東海の名刹舘山寺に足を伸ばした。そこで求めたのが、眼病平癒の信仰を集め、「めのお大師さん」と親しまれている穴大師ゆかりの手ぬぐい。大書された"め"の字が気に入った。
「地方の眼力」なめんなよ
(コラム「地方の眼力」の過去の記事)
・一歩の格差(18.02.21)
・「民意を得た」のはだれだ(18.02.14)
・"おしどり"イロイロ(18.02.07)
・大統領ついでの首相 SDGsって知ってる(18.01.31)
・農林水産 "辛" 時代と三安主義(18.01.24)
・米騒動、今年あったら百年目(18.01.17)
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