ギャップを浅く【理念と現実(上)】2018年5月9日
◆理念で飯は食えず
「理念と現実は違う」「理念で飯は食えない」よく聞く言葉である。
確かに、空虚な理念を唱えるだけでは組合員加入の拡大にも事業推進にも役に立たない。理念はライバルとの差別化の源泉でなければならない。
一方、他企業を見れば、京セラの稲盛会長のように理念を大事にする経営者が増えている。なぜ理念と現実を違う次元で捉えてしまうのだろうか。
◆規模が成功体験に
農協は高度成長期に食管等の諸制度に守られつつ、規模の経済によって協同の成果を実現してきた。
大量生産大量消費にあわせて、大都市に大量に農産物を供給する農協のビジネスモデルは成功した。大規模産地化を実現し、有利販売。予約で量を確保して生産資材を安く共同購入。装置産業である貯金や共済を推進。どれも市場が広がっていたから、理念を軽視しても事業規模を拡大すれば協同の成果は体現できた。
この成功体験の故に、日本経済が低成長期になり規模の経済が追求できなくなったにもかかわらず、合理化は追求したが理念軽視の流れはむしろ強まっている。
◆「レンガ職人」の話
アンジェラ・ダックスワークは、「同じ仕事をしても、自分の仕事が世の中に役に立つと思っている人は粘り強くかんばれるから、やり抜く力が強い」という最新の研究を紹介している(※1)。
有名なイソップ童話のレンガ職人の寓話の通りである。ある人が3人のレンガ職人に「なにをしているのですか?」とたずねた。すると3者3様の答えが返ってきた。
1番目の職人は「レンガを積んでいるのだ。重労働ばっかりで大変だ。ついていない」。2番目の職人は「大きな壁を作っているんだ。この仕事があるから家族を養える。大変といったらバチがあたる」。3番目の職人は「歴史に残る大聖堂を創っているんだ」。
今、農協らしさが問われている。では、今の自分たちはレンガ職人の例では何番目なのか。そして、何番目を目指したいのだろうか。
協同組合・株式会社を問わず、どの組織も理念を持っている。理念は、悩む時にこれからの道を判断する羅針盤であり灯台である。灯台を無視するから迷うのである。
◆高理念者ほど高実績
JCAの西井賢悟主任研究員は、職員の理念浸透構造を分析した(※2)。本論文では「農協職員において『協同組合理念』が高浸透の者ほど、(1)農業・地域への関心・行動、(2)組合員との関わり、(3)職場での行動(誠実、利他など)、(4)新しいアイデア等の革新行動、(5)事業実績も高い」と指摘する。
◆20代のギャップ拡大
また、「感情・知識・行動の三次元で理念浸透を把握すると、20歳代は入組時点では高かった感情レベルが低下を続け、理念と現実とのギャップに悩む。30歳台で理念浸透が進み、40歳代に管理職となり一度悩んだうえで安定的に上昇する」という。
一般企業でも入社後、ギャップはあるが、5年間程度で収束する。農協における入組後10年間のギャップをいかに浅く、いかに早く埋めるか、が課題である。次回、その考察をしたい。
(藤井晶啓)
◇ ◇
(※1)アンジェラ・ダックスワーク「やり抜く力」ダイヤモンド社
(※2)西井賢悟「JA職員における『協同組合理念』の浸透構造と浸透促進策」協同組合研究誌「にじ」2016夏号
(関連記事)
・農協は誰のための組織か(18.03.09)
・准組合員は組合員か否か(17.12.19)
・「農協改革」で危機感共有 新総合JAビジョンづくりで提言 新世紀JA研究会セミナー(16.07.25)
・JAの総合戦略 若手職員が発表 全中の人材育成研修(15.02.26)
・JAの人材育成で討議 JA全中(14.06.04)
重要な記事
最新の記事
-
地域複合農業戦略に挑む(2)JA秋田中央会会長 小松忠彦氏【未来視座 JAトップインタビュー】2024年4月19日
-
農基法改正案が衆院を通過 賛成多数で可決2024年4月19日
-
【注意報】さとうきびにメイチュウ類 伊是名島で発生多発のおそれ 沖縄県2024年4月19日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:JA水戸 那珂川低温倉庫(茨城県) 温湿度・穀温 適正化徹底2024年4月19日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ対策を万全に 農業倉庫基金理事長 長瀬仁人氏2024年4月19日
-
食農教育補助教材を市内小学校へ贈呈 JA鶴岡とJA庄内たがわ2024年4月19日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第97回2024年4月19日
-
(380)震災時は5歳【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年4月19日
-
【JA人事】JA道北なよろ(北海道)村上清組合長を再任(4月12日)2024年4月19日
-
地拵え作業を遠隔操作「ラジコン式地拵機」レンタル開始 アクティオ2024年4月19日
-
協同組合のアイデンティティ 再確認 日本文化厚生連24年度事業計画2024年4月19日
-
料理酒「CS-4T」に含まれる成分が代替肉など食品の不快臭を改善 特許取得 白鶴酒造2024年4月19日
-
やきいもの聖地・らぽっぽファームで「GWやきいも工場祭2024」開催2024年4月19日
-
『ニッポンエール』グミシリーズから「広島県産世羅なしグミ」新発売 JA全農2024年4月19日
-
「パルシステムでんき」新規受付を再開 市場の影響を受けにくい再エネ調達力を強化2024年4月19日
-
養分欠乏下で高い生産性 陸稲品種 マダガスカルで「Mavitrika」開発 国際農研2024年4月19日
-
福島県産ブランド豚「麓山高原豚」使用『喜多方ラーメンバーガー』新発売 JAタウン2024年4月19日
-
微生物農業資材を用いた大阪産の減肥料栽培で共同研究開始 ナガセケムテックス2024年4月19日
-
栃木県真岡市産バナナ「とちおとこ」使用「バターのいとこ」那須エリア限定で新発売2024年4月19日
-
大阪泉州特産「水なす」農家直送で提供開始「北海道海鮮にほんいち」2024年4月19日