(082)自給率からサプライ・チェーンのコントロールへ2018年5月18日
2018年5月10日に公表された米国農務省資料、ついにここまで来たか…という感を抱かずにはいられなかった。中国の年間大豆輸入見通しが1億tを超えたのである。
2018/19年度の中国の大豆輸入見通しは1億300万tと史上最高である。昨年度は9700万tであり増加はわずか600万tだが、大台を超えるというのはシンボリックな意味で感慨深いものがある。
ちなみに、同じ2017/18年度における世界の大豆生産量見通しは3億5454万tであり、その中で輸出には約46%が回る。大豆だけで見た場合、世界最大の輸出国はブラジル(7230万t)、2位が米国(6232万t)、3位アルゼンチン(800万t)、4位パラグアイ(590万t)、5位カナダ(580万t)、その他(750万t)で、合計約1億6000万tである。分かりやすく言えば、世界の大豆輸出の45%はブラジル、39%は米国である。南米3カ国(ブラジル・アルゼンチン・パラグアイ)は合計で世界の大豆輸出の53%を占める。
ところがこの大豆をどこが輸入しているかになると中国の存在感が圧倒的、3分の2である。1億300万tに次ぐのはEUの1420万tであり、中国の輸入量の14%に過ぎない。残りの各国は200から400万t水準であり、今年度の日本は325万tが見込まれている。同時に発表されている年間搾油数量でも、中国は9500万tと、米国の5620万tを遥かに上回る。
※ ※ ※
さて、前回のコラムで中国企業の海外農業投資が急速に増加していることを記した。気が付けば中国企業は複数の分野で世界一の規模となっている。食料と農業分野も例外ではない。
もちろん、中国政府にとって食料の国内自給は最重要課題の1つであることは間違いない。しかし、100%自給が現実的に不可能であると判明した時、いかに戦略を転換すべきかが求められたようだ。国内自給を看板として意識しつつも、実際に行うことは大量の穀物・油糧種子の輸入ならば、そのパイプライン、つまりサプライ・チェーンの徹底的な支配と管理であることは容易に想像がつく。それが他者に握られることは命綱を他に委ねることになるという現実的な判断だ。
大豆で言えば、年間1億tの輸入をいかに円滑にこなすかである。単純計算で月に833万t、1日当たり27万tの大豆を事故無く、着実かつ半永久的に輸入するシステムをどう作り上げるかである。
実は、こうしたシステムは中国が初めて構築したものではない。日本も年間3000万tの穀物を輸入する中で、JAグループや総合商社が長い年月をかけて「見えざるインフラ」として同様な仕組を構築してきている。ただ、中国の場合は大豆1品目だけでも1億tと規模が日本の3倍以上になること、そしてシステムの構築までの時間が圧倒的に短いことが特徴である。
※ ※ ※
穀物の国際貿易においてはカーギル社やバンゲ社など、俗に「穀物メジャー」と呼ばれる複数の企業があることはよく知られている。その中に、1920年、ヨーロッパの貿易中心地であるオランダのロッテルダムに設立されたNidera社(ニデラ社)という会社がある。筆者も前職時代、ヨーロッパのライ麦等を購入した際に何度か付き合いをしたことがある老舗だが、現在、この会社はCOFCO社の子会社である。
COFCO社の正式名称は中糧集団有限公司、中国最大の食品会社であり、世界の大企業500社の中にも含まれている。同社のホームページには、収益は340億ドル、取扱数量は1億500万t、港湾能力3500万t、加工能力3000万t、内陸倉庫270万t、そして、海外資産の60%は南米にあり、世界35か国で1万2000人が働いていると記されている。これは「穀物メジャー」以外の何物でもないであろう。
恐らく何年か前に中国政府は欧米の「穀物メジャー」と日本の総合商社を合わせたような組織を食料と農業の分野で作ることが、近い将来確実に輸入に依存することになる自国の食料安全保障にとって絶対的に不可欠であると認識したはずだ。その具体的な対策の1つとして、南米産地への大規模な投資とともに、ニデラ社のような老舗の穀物企業を買収し、そのノウハウを取り入れることで自国への輸入のサプライ・チェーンを自らコントロールするという方向に舵を切ったのである。
中国にとってはこれこそが食料自給力を高める現実的な選択であったようだ。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】水稲に斑点米カメムシ類 県下全域で多発のおそれ 茨城県2025年7月11日
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 新潟県2025年7月11日
-
【注意報】果樹に大型カメムシ類 果実被害多発のおそれ 北海道2025年7月11日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 福島県2025年7月11日
-
【注意報】おうとう褐色せん孔病 県下全域で多発のおそれ 山形県2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA加賀(石川) 道田肇氏(6/21就任) ふるさとの食と農を守る2025年7月11日
-
【'25新組合長に聞く】JA新みやぎ(宮城) 小野寺克己氏(6/27就任) 米価急落防ぐのは国の責任2025年7月11日
-
(443)矛盾撞着:ローカル食材のグローバル・ブランディング【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月11日
-
米で5年間の事前契約を導入したJA常総ひかり 令和7年産米の10%強、集荷も前年比10%増に JA全農が視察会2025年7月11日
-
旬の味求め メロン直売所大盛況 JA鶴岡2025年7月11日
-
腐植酸苦土肥料「アヅミン」、JAタウンで家庭菜園向け小袋サイズを販売開始 デンカ2025年7月11日
-
農業・漁業の人手不足解消へ 夏休み「一次産業 おてつたび特集」開始2025年7月11日
-
政府備蓄米 全国のホームセンター「ムサシ」「ビバホーム」で12日から販売開始2025年7月11日
-
新野菜ブランド「また明日も食べたくなる野菜」立ち上げ ハウス食品2025年7月11日
-
いなげや 仙台牛・仙台黒毛和牛取扱い25周年記念「食材王国みやぎ美味いものフェア」開催2025年7月11日
-
日本被団協ノーベル平和賞への軌跡 戦後80年を考えるイベント開催 パルシステム東京2025年7月11日
-
東洋ライス 2025年3月期決算 米販売部門が利益率ダウン 純利益は前年比121%2025年7月11日
-
鳥インフル 米バーモント州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年7月11日
-
鳥インフル ブラジルからの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年7月11日
-
全国トップクラスの新規就農者を輩出 熊本県立農業大学校でオープンキャンパス2025年7月11日