【熊野孝文・米マーケット情報】コメのベーシス取引とは何か?2018年5月29日
農業協同組合研究会の研究大会(5月19日)でコメの価格がどう決まるのかについて話をさせて頂いた。講演後の質疑応答で様々な角度から質問があった。言葉足らずの感もあるのでこのコラムを借りて捕捉してみたい。
現物市場と先物市場の価格差を活用したベーシス取引とは、単純に言えば「空間」「時間」「物質(品位、食味等)」の違いを活用した鞘取りのことである。「空間」とは、例えば秋田に60kg1万5000円の秋田あきたこまちを在庫している業者がいたとして、東京で秋田あきたこまちが1万5700円で売れるとする。運賃が600円かかるとするなら秋田から東京に運んで100円の利益が得られる。これが空間を利用した鞘取り(利ザヤ稼ぎ)である。
これはアメリカ大豆を日本に運ぶ行為でも全く変わらない。ただし、シカゴに在庫してあるアメリカ大豆を日本に運んで利ザヤが稼げるという状態になることはまずない。なぜならそうした利ザヤが生まれるような環境になればだれでもやるからで、大体アメリカより日本に置かれている大豆が安いという逆ザヤが常態化している。しかも輸入には為替が絡むので利ザヤを稼ぐには厄介だ。
「時間」とは何かというと、先物市場では6か月先もしくは1年先まで取引が行われていることを指す。例えば新潟コシの先物市場で6月限が1万7000円で2ヵ月後の8月限が1万7500円という価格が形成されていたとする。新潟コシヒカリを1ヶ月間保管するのに金利、保管料が1俵200円かかるとしたら2ヵ月間で400円なので6月限を買って8月限を売れば100円の利ザヤが稼げる。先物市場で当限が安く期先が高いことを順ザヤと言うが、鞘取りが出来るような順ザヤになることもまれにしかないが、そうした価格が形成されると必ず鞘取りをする当業者が現れる。戦前、コメの先物市場が盛んな頃はコメ卸が鞘取りを行っており、(株)木徳神糧の創業者木村徳兵衛氏も鞘取りで名をはせた一人である。
最も難しいのが「物質」の格差である。日本のコメはそれがさらに複雑である。コメの格差はまず検査に因る等級間格差がある。1、2等格差は産地銘柄によって違い、現在でも600円のものもあれば500円のものもある。次に年産格差がある。大阪堂島商品取引所は新潟コシ、大阪コメの年産格差を60kg1500円にしているが、東京コメは1000円である。この格差は米穀取引運営委員会で決めているが、絶対的な格差ではない。現物市場では需給がひっ迫すると年産格差が縮小する傾向がある。銘柄間格差もその傾向があるが、これは年産格差とは違い実に複雑である。
例えば新潟コシヒカリと低価格の関東雑銘柄の価格差の推移を追ってみるとその時の需給状況では判断できない格差になったりする。この銘柄間格差を活用して実際に産地と契約している商社もいる。この商社に過去のデータを基に銘柄間格差を判断しているのか聞いたことがあったが、それこそこの企業のコメ取引ノウハウに関することなので答えは得られなかった。この銘柄間格差がどのような要因で動くのかデータ分析会社に依頼したが、かなり高額の分析料金が発生することが分かりペンディングになっている。
物資の価格差は違う性質を持つものとも相関があることが知られている。良く知られていることでは原油価格と穀物価格の相関で、ほぼパラレルに価格が動いている。農業はエネルギーで支えられている証左であるということも出来る。
コメのベーシス取引に言及したわけは30年産から生産調整の配分が廃止されたことで、生産者はマーケットインの発想で自らの経営判断でコメ作りをするというのならマーケットで形成される価格のメカニズムを知ることが欠かせない。それなくして経営判断など出来ない。
生産者が今年田植えをしたコメをいつ売った方が得なのか? 手持ちしている在庫はどの市場で売った方が得なのか? 大規模に稲作経営を行い、さらに精米販売もしている生産者なら自産地のコメを売って他県のコメを仕入れた方が良いのか?気象条件の変動にどうリスクヘッジした方が良いのか、など様々な要因が価格にのしかかる。これらを一人で判断するのは骨の折れることでアメリカの稲作生産者は農協に委託する。農協はマーケティングのプロを雇いリスクを分散させながら販売手法を決定する。アメリカの手法が日本で通用するとは思えないが日本型コメベーシス取引が急速に発達し、それが簡単にできる市場ができて欲しいものである。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(166)食料・農業・農村基本計画(8)農業の技術進歩が鈍化2025年11月1日 -
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(83)テトラゾリルオキシム【防除学習帖】第322回2025年11月1日 -
農薬の正しい使い方(56)細菌病の防除タイミング【今さら聞けない営農情報】第322回2025年11月1日 -
酪農危機の打破に挑む 酪農家存続なくして酪農協なし 【広島県酪農協レポート・1】2025年10月31日 -
国産飼料でコスト削減 TMRと耕畜連携で 【広島県酪農協レポート・2】2025年10月31日 -
【北海道酪肉近大詰め】440万トンも基盤維持に課題、道東で相次ぐ工場増設2025年10月31日 -
米の1等比率は77.0% 9月30日現在2025年10月31日 -
2025肥料年度春肥 高度化成は4.3%値上げ2025年10月31日 -
クマ対策で機動隊派遣 自治体への財政支援など政府に申し入れ 自民PT2025年10月31日 -
(459)断食:修行から管理とビジネスへ【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年10月31日 -
石川佳純が国産食材使用の手作り弁当を披露 ランチ会で全農職員と交流2025年10月31日 -
秋の果実王 旬の柿を堪能 福岡県産「太秋・富有柿フェア」開催 JA全農2025年10月31日 -
「和歌山県産みかんフェア」全農直営飲食店舗で開催 JA全農2025年10月31日 -
カゴメ、旭化成とコラボ「秋はスープで野菜をとろう!Xキャンペーン」実施 JA全農2025年10月31日 -
食べて知って東北応援「東北六県絆米セット」プレゼント JAタウン2025年10月31日 -
11月28、29日に農機フェアを開催 実演・特価品販売コーナーを新設 JAグループ岡山2025年10月31日 -
組合員・利用者に安心と満足の提供を 共済事務インストラクター全国交流集会を開催 JA共済連2025年10月31日 -
JA全農と共同開発 オリジナル製菓・製パン用米粉「笑みたわわ」新発売 富澤商店2025年10月31日 -
【スマート農業の風】(20)GAP管理や農家の出荷管理も絡めて活用2025年10月31日 -
農業経営効率化へ 青果市況情報アプリ「YAOYASAN」に分析機能追加 住友化学2025年10月31日


































