【森島 賢・正義派の農政論】国会が静かに終わった2018年12月10日
今度の国会は、先週末で事実上終わった。最後は翌日未明の国会になったが、静かに終わった。日本には、それほど重大な政治課題はないのだろうか。国会だけを見ていると、そのように見える。
しかし、政治は国会の中だけで動くものではない。どの国をみても、政治は国民が動かしている。国民が、街頭活動など、国会外での運動で、政治を大きく揺るがしている。
しかし、いまの日本にはそれがない。
フランスでは、先月17日(土)に黄色い蛍光色のベストを着た人たちが、全国で28万人も集まって、ガソリン税の増税に抗議するデモを行った。「黄色いベスト」運動と言われている。そして、マクロン政権に増税を中止させた。
この運動は、ガソリン税の増税に反対するだけでなく、大統領が廃止した富裕税の復活や最低賃金の引上げを要求して、いまも毎週土曜日にデモを続けている。
◇
それに対して、大統領は「ガソリンが買えなければ、電気自動車を買えばいい」と言い放った。弱者たちは、マリー・アントワネットの「パンがなければ、ケーキを食べればいい」という発言を思い出して、憤激したという。
つまり、黄色いベスト運動は、強者の側に立つ大統領に対する弱者の反撃である。ここには右翼も左翼もない。弱者たちは力を合わせて、大統領を辞任に追い込もうとしている。
そのために、今後も激しい運動を続けるのかも知れない。あるいは、政権側がガソリン増税を中止して、デモ側の当初の要求を呑んだので、デモ側も、フランスの近代政治史の粋な風習にしたがって、いったん運動を中止するのかも知れない。そうして、勝利の美酒で乾杯するのかも知れない。
◇
いずれにしても、デモの参加者は全国で28万人だったというから、日本の今年5月1日のメーデー参加者の、全国合計の15万人と比べて約2倍である。日本の人口はフランスの約2倍だから、さらに2倍の4倍になる。それほどに大規模な運動である。
そして、この運動がフランスの政治を大きく動かしている。フランスの民主主義には、このように、生き生きとした活気がある。
◇
これと比べて、日本はどうか。
政治は、国会の中だけで動いているように見える。国会外での運動が、ほとんど見えない。国民は、いまの政治に満足しているように見える。
そうした中で、国の骨格を決める入管法が改悪された。これは、財界からの強い要求に応えたものである。少子化による人手不足を補うことが目的だという。
そうだとすれば、少子化は今後も長く続くと予想されるのだから、これまでの移民政策を根本的に変更しなければならない。
◇
日本で働き、日本で生きていきたい、という外国人がいるなら、温かく迎え入れようではないか。日本に同化してもらってもいいし、生まれた国の誇り高い文化を堅持し、日本人も崇敬しているその文化を日本に注入してもらってもいい。
日本は、そうした交流を朝鮮や中国との間で、千年以上も前の大昔から濃密に行ってきた。そうして、日本の文化を磨き上げてきた。近い過去には、南米への移民もあった。
そうした歴史を作った先人たちに習って、交流のための移民制度を整備しようではないか。
◇
しかし、政府にその気はない。だから、移民ではない、と言い張っている。移民と言ってしまうと不都合なのだろう。
それゆえ、こんどの制度変更の目的は、移民制度の整備ではなく、外国の低賃金労働者の、一時的な受け入れだ、ということになる。
一時的な受け入れだから、景気が悪化すれば、すぐに解雇できる。つまり、使い捨てにできる。その上、家族の帯同を認めない。だから、家族の生活費の分は賃金から削れる。財界にとって好都合なのだ。そうした非人道的な制度にしようとしている。
それでも日本人の心は痛まないのだろうか。これを大昔の先人たちが見たら、何というだろうか。
◇
いったい、いま人手不足なのだろうか。使い捨てできる低賃金の労働者が欲しいだけではないのか。もしも、ほんとうに人手不足なら、賃金が上がるはずである。
労働力市場は、これまで人手不足に対して敏感に反応し、賃金を上げてきた。しかし、最近の労働力市場は変質して、人手不足になっても賃金が上がらなくなった。労働規制の野放図な緩和で、非正規労働が拡大したからである。
この労働規制を、さらに緩和するのが、こんどの外国人労働者の受入れ拡大である。
この点でも、国民にとって、重大な制度変更である。直接には、労働者にとって、賃金の引き下げという重大な影響が出る。
◇
しかし、労働組合の反応は鈍い。労働組合の反対運動が伝わってこない。
この制度変更は4か月後の来年4月から施行されるが、それからすぐに影響が出るわけではない。しかし、その後、じわじわと影響が出てくるだろう。賃金の引き下げである。そうなってからでは遅い。
この反応の鈍さに、いまの日本の労働運動の劣化がある。そして、反対運動を組織できない野党の弱体化がある。
これは、農業者にとっても他人事ではない。労働者の賃金が下がれば、農業者の所得も連動して下がるだろう。農業者も黙ってはいられない。
(2018.12.10)
(前回 全共闘世代の退場による高齢化の危機)
(前々回 農業者所得の増大を掲げる次元)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】カンキツ類に果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 高知県2025年10月17日
-
(457)「人間は『入力する』葦か?」という教育現場からの問い【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年10月17日
-
みのりカフェ 元気市広島店「季節野菜のグリーンスムージー」特別価格で提供 JA全農2025年10月17日
-
JA全農主催「WCBF少年野球教室」群馬県太田市で25日に開催2025年10月17日
-
岐阜の飛騨牛や柿・栗など「飛騨・美濃うまいもん広場」で販売 JAタウン2025年10月17日
-
JA佐渡と連携したツアー「おけさ柿 収穫体験プラン」発売 佐渡汽船2025年10月17日
-
「乃木坂46と国消国産を学ぼう!」 クイズキャンペーン開始 JAグループ2025年10月17日
-
大阪・関西万博からGREEN×EXPO 2027へバトンタッチ 「次の万博は、横浜で」 2027年国際園芸博覧会協会2025年10月17日
-
農薬出荷数量は0.5%増、農薬出荷金額は3.5%増 2025年農薬年度8月末出荷実績 クロップライフジャパン2025年10月17日
-
鳥取県で一緒に農業をしよう!「第3回とっとり農業人フェア」開催2025年10月17日
-
ふるさと納税でこどもたちに食・体験を届ける「こどもふるさと便」 IMPACT STARTUP SUMMIT 2025で紹介 ネッスー2025年10月17日
-
全地形型プラットフォーム車両「KATR」、レッドドット・デザイン賞を受賞 クボタ2025年10月17日
-
農業分野初「マッスルスーツSoft-Power」と「COOL-VEST」を同時導入 イノフィス2025年10月17日
-
伝統のやぐら干し「産直大根ぬか漬けたくあん」がグッドデザイン賞受賞 パルシステム2025年10月17日
-
鳥インフル 米モンタナ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月17日
-
鳥インフル 米アイダホ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月17日
-
生産者・消費者協議会「第14回青果フォーラム」開催 パルシステム連合会2025年10月17日
-
リジェネラティブ農業「種まき体験プログラム」藤沢市で初開催2025年10月17日
-
ランチにキウイで栄養課題に挑む オイシックスと特別コラボ実施 ゼスプリ2025年10月17日
-
デルフィニウムの新シリーズ「キャンドルiQ」3品種を発売 サカタのタネ2025年10月17日