【小松泰信・地方の眼力】レイドローを忘れたか2018年12月12日
12月11日の夜から12日の朝にかけて放送されたニュースで、またも不愉快な映像が流された。河野太郎外相が11日の記者会見で、北方領土をロシア領と認めることが平和条約締結交渉の前提としたロシアのラブロフ外相発言に関する質問を無視して、「次の質問どうぞ」を4連発したことである。「沈黙は金、雄弁は禁」とでも言いたげに記者の質問を無視するのは、この政権の十八番ではあるが、もちろん許すべきではない。なぜなら、国民を無視することをも意味しているからだ。外務省記者クラブの抗議には、「神妙に受け止める」とのことだが、この男にも日本語は通じないようだ。そして記者クラブには、もっと怒れ、といっておく。
◆憲法九九条「憲法尊重擁護の義務」違反は「いずも」のこと、ではすまないぞ
東京新聞(12月12日付)は、政府与党が策定中の新防衛大綱に、海上自衛隊の護衛艦「いずも」の事実上の空母化を盛り込む方針が11日に固まったことを報じている。そして「政府は戦闘機を常時搭載しないことを理由に、憲法上、保有できないとされる空母ではないと主張するが、専守防衛の根幹が揺るぎかねない」と、重大な疑義があることを指摘している。ここでもまた、「空母」ではなく「多用途運用母艦」という捏造語で解釈改憲が進められようとしている。多用途の中には空母の概念に該当することも含まれており、空母として認識すべきもの。憲法九九条「憲法尊重擁護の義務」に従えば、その時点でアウト。
「日本が、いくらいずもは多用途運用護衛艦だと言い張っても、中国をはじめアジア諸外国は空母としか見ないだろう。いずもの空母化が中国の軍拡をさらにエスカレートさせ、軍拡のシーソーゲームを招きかねない」と、前田哲夫氏(軍事評論家)はコメントしている。
メディアはもっと追求せよ。ノーベル賞受賞式の報道はもう結構。
◆不正入試です。教鞭は執っても、強弁するな
国会で流通している強弁が、大学でも恥ずかしげもなく流通している。
順天堂大学は10日、医学部入試について調べた第三者委員会の第一次報告書を公表し、女子や浪人生へ差別を行っていたことを認めた(東京新聞、12月12日付)。新井一学長は記者会見において、女子差別について、医学部の一年生は全寮制で「女子学生の収容能力に制限があったため」と説明した。寮のキャパシティで不合格になった女子受験生にとっては、到底納得できる話ではない。かつて勤務した男女共学の短期大学で、年々女子の合格者が増え、男子トイレが毎年1か所ずつ女子トイレにかわっていった。もちろん、女子トイレのキャパシティにあわせて女子の入学を制限することはなかった。女子寮の収容能力もおなじこと。不合格の理由にならないのは明白。
もうひとつの理由も信じられないものである。「女子は男子より精神的に成熟しコミュニケーション能力が高く、面接で高得点になる傾向があった。差を設けたのではなく、男性を救う補正だった」と強調。十数回の面接経験に基づくと、面接時の姿勢や受け答えで、女性が男性よりも高評価を得ることは認める。だからといって、「男性を救う補正」という弁明にも到底納得できないはず。これは、「補正」ではなく、大学が犯した「不正入試」であり、事件である。
安倍ネツゾウ内閣になってから、いかに我が国がモラルハザード国家であるかが明らかになっている。
◆日本農業新聞(12月7日付)の興味深い記事4連発
まずは、JA全中の中家徹会長が6日の定例記者会見で国連委員会のいわゆる「小農宣言」採択について、「地域に根付いた家族農業は重要であり、地方創生の観点からも大切だ」と、歓迎の意を表明したことである。当然の表明ではあるが、農業生産の大規模化や成長産業化にしか興味を示さない農水省が重い腰を上げるよう、きつく要請されることを期待する。
次は、「TPPの波早くも」という見出しの記事である。11か国によるCPTPPの発効に先駆け、大手スーパーのイオンが6日、オーストラリア産牛肉の小売価格を7日から最大2割引き下げると発表したとのこと。CPTTPに伴う海外産の値下げの動きが早くも出てきたものとして、今後他社が追随する可能性を示唆している。イオンの狙いが、「クリスマスや年末でステーキ肉の需要が高まる時期に合わせて値下げに踏み切り、需要喚起につなげる」ことや、新協定発効後の2019年1月には「牛肉の他、果実などでも値下げを検討している」ことを伝えている。
さらに、参院外交防衛委員会が6日、日欧EPAの承認案を与党などの賛成多数で可決したことである。TPPの審議時間が衆参の特別委員会で計130時間であったことと比べて、日欧EPAに関しては9時間の審議時間。関連法を含めても14時間余りと少ない。農林水産委員会との連合審査も開かれなかった。これらから野党側は、農産物の影響を巡る政府の説明や審議時間が不十分であったとして批判した。共産党の井上哲士氏が、EUの対日輸出の試算と農水省の影響試算に大きな差があることを指摘するとともに、「都合の悪い事実にふたをして『万全の対策』と繰り返す姿勢は到底、国民の理解は得られない」と、政府を批判したことも紹介している。
そして、「全県組織で山田氏推薦 参院選」という記事である。来夏の参院選比例代表に全国農政連の推薦候補として出馬予定の山田俊男氏(自民党現職)を、47都道府県すべてのJAグループの農政運動組織が推薦したそうだ。この他にも、農業委員会系統の21全国農政推進同志会、全国たばこ耕作組合政治連盟、全国たばこ販売政治連盟、全国林業政治連盟などから推薦を得たとのこと。
この推薦は極めて重いメッセージを国民に伝えている。すなわち、山田氏を推薦することを通じて、安倍農政に白紙委任状を出す、というメッセージである。「そんなつもりは毛頭ない」という声も想像できるが、この間の政権与党の所業の数々は、結果的にそうなることを暗示している。
もちろん「推薦すれども投票せず」という行動もあり得るが、組織として一度出したメッセージは消えない。今後、「農業を守れ、JAを守れ」と叫んでも、「JAグループは信じられない、信頼できない」という木霊(こだま)がむなしく返ってくるだけである。
◆正気の島から狂気の島へ
我が国、いや世界の協同組合運動に多大なる影響を及ぼしたA・F・レイドロー氏の「現代はまさに文明の大黒柱そのものが揺れている時代なのだ。人類は従来から歩んできた道を単純に延長し、今後もその上をまっすぐに歩み続けることはまず不可能で、新しい方向へ進みうるため、他の進路を捜し求めることになるだろう。このような岐路の時代には、若干狂気じみた方向へ進んでいる世界のなかで......協同組合こそが正気の島(islands of sanity)になるよう努めなければならないのである」という指摘は、我が国のJAグループが狂気の島の構成員と化しつつある今、極めて重く迫ってくる。「沈黙は禁」であるから叫び続ける。
「地方の眼力」なめんなよ
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