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コラム:リレー談話室・JAの現場から

【JCA客員研究員 伊藤 澄一】

2019.01.10 
【リレー談話室・JAの現場から】平成30年の節目に思う一覧へ

 この10年というもの、(1)まるで戦争状態の貿易問題、(2)常態化した世界的な異常自然災害、(3)地域社会での役割を模索する日本の協同組合、(4)現場から見える化するJA自己改革、などの日々であった。換言すれば、「今だけ、金だけ、自分だけ」という風潮と「命を守るための協同」とのせめぎ合いでもあった。

◆疾風怒濤の平成時代が終わる

 (1)平成20年7月末のWTO決裂後に登場して混迷を極めたTPP問題は、アメリカが離脱したTPP11を経て昨年12月に発効した。平成22年10月に民主党・菅首相がTPPバスに乗り遅れてはならないと口火を切り、平成25年7月に自民党・安倍政権が乗り込んで車掌から運転手となった。
 アメリカとは実質の日米FTA交渉が始まる。担当大臣は交渉スタンスを「自動車で攻め、農業で守る」(毎日新聞10月16日)と口にした。交渉の際(きわ)が見えないような譲歩の材料が農業となる。WTOからFTAに至る10年、農業の担い手は高齢化し、食料自給率を高める目標はトーンを落としている。
 (2)農業は人と自然との調和が作りだす果実である。それが地球の温暖化を原因としてバランスが崩れてしまった。さらに豪雨などとともに巨大地震の発生が国土を棄損し、海辺の生活圏に大きな被害をもたらす事態が懸念されている。昨年7月の西日本豪雨では、ハザードマップそのままの被害を受けた岡山県倉敷市真備町の洪水災害が映し出された。
 講演で訪問したJA岡山西管内にある真備町。現世を生きる皆さんの初めての体験が全国の悲しい教訓となった。当コラム(命を守る協同組合運動 18.09.15)でも触れた6月の大阪北部地震、9月の北海道胆振東部地震なども次の首都圏直下の地震、南海トラフ地震への備えを喚起する特異な地震であった。
 南海トラフ地震への対応策も、震源域を駿河湾から日向灘までととらえて、連動するとはいえその時間差を事前避難に向ける政府の対応策も出された(毎日新聞12月12日)。人命を第一に農業を守る新たな取り組みが求められている。
 (3)一方、農漁協、生協、労協など広範な協同組合の連携も始まった。昨年4月のJCA(日本協同組合連携機構)の発足だ。ICA(国際協同組合同盟)の日本版でもあるが、協同組合が国民の理解のもとに定着しておらず、法的にも未整備の日本において多様な実態をもつ協同組合間の連携が組織化した意義は大きい。政府の無理解とのかい離はあるが、SDGs等の取り組みを通じて、市民社会の多様な構成員のひとつとして協同組合に属する人々の協同と連帯を育てる時代がきている。
 (4)石田正昭教授の近著『JA自己改革から切り拓く新たな協同』(家の光協会。10月20日発行)は、その副題-「上からの統治」に挑む「下からの自治」-のとおり、上からの農協改革と現場からのJA自己改革の相違を解説する。「上からの統治」とは、農業政策が農水省・農林議員から官邸・経産省に移って現場無視に拍車がかかり、これが非連続の農業改革の背景であり、上からの農協改革はJAをつぶす意図があるとの警鐘が全体を貫く。
 JAの置かれた過去・現在・近未来を分析し、JAや協同組合に処方を提言する。これまでの紙誌等での指摘をまとめた24講は、JAの組合員・役職員、行政担当者を意識したという。准組合員問題には多くの紙幅が費やされており、楽観してはいけないことを学ぶ。是非とも読んでほしい一冊である。

 

◆高まる地域での役割

 平成ラストの10年は、政権の交代などで農業は左右に振れながら隘路に押し込まれた。農協組織は、それぞれの政権から厳しい対応を受けた。政治も為政者も変るだろうが、この先に楽観的な近未来が待っているとは思えない。一方で、農協組織が農業生産だけを担当すればいいとは誰も考えてはいない。
 少子高齢社会で行政サービスが低下するなか、経済・社会システムの一翼を担っている農協が多様な協同組合や自治体までを含めた地域の一員として果たすべき役割の大きさに疑問の余地はない。

 

(当コラムの伊藤澄一氏の記事)
超高齢社会の地域包括ケア
再吟味-農業の多面的機能
女性総代は人財の宝庫
超高齢社会を「先生」として生きる
JAの地域貢献 小中学校教育と共に
組合間連携 賀川豊彦を「要」に

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