【小松泰信・地方の眼力】あなたは戦争への一票を投じますか2019年7月17日
「五輪の元締め森喜朗元総理はかつて与党の本音をつい言ってしまった。『選挙に関心がない人は家で寝ててくれればいい』と。一方、忌野清志郎は『選挙に行かなくてもいいとか言ってると、君たちの息子が戦争に行ったりするんだ』との言葉を遺している。どうよこの違いは。投票は暮らしに直結するんだぜ」(立川談四楼氏・落語家のツイッター、7月15日)
◆清志郎の遺した言葉が甦る
トランプ米大統領は6月24日、中東のホルムズ海峡近くで起きた日本などのタンカーに対する攻撃に関して、ツイッターに「日本や中国など多くの国はホルムズ海峡を経由して原油を輸入しているのに、なぜ米国が長い期間、無償で他国のために輸送路を守っているのか」と書き込み、「これら全ての国は、自国の船を自力で守るべきだ」と主張。
我が国にも「当事国」として防衛協力を求めたものである。
ロイター通信によれば、米軍制服組トップのダンフォード統合参謀本部議長は7月9日、緊迫するイラン沖のホルムズ海峡などで海上交通路(シーレーン)における民間船舶の航行の安全と自由を守る有志連合を結成するとして、今後2、3週間で参加国を見極める考えを示した。
野上幸太郎官房副長官は10日の記者会見で、有志連合への自衛隊派遣について「コメントは差し控える」と述べるにとどめた。
現政権、二重の意味で真実を語るわけがない。
◆国益重んじ旗幟(きし)を鮮明にせよ、と訴える産経新聞
産経新聞(7月13日付)の主張は、「日本向けタンカーの護衛を他国に任せきりにして、日本は関わらないという無責任な選択肢はとり得ない」として、「旗幟を鮮明にすることが必要である。安倍晋三首相は国家安全保障会議(NSC)を開き、国益を踏まえ、同盟国米国の提案に賛意を示してもらいたい。参院選の最中だからといって後手に回ってはいけない。海上自衛隊の護衛艦や哨戒機などの派遣が検討対象となろう。各政党もタンカーをどのように守ればいいのか、具体的見解を示す責任がある」「政府は自衛隊について、安保関連法により『国の存立を全うし、国民を守るための切れ目ない』対応ができるようになったと強調してきた。そうであるなら、同法や自衛隊法などを活用して、有志連合参加を実現してもらいたい」と、積極的派遣を訴える。
◆冷静な対応を求める地方紙
地方紙の社説には、冷静な対応を求めるものが多い。
北海道新聞(7月12日付)は、まず「憲法9条で海外での武力行使は禁じられ、自衛隊の海外派遣には法的な制約が極めて多いことを忘れてはならない」と、冷静な対応を求めている。そして、「イラン沖の緊迫化は、イランと米英仏独ロ中の6カ国が結んだ核合意から、米国が一方的に離脱してイランへの経済制裁を強めていることに原因がある」とし、「『積極的平和主義』を掲げる安倍晋三首相は、危機回避への仲介に意欲を示してきた。ならば先日訪問したイランだけでなく、米国にも自制を促し、トランプ氏に核合意への復帰を求めるのが仲介役の務め」と、首相の常套句を用いて一本取る。さらに、「米追従の教訓は数知れない。自衛隊を派遣すれば、イランの反発をさらに招く恐れがあろう」と、過ちを繰り返さないように諭している。
京都新聞(7月13日付)も「自衛隊派遣には法的根拠が要る。自衛隊法での海上警備行動や安保関連法に基づく米軍への後方支援なども今回の有志連合に適用するのは無理があり、憲法上の制約を踏み越えることはできない」とするとともに、「そもそも航路の安全確保は国際社会の共通課題である。拙速に有志国だけで対処する危うさは、イラク戦争などからも明らかだ。欧州などと連携し、国連が主体となる緊張緩和の枠組みを目指すのが日本の立場ではないか」と、冷静な対応を求めている。
新潟日報(7月13日付)も、「有志連合が結成されれば、イラン艦船との偶発的な衝突のリスクは高まり、中東地域の一層の緊張激化を招く」ので、欧州などと連携し、「緊張緩和に向けた対話へ導くことこそ、米国とイラン双方と良好な関係にある日本が果たすべき役割」として、米国主導の「有志連合」に対する慎重な対応を日本政府に求めている。
◆「自衛隊員の命を差し出すか、農業を差し出すか」 最後に出てきた選挙の争点
東京新聞(7月13日付)において、纐纈厚氏(明治大学特任教授・政治学)は、「国民の安全安心は、戦力によらない近隣国との独自外交で築くのが、平和憲法の理念」であるにもかかわらず、「安倍政権による集団的自衛権の行使容認と安保法制の成立で、自衛隊の本格海外派兵への道は既に開かれてしまった」と嘆き、「負担増を求める米国の要求を拒むのは、難しいだろう。自衛隊の参加もあり得る」と、悲観的な予測を示している。
だとすれば、有志連合にどう関わるのかは、宗主国アメリカから提起された今選挙の重大な争点である。
もし自公に維新を加えた与党が圧勝すれば、安倍晋三首相のこと、自衛隊派遣を決断する可能性大。
圧勝できなかったときは、我が国の事情を「丁寧」に説明し、最大限の後方支援に加えて、「7月の選挙後まで待つ。大きな数字を期待している」「(牛肉などで)大きな進展が得られつつある」という、トランプ氏お待ちかねのTPP以上の大幅譲歩による日本農業の「売り渡し」を決断することが容易に想定される。
農業・JA界からの批判に対しては、「自衛隊員の命を差し出すか、農業を差し出すか」と国民に訴え、「農業を差し出すこと、やむなし」と言う世論を形成するに違いない。
◆戦争に加担する農業協同組合はいらない
この争点に対して当コラム、いずれもNO! トランプや安倍晋三に差し出す命などないからだ。
自衛隊員の命はもとより、農業を差し出すことは、将来にわたって国民の命を差し出すことを意味している。
日本農業新聞(5月31日付)において、杉本貴志氏(関西大学商学部教授)は、「自由競争経済を否定する協同組合の考え方が全体主義勢力に体よく利用され、協同組合の側も自らそれに進んで関わってきたという、弾圧の歴史以上に深刻に反省すべき負の歴史も経験していた。......ただ排撃することだけが強調される昨今、真摯に歴史を見つめ、先人が果たした功績と犯した過ち、それをもたらした時代背景から学ぶことが、協同組合人にも求められている」と記している。
JAグループの政治運動組織である全国農政連の推薦候補者43人、すべて与党。先人の犯した過ちを繰り返すのか。
戦争したがる政党はいらない。戦争したがる議員もいらない。もちろん、戦争に加担する農業協同組合もいらない。
「地方の眼力」なめんなよ
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