【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(145)「視点」を変えることの難しさ2019年8月30日
ある事柄やモノに対する「見方」には様々なものがある…と、頭ではわかっていてもなかなかそれを体感として理解することは難しい。この問題は、自宅や町内会のゴミ捨てルールのようなローカルな(悪い意味ではない)事象から企業経営や国際問題などのグローバルな事象に対しても様々な影響を与える。
私達の多くは物事を見る時に、知らず知らずのうちにある特定の考え方や価値観の影響を受けている。大昔、大学で言語学を学んだ際、そこでソシュールの言語に対する見方を教えて頂いた。「モノは名づけられて初めてその意味を獲得する」だの、「ある特定の言語を話すということは、その言語のもつ価値観に無意識のうちに影響を受ける」だの、うろ覚えで正確な表現ではないが、そのような内容であった。
その当時は、用語や意味の理解をすることは試験対策用であったが、後年、いろいろな人と仕事をするうちに、いくつかの面白い現象に気づくようになった。
例えば、今まで何となく言葉の上では理解し、当たり前だと思っていたことは、こういうことだったのか、などということがある。小さい子供が「家族」について作文を書けという宿題を出されて、初めて自分にとって「家族」とは何かという当たり前のことを「考え」「概念化」し、それを「言語化」するようなものかもしれない。
その後、現実社会の生活に追われ、こうした思考とは距離を置いていたが、大学に職場を移した後のさまざまな経験と軋轢を通じて、言語としての理解と、体感としての理解とは全く異なることなど世の中には限りなく存在することや、こうした問題を学問として、あるいはその手法を徹底的に問い詰めた偉大な人達が沢山存在することもわかるようになった。40~50代の自分が初めて真剣に考えたことは、他の世界で既に大昔からしっかりと考えられていたことを知り(つまり私には見えていなかった)素直に驚くとともに、同じ現象を本当に様々な視点から解釈すること、それを記述することが出来るということについても体感として理解できるようになった気がしている。
「視点が異なれば見えるものが違う」(これはフーコーの『臨床医学の誕生』の中にあったような気がする)ということを教室で講義すると、皆うなずくが、なかなか学生が体感として理解できる事は少ない。そこでよく使う例は、最寄りの駅と職場とのバス通学(通勤)の例である。筆者の職場は最寄り駅からバスで30分弱であり、この10年以上、毎朝毎晩このルートでの通勤を続けている。学生達は基本4年間同じことをする。その途中にどのようなお店があり、どのお店の前の花壇に何の花が植えられているか、どの家の表札は縦型や横型かなど、気にしない学生が大半かもしれない。週に5日、月に20日、年に240日、4年間で約1000日、10年であれば1万回も同じ風景を見ていながら、意識して「見ようとしていない」が故に目の前にあっても見えないことになる。
健康上の理由から最近では1日の歩数ノルマを設定し、それに足りない時は少し前のバス停で下車し途中を歩くようにしたところ、今まで1万回以上目にしていたのに、気が付かなかった様々なディテールに気が付くようになった。「視点を変えるとはこういうことか」と思わぬ再認識した次第である。
面白いことに、それも何か月続くと、バス通勤と同じように「当たり前」の風景として無意識の存在になりつつある。今朝もある同僚と雑談していた際、「視点を変えるには具体的にどうしたらよいか?」と問われ「行動を変えること」と答えたが、徒歩による視点の変換もそろそろマンネリ化しつつある。ルートの変更もやり切ったので次は時間の変更か、その次は負荷をかけて移動するかなど、何をどのように変えるか...、まさに個人ベースで可能な刺激と反応の社会実験のようだ。だが、思考と視点のマンネリ化を防ぐためにはやらざるを得ない...そうでなくても年齢とともにともすれば新しい視点を身に付けにくくなっている以上...。
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